自動運転の移動サービスサポート「あいおい vs SOMPO」の構図が鮮明に

永平寺町ではあいおいが自動運転向け自動車保険を提供

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あいおいニッセイ同和損保(以下あいおい)とMS&ADインターリスク総研が、福井県吉田郡永平寺町でスタートした遠隔型無人自動運転移動サービスにおいて自動車保険を提供し、自動運転移動サービスの実現を後押ししている。

損害保険各社は各地の実証に積極参加し、自動運転におけるリスクアセスメントの研究などを進めてきたが、自動運転技術の社会実装段階を迎え、保険サービスも本格化の兆しを見せているようだ。

これまでの実証においては、損保ジャパン(以下SOMPO)がコネクテッドサポートセンターを開設するなど存在感を発揮していたが、あいおいも負けじと自動運転移動サービスへの保険提供を勝ち取った形だ。

この記事では、両社の取り組みを中心に自動運転実証、及び実用化に向けた保険サービスの動向に触れていく。

■あいおいの取り組み:保険商品の開発や事故対応の体制構築支援

あいおいは2015年12月、自社グループ(MS&ADインシュアランスグループ)の三井住友海上火災保険とともに自動運転実証におけるリスクを補償する「自動走行実証実験総合補償プラン」を共同開発し、販売を開始した。2016年6月には、遠隔型自動運転に対応したプランへの改定、2017年12月には道の駅などを拠点にした自動運転実証に対応したプランの開発を行うなど、順次アップグレードしている。

2016年12月には、自動運転技術の研究開発を進める群馬大学と次世代モビリティ社会実装研究に関する協定を締結し、同大学内に研究室を設置したほか、同大が実施する実証などに積極参加し、より実態に即した研究を本格化させている。2020年7月には、同大発スタートアップの日本モビリティと資本業務提携を交わし、協働体制を強化している。

2018年8月には、日本総合研究所が設立した「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」にも参画し、以後、同コンソーシアムが神戸市などで実施している実証を通じて、保険商品の開発や事故時の対応に関わる体制構築のサポートなどに取り組んでいる。

【参考】群馬大学との取り組みについては「あいおいと群馬大学、自動運転車の異常検知方法で特許取得!」も参照。

日本初の遠隔型無人自動運転移動サービスが永平寺町でスタート

永平寺町における自動運転移動サービスは、政府の成長戦略フォローアップに掲げられた「2020年中に限定地域で無人自動運転移動サービスを実現」するため、産業技術総合研究所を中心にヤマハ発動機、日立製作所、慶應義塾大学SFC研究所、豊田通商らが研究開発と実証を進めてきた取り組みで、鉄道廃線跡地を活用した自転車・歩行者専用道路「永平寺参ろーど」をルートに、小型電動カートが時速12キロ以内で走行している。

2016年度に実証に向けた取り組みに着手し、2020年12月から1人のドライバーが遠隔で3台の自動運転車を常時監視・操作するレベル2で試験運行を開始した。2021年3月に遠隔監視・操作型の自動運行装置を備えたレベル3車両として国土交通省から認可を受け、レベル3自動運転移動サービスとして本格運行を開始している。

レベル3の運行においては、遠隔地のドライバーが常時監視する形態から、一定環境下においては常時監視を不要とする形態に移行するため、オペレーションを含めた総合的なリスクの洗い出しが必要となる。

そこで、あいおいやインターリスク総研がレベル3を想定したリスクの洗い出しやリスク低減策の検討を進めるとともに、リスクの実態に合わせた合理的な保険料の自動運転移動サービス向けの自動車保険を提供することで、安全性・採算性の両面からサービスの円滑な運行を支援している。

【参考】永平寺町における自動運転移動サービスについては「誘導線を使う自動運転レベル3で移動サービス!福井県永平寺町でスタート」も参照。

■SOMPOの取り組み:オーダーメイド型の保険商品・設計で強み

SOMPOは2016年6月、自動運転の実証実験を実施する事業者らに向けた専用保険「自動運転専用保険(実証実験向けオーダーメイド型)」を開発・提供を開始した。自動運転に関わるリスクを包括的に補償する専用保険やリスクコンサルティング、走行データ分析を活用した専用サービスで構成されており、実証実験のさまざまな形態に対応するためオーダーメイド型の商品としてニーズに合わせた柔軟な設計を可能にしている。

2018年9月には、ティアフォーやアイサンテクノロジー、KDDI、マクニカらの協力のもと、無人の自動運転車の遠隔監視・操舵介入や事故トラブル対応などの総合サポートの研究を目的とした遠隔型自動運転運行サポート施設「コネクテッドサポートセンター」を開設した。

2019年 2月には、自動運転サービス実証を支えるインシュアテックソリューション「Level IV Discovery」の共同開発を目的にティアフォーとアイサンテクノロジーと業務提携を行い、同年7月にはティアフォーと資本提携を結ぶなど、関係強化を図っている。2020年8月には、マクニカとも自動運転の社会実装に向け協業を開始している。

2020年10月には、無人宅配などを担う自動走行ロボットの実証実験を行う事業者を対象とした自動走行ロボット専用保険プラン(実証実験向けオーダーメイド型)」の開発、2021年4月には「後続無人の隊列走行向け自動車保険プラン」の開発についてそれぞれ発表するなど、さまざまな自動運転に対応した保険商品の開発を推し進めている。

■パートナー企業の存在がカギを握る

損害保険各社の取り組みにおいては、自動運転開発・実証を担うパートナーの存在が大きい。国内有数の実証実績を誇るティアフォーらと手を結ぶSOMPOは、多くの場で知見を重ねる機会を得ており、これまでの自動運転実証におけるリスクアセスメント領域をリードしてきた印象が強い。

一方のあいおいも、群馬大学など強力なパートナーとともに実績を積み重ねてきており、そうした成果が永平寺町での自動運転移動サービス向けの自動車保険の提供へとつながっている。

損保大手では、東京海上日動火災保険が2016年3月、自動運転車の公道実証に向けた専用保険を開発したことを発表し、合わせて金沢大学・石川県珠洲市による自動走行システム実証実験プロジェクトや、名古屋大学と愛知県による自動車安全技術プロジェクトに参画することも発表している。

2018年10月には、トヨタとTRI-AD(現ウーブン・プラネット・ホールディングス)と高度な自動運転の実現に向け業務提携に合意したことも発表しているが、自動運転移動サービスに向けた具体的な取り組み・実証の点では、損保ジャパン、あいおいの2社に先行を許している印象を受ける。

今後、続々と自動運転サービスの社会実装が進んでいくものと思われるが、今しばらくは自動運転システムが開発者の手から離れて独り歩きすることはない。開発者や実証事業者と密接な関係を保ち、適時サポートを受けながら実用化は進んでいく。

このため、実証段階から協力体制を構築しておくことが肝要となる。実用化の際もその体制のまま移行するのがスタンダードとなるからだ。

■【まとめ】自動運転における損保「SOMPO vs. あいおい」の構図鮮明に

現状、自動運転をめぐる国内損保は「SOMPO vs. あいおい」の様相を呈してきた印象だ。両社ともさまざまな自動運転の形態に合わせたサービス展開に向け研究に余念がなく、今後も熾烈なデッドヒートが続きそうだ。

また、自動運転開発や実証事業者、実用化の舞台となる自治体など、パートナーをめぐる競争も表面化していくことが考えられる。リスク分析のプロである損保各社の動向に引き続き注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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