台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(Foxconn=フォックスコン)が展開する世界最大級のEV(電気自動車)開発コンソーシアム「MIH」が、その規模をさらに拡大している。
近々の発表では、参画メンバーが2,600社を超えたという。自動運転車の受託製造を見据えた世界最強の企業連合と言っても差し支えなさそうだ。
また、2023年10月開催予定のジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)でプロトタイプを初披露する計画も発表された。着実に開発は進んでいる様子だ。
開発の成果がまもなく表舞台に登場することになりそうだが、MIHとはどのような組織なのか、改めて概要と最新動向に迫る。
【参考】関連記事としては「自動運転関連の主な団体一覧(2023年最新版)」も参照。
記事の目次
■MIHの概要
EV開発や製造にイノベーション
Foxconnは2020年10月、自社イベントの中でEVソフトウェア・ハードウェアのオープンプラットフォーム「MIH(Mobility in Harmony)」構想を発表した。
モビリティ業界でのコラボレーションを促進するオープンなEVエコシステムを構築し、参画する多くの企業とともにEV開発・製造のすべての面でイノベーションを起こしていく――といった大規模プロジェクトだ。
参入障壁が高い自動車業界に対し、エコシステム内のメンバーが総力を結集してリファレンスデザイン・オープンプラットフォームを構築し、開発と製造におけるハードルを下げてスマートモビリティ領域にイノベーションを巻き起こす狙いだ。
MIHのCEO(最高経営責任者)には、フォードやフィアットクライスラー、NIOで要職を務めてきたJack Cheng氏が就任している。
メンバーは2,600社超に、日本企業も多数参画
コンソーシアムは翌2021年に正式始動し、瞬く間にその輪を拡大していく。Foxconnによると、2023年4月時点で参画企業は2,600社を超えているという。
日本からも、ティアフォーやTDK、タジマモーターコーポレーション、西濃運輸、日本電産リード、日本通運、日本理化工業など、数十社がメンバーに名を連ねているようだ。現地法人を介して参画する例やティア2以下の企業、新規参入する企業なども多く、関心の高さがうかがえる。
■MIHの動向
「プロジェクトX」スタート、2023年中にプロトタイプを発表
MIHは2022年11月、イノベーターに向けたオープンかつ非依存的なEVプラットフォームとなる「プロジェクトX」を発表した。
モジュール設計アプローチと標準化されたインターフェースを活用した「BYOV(Build Your Own Vehicle)」モデルにより、イノベーターはより短期間・低コストで次世代モビリティを導入することが可能になる。
パートナー企業は、モジュール式で高度にカスタマイズ可能なシステムにより、車両の仕様を自由に選択し開発できるようになる。
デモンストレーションモデルとなる第一弾は、Aセグメントの3人乗りモデルで、2023年末までに発表する計画だ。また、数年以内に6人乗りや9人乗りの車両プラットフォームもリリースし、より多くの選択肢によって多くのイノベーションを可能にしていくという。
米国にイノベーションハブを設立
2023年1月に開かれた技術見本市「CES 2023」では、米オハイオ州にあるFoxconnの既存施設近隣にイノベーションハブを設立すると発表した。
イノベーションハブは、EVやモビリティプロジェクト、自動車メーカー向けの新しい技術・ソリューションの展開に向け、グローバルなサプライチェーンパートナーを集めて専門知識を共有する拠点となる。
Foxconnの米国内のリソースとインフラを活用することで、米国におけるEVのイノベーション加速や製造業の活性化を図っていく計画としている。
ジャパンモビリティショーでプロトタイプ初披露
2023年4月の発表では、プロジェクトXの第1弾となるプロトタイプを同年10月に東京で開催される「Japan Mobility Show 2023」でデビューさせる予定であることを明らかにした。
Jack Cheng CEOは、プロジェクトXに基づくB2Bアプローチによってタイや日本を含む東南アジアで概念実証(POC)プロジェクトを開始する予定とし、トゥクトゥクやミニバン、3.5トントラックなどの商用車を含む新しい範囲のEV開発を進めていく方針としている。
■MIHにおける開発
14のワーキンググループがMIH内で活動
コンソーシアム内には、パワートレイン、車体構造、熱管理、エネルギー管理、ビークルダイナミクス、クラウドサービス・開発プラットフォーム・ツール、EEA、ミドルウェア・ランタイム、自動運転、セキュリティ・OTA、コネクティビティ、スマートキャビン、UX、テスト・認証――の14のワーキンググループが設置されている。
EVパワートレインの開発や車体の軽量化、3Dプリントを活用した製造方法、エネルギー管理システム、バッテリー技術、クラウドサービス、アプリ開発を容易にする開発ツール、無線接続におけるセキュリティ、分散型ネットワークによる保護機能、車内体験における新しいユースケース、ユーザーエクスペリエンス、EV関連技術の試験や認証基準の標準化など、その内容は広範に及ぶ。
参画する各企業がそれぞれの得意分野における技術を持ち寄り、研究開発面で連携しているのだ。
自動運転はティアフォーが主導
自動運転ワーキンググループは、ティアフォーのクリスチャン・ジョン氏が議長を務め、ADASや自動運転機能の共通インターフェイスやセンサーフュージョン、エッジコンピューティング、HDマップ統合などを定義付け、これらの機能を開発者向けにオープン化している。
自動運転ソフトウェア「Autoware」のAWF Open AD Kit仕様とリファレンス実装を活用し、レベル2やレベル2+のADASをはじめ、レベル3やレベル4実現に向け、センサーフュージョンベースのローカリゼーションやHDベースのナビゲーション、フリート管理、自動バレーパーキングなどさまざまな技術開発を進めている。
CES 2022では、MIHとティアフォーが共同で自動運転技術を展示するなど、着実に成果を上げているようだ。
報告によると、2022年までにDbW API(Drive-by-Wire)V1.0の標準化されたインターフェースの開発を完了し、MIH DbW APIを採用したAutoWare OSSを車両アプリケーション向けに正式リリースしたという。
ロードマップとしては、2022年までに自動バレーパーキングやHDマップベースのナビゲーションなどに関するAPIを公開し、2023年中に自動レーンチェンジやトラフィックジャムパイロットといったレベル3、レベル4向けのフリートマネジメントシステム、そしてロボタクシーに向けたソリューションを公開していく計画のようだ。
【参考】MIH×ティアフォーについては「自動運転EVを容易に量産できる未来!MIH×ティアフォーに秘める可能性」も参照。
バッテリーマネジメントや車体構造
エネルギーマネジメントワーキンググループは、走行距離を延ばし全体的なEV電力効率を最適化するためのオープンなバッテリーマネジメントシステム(BMS)の構築に専念している。
AI(人工知能)モデルとオープンAPIを通じてモジュール化設計し、車両制御管理システムや運転支援システムなど複数システムとデータを交換して車両全体の電力効率を最大化するシステムのほか、バッテリーの状態をリアルタイムで監視するバッテリー記録システムの開発などを進めているようだ。
車体構造ワーキンググループは、さまざまなコンポーネントに最適な材料を特定して軽量ボディ構造を開発し、複数の材料を車両設計に適用して柔軟な構造の車体を実現できるよう開発を進めているという。
スマートキャビンワーキンググループは、車載インフォテインメントシステム(IVI)やドライバーモニタリングシステム(DMS)などの開発を行っている。IVIでは、ユーザーがナビゲーションやエンターテインメント、音声制御アプリケーションを使用し、聴覚や視覚、触覚で操作できるインターフェースの標準化を進めているようだ。
■【まとめ】最新EVの「組み立て屋」、グローバル展開へ
かいつまんで言えば、MIHでは参画各社がそれぞれの技術を持ち寄り、車体プラットフォームやバッテリー関連技術、モーターをはじめとしたパワートレーン、ADAS・自動運転技術といったそれぞれの構成要素を再定義・標準化して新規格のEVを開発しているのだ。
標準化された各技術・ソリューションはモジュール化され、柔軟かつ容易なEV設計を実現する。パートナー企業は、MIHでモジュール化された好みの車体プラットフォームや自動運転技術、モーターなどを選択し、そこにオリジナル要素を加えるなどして独自のEVを簡単に構築することができるのだ。
その意味で、MIHは自動運転車をはじめとした最新EVの「組み立て屋」と言える。自動車開発と製造にイノベーションを巻き起こす存在として、引き続き多くの企業を呼び集めながらグローバル展開を推し進めていくものと思われる。
MIHで開発・製造可能なEVのクオリティや価格などは今後徐々に明らかになってくるだろうが、まずはジャパンモビリティショーで初披露されるプロトタイプに注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転関連の主な団体一覧(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)