NTTドコモ東北支社とNTTコミュニケーションズは、福島県昭和村が実施する「5Gを活用した除雪車両の自動運転に向けた実証事業」において、除雪車両を遠隔運転する実証に成功したことを2023年2月22日に発表した。
除雪車の将来的な自動運転化につながる重要な技術だ。多くの地域で道路除雪が必要とされる日本においては、こうした除雪作業の自動化・無人化にも高い期待が寄せられるところだ。
両社の取り組みとともに、「自動運転除雪」の今に迫る。
記事の目次
■福島県昭和村における取り組み
5GやVRガイダンスを導入
福島県昭和村は、国の過疎地域持続的発展支援事業のもと5Gを活用した除雪車両の自動運転に向けた実証事業を実施している。2021年度は5Gのエリア化が間に合わず4G環境での実証となったが、遠隔操作ロボットによるエンジン始動や、約500メートルの遠隔操作による除雪作業に成功したほか、障害時や緊急時の車両停車率も100%を達成したという。
続く2022年度は、前年と別の公道で800メートル程度の遠隔操作による除雪作業や、5G活用による遠隔操作の遅延解消や映像の高画質化などに向けた実証、高精度GPS(GNSS) とVRを活用した自車位置即位と障害物警告システムを構築することとした。
NTTドコモ東北支社らはこの事業を受託し、5Gと高精度位置測位システム「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」を利用し、除雪車両を遠隔運転する実証を行った。
5Gによる遠隔運転に加えGNSSサービスを活用することで、車両や除雪区間の道路上における対象物の正確な位置を把握できるようにし、より安全性や正確性を高めた。
大容量伝送が可能な5G導入によって送信可能なデータが増加したことにより、除雪車両搭載カメラの台数を3台増設したほか、方向指示器の遠隔操作機能の追加、遠隔エンジン始動機能の低電力化が可能になり、本格導入を想定した実証を実現できたという。
また、除雪車両と除雪区間の道路上の対象物の位置情報を遠隔操縦室から把握するシステム「VRガイダンス」を導入した。
GNSSサービスを利用し、走行中の除雪車両をはじめ、周辺の建物や消火栓などの対象物、道路のセンターラインや路肩などの道路情報を仮想空間上に表示することが可能で、視界不良時の遠隔運転においても正確に車両を制御しやすく、安全性向上への効果が見込めることを確認した。
除雪車両の位置もより正確に把握できるため、除雪作業のムラを防ぐ効果なども期待できるという。
NTTドコモらは、実証の成果をもとに除雪車両の遠隔運転やVRガイダンス導入の効果検証を進め、本格導入に向けた検討を進めていく方針だ。
■日本における道路除雪
全市町村の3割が豪雪地帯に指定
国土交通省によると、豪雪地帯対策特別措置法に基づく豪雪地帯には、全市町村の3割に及ぶ532市町村が指定されている。このうち201市町村はより雪深い特別豪雪地帯となっている。面積比では、国土の51%が豪雪地帯に指定されており、北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県、新潟県、富山県、石川県、福井県、鳥取県は全域が豪雪地帯となっている。
こうしたエリアでは、冬期間における道路の除雪や排雪作業は日常茶飯事だ。自治体により基準は異なるが、例えば筆者が暮らす市(特別豪雪地帯) では、降雪量が10センチ以上予測されるたびに除雪車が出動する。
雪を放っておけばたちまち道路は使いものにならなくなり、大規模な交通障害へと発展する。このため、除雪業務を担う業者はほぼ24時間体制を敷き、出動に備えているのだ。オペレーターの気苦労や肉体的負担は計り知れないものがある。
除雪グレーダーやロータリー車など複数種類が存在
除雪車は、前面にブレードやプラウを備え、雪を押し込んだりかき分けたりする除雪トラック・除雪グレーダーや、前面のロータリーで雪を切り崩しながら掻き込み、シューターで雪を遠くに飛ばすロータリー除雪車などがある。関連作業車としては、凍結抑制剤を道路に散布する専用車両などもある。
多くの場合、除雪トラック・除雪グレーダーなどで車道上の雪を歩道側に押し込み、スピーディに作業を進めていく。歩道と車道間の雪山が大きくなったら、ロータリー除雪車とダンプトラックで順次排雪を行っていく流れだ。また、除雪作業においては、ただ車道の雪をどけるだけでなく、路面を整地していくことも求められる。
除雪には熟練の技が求められる
道路上には凹凸やマンホール、排水溝などがあるため、気を付けて作業しなければブレードの破損や道路の破損などにつながる。縁石や街路樹、消火栓、道路標識など、歩道側にあるさまざまなモノも、雪を押し込むことで破損する可能性がある。
もちろん、周囲の歩行者などにも細心の注意が必要となる。大掛かりな除雪でない限り保安員などなしで除雪作業を進めることも多く、作業車のオペレーターには熟練の技と経験が求められるのだ。
【参考】関連記事としては「自動運転向けの高精度3D地図とRTK測位で、除雪作業の安全性向上」も参照。
■自動運転除雪の課題
不確定要素が多い「雪」
こうした道路除雪作業を自動運転に置き換える場合、どのような課題があるのか。まず、積雪状態における走行は、路面そのものの高さが都度変わり、雪による凹凸も激しくなる。路面の形状などが物理的に変化し続けるのだ。
こうした路面走行においては、車両が前後左右に頻繁に傾くため、センサーの検知に支障をきたす可能性が出てくる。車線をはじめ、ランドマークとすべきオブジェクトも雪で覆われて見えなくなる場合もあるだろう。
あたり一面が雪で覆われているとコントラストの弱い視界が広がるほか、除雪作業車であれば可能な限り降雪時も出動しなければならない。雪が降りしきる中、各種センサーでどこまで対応できるかも重要となる。
こうした点を踏まえると、自車両の絶対的な位置特定技術や車両の傾きを計算し即座にセンサーを補正する技術、降雪に対応した認識技術、周囲のオブジェクトを事細かに記録した高精度3次元地図などが必須となりそうだ。ケースによっては、複数台が連携して作業を行う連動技術も必要となる。
その上で、ブレードやロータリー車のシューターなどの機械部分の自動化も図らなければならない。車両の走行と機械作業を的確に連動させることで、初めて無人による自動運転除雪が実現するのだ。
■【まとめ】自動運転除雪車はビジネス的にも魅力大
自動運転除雪はNEXCO東日本なども積極的に取り組んでいる。ロータリー除雪車の自動化技術を2022年度までに確立させる構えだ。道路環境が整っており交通規制もかけやすい高速道路の方が、現状においては除雪車両の自動運転化を実現しやすいのかもしれない。
社会課題の解決に直結する自動運転除雪は、ビジネスの観点からも魅力的だ。国や自治体の除排雪予算は膨大で、基本的に途切れることはない。民間の駐車場除排雪なども大きな需要がある。
冬期間しか稼働できないのがネックとなりそうだが、車両をユニット・モジュール化し、機械部分を乗せ換えて夏は土木現場などで活躍する自動運転建機や農機に――といったシステムが構築されれば向かうところ敵なしとなりそうだ。
本格的な実用化がいつ頃になるかは不明だが、ラストマイルを担う自動運転トラック同様、大きな需要とビジネスが眠っていそうだ。
【参考】関連記事としては「雪道にも自動化の波!国も推進する「自動運転×除雪」」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)