自動運転と除雪(2023年最新版) 各地で実証実験、実用化は可能?

投雪作業の自動化や歩道除雪機用人検出システムも

B!
出典:エバーブルーテクノロジーズ・プレスリリース

除雪作業に関して各地方で人手不足などが深刻な問題になっている。こうした課題を解決するため、自動運転技術を取り入れるという試みが全国で行われている。この記事では、各地で実施されている実証実験を紹介しよう。現在どこまで技術的なレベルは向上しているのか。

■福島県:5Gを活用した除雪車両の遠隔運転

NTTドコモ東北支社とNTTコミュニケーションズは、福島県昭和村で5Gを活用した除雪車両の遠隔運転を2023年2月に成功させた。

昭和村が実施する「5Gを活用した除雪車両の自動運転に向けた実証事業」を受託し行われたもので、5Gと高精度な位置測位システム「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」を利用し、除雪車両を遠隔運転するという内容であった。

実証では、除雪車両と遠隔の操縦室のオペレーターを5Gでつなぎ、アクセルやブレーキ、ハンドル操作などの情報を伝送し、除雪車両を遠隔地から運転した。屋内で除雪作業が可能になることで、オペレーターの精神的、肉体的な負担を軽減することが期待される。

また、除雪車両と除雪区間の道路上の対象物の位置情報を遠隔の操縦室から把握できるシステム「VRガイダンス」を導入し、操作性を検証した。その結果、豪雪時など視界不良時の遠隔運転で路肩に落ちる事故を防ぐことが可能になるなど、安全性向上への効果が見込めることが確認できたという。さらに、除雪車両の位置を正確に把握できるため、オペレーターの感覚に頼らない除雪作業が可能となり、除雪作業のムラを防ぐことが期待できるという。

【参考】関連記事としては「成功!除雪の自動運転に向けた実証事業 福島県昭和村で」も参照。

■新潟県:除雪作業を自動化した除雪トラックを試行的に導入

国土交通省北陸地方整備局は、新潟県で2021年12月から除雪作業を自動化した除雪トラックを試行的に導入している。

除雪トラックの車両前方のショベルなどを自動化したもので、GPSの位置情報と事前に読み込んだ地図情報をもとに、交差点などであらかじめ設定された操作が自動で行われるという仕組みのようだ。これにより、運転手はショベルのレバーを操作することがなく、除雪作業を行うことができる。

北陸地方整備局が民間企業に委託してシステム開発を行った。2018年度から実証実験などを行ってきたという。

■北海道:無人自動除雪ドローンの実証実験

帆船型ドローンの製造販売などを手掛けるエバーブルーテクノロジーズは、小型除雪ドローンの商品化の可能性を模索、商品化することに先立ち、無人化した除雪機による実証実験を北海道滝川市で2023年2月に行った。

同社はこれまで水上でのドローン開発を行ってきたが、そのコア技術となる自動操船ユニット「eb-NAVIGATOR」や連携するオリジナルスマホアプリ「eb-CONNECT」はユニット構成のため、機体・船体形状に依存せず汎用性が高いことからさまざまな用途での展開が容易で、陸上でのドローンの実験も行っているという。

「除雪ロボ(プロトタイプ)」を開発するにあたり、最初のアプローチとして既存の小型除雪機を遠隔操作可能に改造し、同社の自動操船ユニット「eb-NAVIGATOR」を接続、搭載することで自動操縦化したという。また、オリジナルスマートフォンアプリ「eb-CONNECT」により、自車位置のテレメトリー、経由地と目的地を設定しての自動操縦が行えることを確認した。

雪上での機動性や位置精度、安定性のほか、除雪性能が人力で操作する場合と同等であることなども確認できたという。今後は除雪ドローンの商品プロトタイプを製作し、2023年冬頃をめどに商品化する予定のようだ。

■北海道:自動運転技術の活用による除雪車の運転支援

国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所と愛知製鋼、NIPPO、アイシン・ソフトウェアは、「自動運転技術の活用による除雪車の運転支援及び道路構造・管理に関する共同研究」を行い、その報告書を2021年1月に発表している。

研究では、冬期環境下の苫小牧寒地試験道路において、自車位置推定技術及び周囲探知技術を搭載した除雪機械を実走行させた。それにより、道路環境と走行性の基本性能を把握し、自動運転技術の活用及び道路インフラとの協調による除雪車の運転支援技術の開発、除雪車の運転支援技術の導入に伴う道路構造の改善方法、道路管理の運用方法について検討を行ったという。

この研究では、暴風雪による視程障害時でも安全に除雪作業が行える運行支援技術として、自車位置を推定し車線内を走行するための車線逸脱防止技術の開発に取り組み、自動走行技術の進展に伴い道路構造・管理への影響の基礎整理、道路インフラ側からの自動運行補助施設として、磁気マーカの設置手引き(案)を取りまとめている。

■北海道:ロータリ除雪車の投雪作業自動化

国土交通省網走開発建設部では、ロータリ除雪車の投雪作業自動化について、国道334号知床峠、国道38号狩勝峠での実証実験を経て、2022年度から国道334号に実働配備している。

準天頂衛星「みちびき」に対応した受信機や、運転支援ガイダンスと投雪装置の自動制御システムを除雪車に搭載することで、ブロワ装置の投雪方向切り替え自動化とシュート装置の投雪方向切り替え自動化を実現した。また操作レバーの集約や、雪の量に応じ除雪速度を自動コントロールする除雪速度制御装置なども搭載しており、操作の省力化を行っているという。

■北海道:歩道除雪機用人検出システムの実証実験

北海道大学工学研究院の江丸貴紀准教授は、同大学札幌キャンパスで歩道除雪機用人検出システムの実証実験を2023年2月に行った。

一般的に除雪機による除雪作業は、照明の少ない夜間に行われるため、安全上、運転手の他に少なくとも1人が除雪機の前を歩いて誘導する必要があるという。1台の除雪機に対して1人の誘導員が歩く距離は1日10キロになることもあり、ホワイトアウトのような悪天候時はドライバーの視界が狭くなり、危険な労働環境が課題となっている。

研究しているのは、建設機械メーカーのNICHIJOとの共同で実施している歩道除雪機用のリアルタイム人検出システムの開発だ。除雪機の上に2組のLiDARやRGBカメラ、サーモカメラを搭載しており、人の検知だけでなく、除雪機との距離を計算するアラートシステムを構築したという。これは、20メートル以内に人が近づくと、オペレーターに通知を送り、10メートル以内に人が近づくと「DANGER」アラートが表示されるという仕組みになっている。

なお、除雪機の上にGPSアンテナも設置するとともに、RTKも採用し、センチメートル単位での自己位置推定を可能にしている。3年後の社会実装を目指す。また、将来的には自動運転除雪機の走行も開発していくという。

■高速道(NEXCO中日本):除雪車の梯団走行を自動運転化

NEXCO中日本とNECは、除雪車の梯団走行について自動運転化に向けた技術開発に着手したことを2023年7月に発表した。

降雪時の高速道路では、これまで除雪車の梯団走行による複数車線の除雪作業を行ってきた。これには、除雪車1台につき熟練した運転技術を有する者と除雪操作装置や周囲確認などをおこなう者の計2名が乗車している。しかし、除雪車の運転技術者の担い手不足が深刻な問題となっていることから、少人化・省力化を目的とした自動運転化に向けた技術開発をするに至ったという。

「各除雪車が異なる走行軌跡を自律走行する」と「後続車両が先行車両と異なる軌跡を適切な車間距離を保ちながら走行する」ことが開発のポイントで、現在は隊列→梯団→隊列の走行形態における先頭車両のハンドル操舵と2番目・3番目車両のハンドル操舵・速度制御について、人の手を介さずプログラム制御する試験走行を行っている段階だ。

2024年度内の自律走行技術および梯団走行時における車間距離の保持技術の完成を目指している。将来的には、除雪車の2番目・3番目車両について、除雪装置操作者などを含む運転技術者を2名から1名に減らした梯団走行の実現を目標にしているという。

【参考】関連記事としては「NEXCO中日本、高速道の除雪を自動運転化へ」も参照。

■【まとめ】多様な作業に自動運転技術を導入

除雪機の自動運転技術といえば、自動運転走行をイメージしがちだが、投雪の自動化や歩道での除雪機による人検出など、多様な作業に取り入れられることが分かった。また、除雪作業中は事故も起きやすいため、早期の実用化が期待されていることにも着目したい。

【参考】関連記事としては「雪道にも自動化の波!国も推進する「自動運転×除雪」」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事