自動運転技術の社会実装に向けた動きが世界的に加速しており、レベル3の普及やレベル4の実用化に向け、各国が法整備を進めている。
日本でもレベル4実現に向けた法改正が2022年度中に予定されており、付随する制度や規制などを含めた議論が大詰めを迎えている模様だ。
この記事では、警察庁が発表した「令和3年度自動運転の実現に向けた調査研究報告書」の中で参照されている英国、ドイツ、フランス、オーストラリア各国の法整備に向けた取り組みについて、同資料をベースに解説していく。
記事の目次
■英国
レベル4に向けた本格的な検討を2018年に開始
英国は、レベル4実現に向けた法的枠組みをはじめ、自動運転車を公共交通ネットワークに導入した場合の影響に関する検討を2018年に開始しており、2021年7月に中間文書「自動運転車:照会文書3への対応と今後のステップの概要」とレポート「自動運転車に関する包括的な規制の枠組みによる影響評価」を公表した。
「自動運転車:照会文書3への対応と今後のステップの概要」では、人が運転する必要がない自動運転車=NUIC(No User-In-Charge)に関し、すべてのNUIC車両はライセンスを持つオペレーターによって作動される、またはライセンスを持つ運転者の契約の対象となるべきであるという声が多く、自動運転車の複雑な監視とメンテナンス作業は十分な専門性を持った人によって行われることが望ましいとしている。
また、自動運転システム主体=ADSE(Automated Driving System Entity)とオペレーター間の責任分担については懸念が表明され、ADSEとオペレーターとの間の契約上の取り決めにおいてこれを定めるべきであるとする提案がなされたという。
「自動運転車に関する包括的な規制の枠組みによる影響評価」では、自動運転車実用化に向けた規制が導入された際、何もしない場合と比較しどのような影響が生じるか、またどのような対策を講じるべきか――といった観点のレポートで、とりわけ自動運転車の製造から開発、使用に至る関係者の法的責任を定義する重要性を指摘している。
2022年2月に最終報告書公表を公開
2022年2月には、法律委員会で進めてきた一連の検討に対する最終報告書を公開したようだ。報告書では、有責利用者(user in charge)が備えるべき運転免許や適正について、有責利用者はADSが交代要求を発した場合に運転を引き継ぐよう求められることがあるため、運転免許を持ち、運転が可能な者でなければならず、酒気帯び状態などの影響下であってはならないと結論付けている。
NUICに関しては、無人運転車のオペレーターは個人より組織が想定され、有責利用者または無人で安全に車両を操作する方法を示すセーフティケースを提出することが望ましいとした。通信を維持するシステムや適切な装置、職員教育、さらには不注意などをどのように阻止するかについて具体的に説明する必要があるとしている。
また、自動運転車を活用したサービスを行う主体は、旅客許可を受けることになるとし、高齢者や障がい者のニーズをどのように満たすかを示す報告書を公表すべきとしている。
このほか、報告書では「認可自動運転主体=ASDE(Authorised Self-Driving Entity)」という用語を新たに定義している。
この報告書を指針に、今後英国やスコットランド、ウェールズ各政府において、検討結果の実行に向けた法規制などに関わる具体的な検討が行われる予定という。
■ドイツ
2021年に自動運転法施行、2022年度に関連法も整備予定
ドイツ政府は2021年2月、「道路交通法及び強制保険法改正のための法律案」――通称「自動運転法」を閣議決定し、同年5月に下院、上院それぞれで可決された。改正法は直ちに施行され、2022年度中に車両認可に関わる法案など関連法の制定を目指す構えだ。
自動運転法はレベル4を想定した内容で、以下などについて規定している。
- 自動運転機能を備えた車両に課される技術要件
- 自動運転機能を備えた車両の所有者に課される義務
- 自動運転機能を備えた車両の技術監督に課される義務
- 自動運転機能を搭載した車両のメーカーに課される義務
法案段階からの変更点としては、運用予定のエリアに連邦長距離道路または連邦管理下の連邦道路が含まれる場合、インフラ会社設立法に該当する私法に基づく会社に確認が必要であることと、自動運転車が保存したデータについて、事故発生時などに法的請求の主張に必要である場合などはデータ所有者に対してデータの提出を求めることができることも明示された。
関連法・規則としては、「自律走行機能を備えた車両の認可並びに定義された運転エリアにおける自律走行機能を備えた車両の運転に関する規則(自律走行車両の認可及び運転:AFGBV)」が持ち上がっているようだ。
同法案は、道路交通法に規定された自動運転車やその車両の運転、公道で使用するための登録などにおいて必要となる「型式認定」や「運転エリアの承認」、「車両の道路通行のための登録」などについて定めたもので、例えば型式認定については、以下などが検討されているようだ。
- 車両の周りの他の道路利用者、関わりのない第三者、動物や所有物を検出すること
- 検出した他の道路利用者、関わりのない第三者、動物や所有物の行動や動きを評価し、移動中の車両が10メートル毎秒以下で減速できると想定し、その後の行動や動きを予測すること
- リスク評価の結果に基づいて運転操作を行えること
■オーストラリア
2026年度までの実現目指す
オーストラリアでは、レベル4の社会実装に向け国家運輸委員会(NTC)が2021年5月、「自動運転車両の使用中の安全に関する規制」について、パブリックコメントの結果とそれを踏まえた検討結果を公表した。
2021年11月には、立法化に向け検討結果を国土交通大臣などに報告・提言しており、ADSE(自動運転システム主体)が果たすべき一般的な安全義務を補助するための規範的義務について以下のように結論付けている。
- 一般安全義務遂行に向けシステムが開発、使用、維持されるよう努めなければならない
- ADSのシステムアップグレードが安全に行われ、安全ではないADSが使用されないことを保証しなければならない
- ADSに影響を及ぼすシステムの安全上の問題について、規制当局や使用者に通知しなければならない
- ADSソフトウェアがユーザーの健康と安全に危険を及ぼさないことを保証しなければならない
- 一般安全義務の遵守に関するデータを記録し、保存しなければならない
- ADSの利用者などの関係者に教育・訓練を提供しなければならない
- ADSが安全でないことを認識した際、ADSの作動を停止しなければならない
- ADSが関連する道路交通法に適合することを保証しなければならない
- 既知の予見可能な安全上のリスクを特定・管理し、最小化するための適切な方策やプロセ
ス、方針及びシステムを有していなければならない - これらのプロセス、方針、システムが遵守されていることを実証するため、報告体制や外部監査といった説明責任手法を確保しなければならない
- ADSが第三者によって妨害されないよう注意を払わなければならない
- 初回申請時の安全基準を随時見直し、維持・更新しなければならない
今後、法案の起草をはじめとしたステップについて検討を進めていく方針で、法案は「AVSL(Automated Vehicle Safety Law:自動運転車安全法)として2026年度末までの実現を目指すという。
■フランス
2022年9月施行予定
フランスでは、レベル4を含むレベル3以上の自動運転システムを活用した移動サービスの実現に向け、2021年6月に輸送法を改正し、2022年9月の施行を予定している。なお、同時期に道路交通法の改正も行われ、日本と同様に自動運転システム使用時は電話や画面表示装置などの使用禁止を免除する条項などが盛り込まれた。
輸送法では、安全性を確保するための書類として以下の情報提供を求めている。
- 自動運転車が走行するルートやエリア、特に安全性評価の根拠となる道路の基準特性
- サービス地点や時間帯といったサービスの特徴
- 安全管理システムにおいて、運用及びメンテナンスのルール、安全水準の維持を監視するための手段、安全作業の実行に関する仕様、作業組織と人材訓練のための対策に言及していること
- 移動に不自由のある人の安全確保に向けた具体的な措置
- 標識、接続性、位置確認、遠隔操作などの観点から、車両外部に設置された技術設備や安全設備の設置計画
- 技術設備及び安全設備に関する要求事項に対する応答
- 道路の基準特性を達成するために必要なルートやエリア内の整備に関する計画
- 安全水準を達成するために必要な道路、整備、技術設備と安全設備に関する特性及びサービス水準
- 試験及び実験プログラム
- 技術システム設計ファイルに言及されている安全性の実証において、ルートやエリア特有の故障や交通事故のリスク、サービスの特徴、技術システム設計ファイルで考慮されていない安全性に大きく影響する要素を考慮すること
EasyMileは公道における無人走行許可を取得
フランスでは、レベル4解禁を見越した取り組みがすでに進んでいる。EasyMileは、自社開発した自動運転シャトル「EZ10」の公道走行に向けた審査を突破し、混合交通下における無人走行の許可を仏政府から取得した。法施行までに実用実証を加速させていくものと思われる。
【参考】EasyMileの取り組みについては「欧州初!仏新興企業EasyMile、レベル4自動運転で公道走行許可」も参照。
■【まとめ】運用面を見越した制度化・ルール化の動向に注目
各国がレベル4実装に向け取り組みを加速させていることは間違いない。法律面では、日本で言うところの道路交通法や道路運送車両法の改正が必須となるが、加えて運用規則・細則のような形で制度や責任関係を明確化しなければならない。
各国の法規制の大枠は概ね同一になると思われるが、運用面を見越した制度化・ルール化がそれぞれの国でどのように図られていくのか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転と法律・ガイドライン(2022年最新版) 日本における現状解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)