自動運転における要素技術の1つに数えられる高精度3次元地図の作成。トヨタグループにおいては、自動地図生成プラットフォーム「AMP」の開発を進めるウーブン・アルファが先陣を切っている印象が強い。
しかし、グループにおいて早くから地図情報を取り扱っている企業がある。関連企業の株式会社トヨタマップマスター(本社:愛知県名古屋市/代表取締役社長:山田博之)だ。
B2B主体の事業形態のため露出が少ない企業だが、カーナビ向けの地図をはじめ自動運転時代に適した地図情報の開発なども手掛けている。この記事では、トヨタマップマスターの概要や取り組みに迫る。
▼トヨタマップマスター公式サイト
https://www.mapmaster.co.jp/
記事の目次
■トヨタマップマスターの概要
トヨタグループ各社やゼンリン、パナソニックが出資
トヨタマップマスターは1998年、カーナビゲーションやインターネット、携帯情報端末向けの地図データベースや施設情報の提供を担う企業として設立された。まさにカーナビが本格的な普及を迎え始めた時期だ。
事業内容には、ナビゲーションシステムの商品企画や開発、地図データや関連地図データの企画、調査、制作、販売、地図データの記録媒体の制作、販売などが挙げられている。
出資者には、トヨタ自動車やデンソー、アイシン、デンソーテンといったトヨタグループをはじめ、パナソニック、ゼンリンが名を連ねる。
<出資会社>
- トヨタ自動車株式会社
- 株式会社デンソー
- 株式会社アイシン
- パナソニック株式会社
- 株式会社デンソーテン
- 株式会社ゼンリン
2007年に世界初となるカーナビゲーション用地図更新サービス「マップオンデマンド」を開始したほか、2009年に業界初となるウェブ上でカーナビゲーション用地図の更新情報を確認できるサービスの提供を開始するなど、着実に成果を積み上げてきた。2011年には、スマートフォン向けアプリへの地図データベースの提供も開始している。
全国約53万カ所の交差点全てで現地調査を行い、レーンや交通規制・ランドマークなどの情報を調べたり、高速道路が開通した際もスタッフが現地に赴いて開通部分の本線・サービスエリア・パーキングエリアの標識の表記を調べたりするなど、徹底した調査で高い信頼性を確保しているという。
CASE時代見据え情報基盤プロバイダーに
CASE時代を迎えた近年は、これまで培ってきた高鮮度・高精度な地図データベース制作のノウハウに加え、AI(人工知能)やビッグデータの分析・活用など新たな技術領域を強化するなど、情報基盤プロバイダー「MIPP(Mobility Information Platform Provider)」を目指し事業展開している。
ナビゲーション地図や自動運転向けの地図データ、またこれらを作成するために必要となる元データなどを一元管理するクラウドベースのシステム「TOMOSシステム」の開発も手掛けている。
特別なアプリケーションをインストールすることなくブラウザで使用可能な「大規模物流倉庫の地図データ版」で、データベースとしてはmongoDB、プログラム言語としてはScalaやTypeScript、Node.jsなど各種ミドルウェアもオープンソースをフル活用しているという。
このほか、標識の検出や路面領域の推定などを行う画像認識技術の開発も進めている。深層学習をはじめとした画像処理技術により、カーナビやADAS(先進運転支援システム)、自動運転向けの空間情報データを効率的に作成するためのシステムを開発しており、最新の技術動向の調査や、画像処理システムの設計・実装・評価、深層学習のための教師データ収集・アノテーションなどを行っている。
■自動運転地図関連の取り組み
制作拠点は海外に
公開情報が少ない同社だが、自動運転向けの地図に関する取り組みについてはリクルートページの社員インタビューからうかがい知ることができる。
▼自動運転用地図制作担当|人を知る|株式会社トヨタマップマスター
https://www.mapmaster.co.jp/recruit/staff10/
▼自動運転用ツール開発担当|人を知る|株式会社トヨタマップマスター
https://www.mapmaster.co.jp/recruit/staff06/
▼自動運転用地図拡販担当|人を知る|株式会社トヨタマップマスター
https://www.mapmaster.co.jp/recruit/staff11/
3D地図データの制作管理を行っている担当者によると、地図の制作拠点は海外にあり、国内では品質チェックや全体のスケジュール作成などが主な業務になっているという。
また、開発担当者によると、自動運転向け地図データの作成方法の検討やCADなどのシステム開発を行っており、社内だけでなく協力会社とプロジェクトチームを組んで業務に臨んでいるという。
このほか、拡販担当者は提案・販売する地図コンテンツの具体例として、自動運転に用いる車両制御システムで使用する速度規制や道路の曲率・勾配などを挙げている。
海外拠点や協力会社の存在など謎が深まる部分も多いが、高精度3次元地図の作成に向けた各種事業を手掛けていることは確かだ。
DMP設立メンバーとして貢献
トヨタマップマスターは、内閣府が進める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)・自動走行システム」の検討課題の1つ「ダイナミックマップ構築に向けた試作・評価に係る調査検討」を三菱電機、ゼンリン、パスコ、アイサンテクノロジー、インクリメント・ピー、三菱総合研究所とともに受託し、「ダイナミックマップ構築検討コンソーシアム」を結成して早くから高精度3次元地図・ダイナミックマップの開発に取り組んできた。
三菱総合研究所を除く6社は2016年、国内外の高精度3次元地図の作成・提供を手掛ける企画会社「ダイナミックマップ基盤企画」(2017年にダイナミックマップ基盤/DMPとして事業会社化)を設立している。
DMPは国内の高精度3次元地図作成で基幹的役割を担っており、このDMPの設立メンバーとして早くから事業に貢献しているのだ。
【参考】ダイナミックマップ基盤については「自動運転向け地図「叡智を結集」 ダイナミックマップ基盤、増える仲間」も参照。
MaaS分野でも活躍
トヨタマップマスターは、MaaS分野にも進出しているようだ。同社は2022年1月、ジョルダンとミックウェア、日本オラクルと協業し、さまざまな移動手段・サービスを組み合わせた新たなマルチモーダル・データ基盤の構築に向け実証を行うことを発表している。
協業では、トヨタマップマスターが高精細地図情報と高鮮度POI(Point Of Interest)、ジョルダンが乗換案内サービス、ミックウェアがカーナビシステムや位置情報サービス・アプリ、日本オラクルがさまざまな形態のデータ・マネジメントを一元的に管理するクラウドをそれぞれ提供し、マルチモーダル・データ基盤を実現する。実証は2022年夏頃から静岡県三島市、裾野市、長泉町エリアで開始する予定とされている。
MaaSにおいては、各モビリティの運行情報とともに地図情報が基盤となる。また、地図に付されたPOI情報はMaaSの付加価値を高める重要な要素となる。
自動運転のみならず、MaaSをはじめとした次世代モビリティ分野においては新たな地図データが必須となるが、こうした場面にもトヨタマップマスターはしっかりと対応しているようだ。
レーンごとの走行軌道を生成する特許取得
このほか、2020年6月には走行軌道生成装置や走行軌道生成方法、走行軌道生成プログラム、及び記録媒体に関する特許をアイサンテクノロジーと三英技研とともに取得している。
車線で区切られた複数の走行レーンが並行している場合、同じ道路上のカーブでも内側と外側とでは曲率は大きく異なり、走行レーンごとに異なる走行軌道を生成することが有効となるが、こうした走行軌道を生成する一連の技術だ。
■トヨタグループにおける地図関連の取り組み
トヨタグループでは、TRI-ADの事業を引き継いだウーブン・プラネット・グループのウーブン・アルファが自動地図生成プラットフォーム「AMP(Automated Mapping Platform)」の開発を進めている。
高精度3次元地図の作成や更新を容易にするプラットフォームで、低コストで高精度地図を運用可能にする技術として注目を集めている。衛星画像やADAS用カメラ、ドライブレコーダーなどの画像を活用した地図データの作成なども進めている。
高精度3次元地図は自動運転だけではなくADASでも有用で、将来的には全ての道路情報を網羅することが望まれるが、その実現には膨大なコスト労力が必要となる。こうした未来を見据えた取り組みと言えそうだ。
▼ウーブン・アルファ公式ページ
https://www.woven-planet.global/jp/woven-alpha
■【まとめ】CASE時代迎え新規事業分野で躍進
トヨタマップマスターが一から百まで高精度3次元地図を作成することはなさそうだが、関連技術の開発・提供で他の企業と連携していく場面は今後増加する可能性が高そうだ。
また、POI情報などを武器にMaaS分野への進出を強める可能性も十分考えられる。デジタル地図や関連情報の価値が高まる中、同社のいっそうの躍進に期待したい。
【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)