自動運転タクシーの世界は、Google傘下のWaymo(ウェイモ)とAmazon傘下のZoox(ズークス)という「2大巨頭」の争いへと動き始めた。2026年3月25日、世界最大のECプラットフォームを持つAmazonの自動運転子会社・Zooxが、ラスベガスとサンフランシスコのサービスエリアを大幅拡大するとともに、新たにオースティン(テキサス州)とマイアミ(フロリダ州)への進出を発表した。
さらに同月には、世界最大の配車プラットフォームを持つUberとの戦略的提携も実現。ラスベガスを皮切りに2026年夏からUberアプリ経由での配車が可能になる。Amazonという資本の後ろ盾と、Uberという世界最大の配車ネットワークを手にしたZoox。今後の自動運転タクシー(ロボタクシー)はWaymo1強の時代から、複数の有力プレイヤーが競い合う「群雄割拠」のフェーズに突入しつつある。
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■ZooxはAmazonが2020年に買収した自動運転スタートアップ
Zoox(ズークス)は2014年にカリフォルニア州フォスターシティで設立された自動運転スタートアップだ。2020年にAmazon.comが約12億ドルで買収し、現在はAmazonの独立子会社として運営されている。本社は引き続きフォスターシティに置き、「目的地専用設計(パーパスビルト)」のロボタクシー開発に特化している。
Zooxの特徴はその車両デザインだ。既存の市販車を改造して自動運転システムを搭載するアプローチとは異なり、ステアリングホイールもペダルも運転席も持たない。最初からロボタクシーとしてのみ使うことを前提に設計された専用車体だ。その独特の形状から「トースター」と呼ばれることもある。4人まで乗車でき、座席が向かい合わせに配置されている点が乗用車ベースの競合との大きな差別化ポイントとなっている。
■約200万マイルの自動走行実績と35万人超のライダー
Zooxは2025年9月からラスベガスで、同年11月からサンフランシスコで一般向けの無料ライドサービスを開始した。2026年3月時点で累計の自動走行距離は約200万マイル(約320万km)に達し、これまでのライダー数は35万人超。さらに50万人以上がウェイトリストに登録しているという。
有料化に向けたNHTSAの審査が進行中
現時点では無料サービスに限られている。Zooxが有料サービスを開始するには米国道路交通安全局(NHTSA)からの商業許可が必要で、2026年3月11日から30日間のパブリックコメント期間が始まった。最大2,500台のロボタクシーを公道で商業的に運行するための連邦自動車安全基準(FMVSS)適用除外申請が審査中だ。Zoox CEOのAicha Evans(アイチャ・エバンス)氏は「特にラスベガスでは有料化の準備が整っている」と自信を見せている。
■なぜラスベガスで?自動運転に最適な「特殊環境」の理由
Zooxがラスベガスを最初の商用展開地に選んだのは偶然ではない。ラスベガスには自動運転にとっていくつかの「好条件」が重なっている。まず気候だ。ネバダ州ラスベガスは年間300日以上が晴天で、雨雪が少なく、センサーの誤作動を招く悪天候が少ない。さらにストリップ(大通り)沿いに大型ホテル・カジノ・エンタテインメント施設が密集しており、短距離の点と点の移動需要が非常に高い。
ラスベガスには24時間稼働の経済があり、深夜・早早朝にも移動需要が途絶えない。自動運転にとって「いつでも稼働できる」都市環境は収益性の観点でも重要だ。加えてネバダ州は自動運転規制が比較的柔軟で、テスト・商業展開の許可取得が他州より進めやすい。これらの条件が重なり、ZooxはラスベガスをWaymoが最初にフェニックスを選んだのと同じ論理で「第1市場」に据えた。
■今回の拡張でラスベガスはどう変わるか
2026年3月25日の発表でZooxはラスベガスの乗降地点を2倍超に拡大した。新たに加わった主な目的地はThe Sphere(スフィア)、T-Mobileアリーナ、ラスベガス・コンベンションセンターなど。既存のArea15、トップゴルフ、ファッションショーラスベガス、ラクソール、リゾーツ・ワールド、ウィンなどと合わせ、ストリップ沿いの主要スポットをほぼ網羅する形になる。さらにハリー・リード国際空港への乗り入れに向けたテストも開始しており、空港アクセスが実現すれば観光客の利用が飛躍的に増える見込みだ。
サンフランシスコではエリアを4倍に拡大
ラスベガスと同時に、サンフランシスコでもサービスエリアが大幅に拡大した。これまでZooxのSFエリアはミッション地区周辺に限定されていたが、今回の発表で約4倍に拡大。マリナ、ノースビーチ、チャイナタウン、パシフィックハイツ、エンバーカデロ沿いなど東半分の主要エリアをカバーする。テクノロジー企業が集積するこの都市でのエリア拡大は、Zooxにとって「生活インフラとしてのロボタクシー」を検証する重要な機会となる。
【参考】関連記事としては「Google無人タクシー、東京都心部で走行開始まで「あと数ヶ月」か?最初は“無人”ではない可能性」も参照。
■世界最大の配車ネットワークUberとの提携
2026年3月11日、ZooxとUberは戦略的パートナーシップを発表した。ラスベガスで2026年夏からUberアプリ経由でZooxのロボタクシーを配車できるようになり、2027年にはロサンゼルスにも拡大する計画だ。これはZooxにとって初めての第三者プラットフォームとの提携となる。
Uberのダラ・コスロシャヒCEOは「AVはUberプラットフォームで単独アプリより車両あたりの稼働率が30%高い」と語っており、集客チャネルを二重化することで稼働率の最大化を図る狙いだ。UberはすでにWaymo(オースティン・アトランタ)やPony.AIなど25社以上の自動運転企業と提携しており、Zooxが加わることで「ロボタクシーへの乗り入れ口」としての地位をさらに強固にする。
【参考】関連記事としては「米Uber、自動運転タクシーの「1兆ドル市場」独占か」も参照。
■Zooxの次なる戦場、オースティン・マイアミ
2026年3月25日の発表で新たに公表されたのがオースティンとマイアミへの進出だ。両都市ではすでに2024年からトヨタ・ハイランダーをベースとした改造テスト車両を使い、AIの学習データを積み上げてきた。この実績をもとに、いよいよ本番車両であるパーパスビルト・ロボタクシーを投入するフェーズに移行する。
当初は社員向けの限定走行から始まるが、その後、待機リスト登録者が試乗できるプログラムへと拡大する。オースティンはWaymoがすでに商用サービスを展開している都市でもあり、Zooxとの直接競合が生まれる初めての市場となる。マイアミも観光需要が旺盛な都市として、新たな顧客層の開拓が期待されている。
2026年内にさらなる都市展開も視野
3月9日の発表ではダラスとフェニックスへの改造テスト車両の展開も公表された。これはアトランタ、ロサンゼルス、シアトル、ワシントンDCと合わせ、将来の商業展開候補地として地図作成・AIトレーニングを進めているリストに加わる。Evans CEOは「2026年は成長の年だ」と表明しており、年内のさらなる都市展開が期待される。
【参考】関連記事としては「自動運転はいつ実用化?レベル・モビリティ別に動向・有力企業を解説」も参照。
■Waymoは週40万回の乗車を実施中
Zooxが急拡大する一方で、リーダーのWaymoはさらに先行している。2026年2月時点でWaymoは週40万回以上の有料乗車を提供し、米国内10都市で展開中だ。フリート台数は3,000台超、累計有料乗車回数は1,400万回に達する。Alphabetが出資し、2026年2月には160億ドルの追加調達を完了するなど、財務体制も盤石だ。
Waymoの国際展開も加速しており、2026年4月にはロンドンで公道テストを開始。東京でも日本交通・GOと組んで都内7区でのデータ収集走行を継続している。Zooxが「有料化前夜」にあるのに対し、WaymoはすでにオースティンのUberアプリで配車可能にするなど、実用化のステップで一歩先を行っている。
■Waymoを追うZooxの勝算
Zooxの最大の武器は「体験の差別化」だ。市販車ベースのWaymoに対し、Zooxは「乗客体験のためだけに設計された」専用車体を持つ。双方向走行が可能な設計や向かい合わせの座席配置、低ステップの乗降口などは、グループでの会話や移動の快適性に特化している。
ユーザーが単なる移動手段としてだけでなく、「どのような車内体験を選ぶか」という視点を持つようになれば、Zooxの独自性は大きな強みとなる。Amazonは物流分野でも自社ロボットの展開を進めており、Zooxの成功はAmazonのモビリティ戦略全体にとっても重要な意味を持つことになるだろう。
【参考】関連記事としては「Googleの自動運転タクシー、東京で来年展開か」「自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?」も参照。
■ロボタクシーは「2大巨頭」の競合時代へ
Amazon傘下のZooxがエリアを大幅拡大し、Uberという強力なパートナーを得たことで、ロボタクシー市場は新たな局面を迎えた。これまではGoogle系のWaymoが圧倒的な先行者利益を享受してきたが、Zooxは独自の車両コンセプトとAmazonのリソースを武器に猛追を開始している。
2026年は、自動運転タクシーが一部の実験的サービスから、都市の重要なインフラへと進化を遂げる「社会実装」の年となる。WaymoとZoox、AmazonとGoogleという巨大テック資本が激突するモビリティの未来から、今後も目が離せない。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)