世界一自動運転実証が盛んと言われる米カリフォルニア州。2022年2月時点で49社が走行ライセンスを取得し、積極的に公道実証を積み重ねている。
そんな実証の聖地で、ついに本格的な自動運転タクシーの有償サービスが始まろうとしている。ドライバーレスの自動運転車による有償タクシーサービスは、アリゾナ州に次いで2番目となる見込みだ。
この記事では、カリフォルニア州における自動運転タクシーの取り組みに迫る。
記事の目次
■カリフォルニア州における自動運転規制
カリフォルニア州において自動運転車で公道走行するには、同州の車両管理局(DMV)から走行ライセンスを取得する必要がある。
ライセンスは「Testing with a Driver=セーフティドライバー同乗による走行テスト」「Driverless Testing=ドライバー無人 による走行テスト」「Deployment=サービス展開」の3種類に分かれており、ライセンス取得者はセーフティドライバー付きが49社(2022年2月時点)、ドライバーレスがApollo Autonomous Driving USA(百度)とAutoX、Cruise、Nuro、Waymo、WeRide、Zooxの7社(2021年11月時点)、そしてサービス展開がCruise、Nuro、Waymoの3社(2021年9月時点)となっている。
▼Autonomous Vehicle Testing Permit Holders|California DMV
https://www.dmv.ca.gov/portal/vehicle-industry-services/autonomous-vehicles/autonomous-vehicle-testing-permit-holders/
なお、走行テストにおける規約によると、各車両は乗客を乗せることをできるが、乗客に料金を請求したりメーカーが補償金を受け取ったりしないことが条件となっている。つまり、DMVのサービス展開ライセンスを取得しただけでは、無料の移動サービスしか提供できないのだ。
有償サービスを実施するには、別途、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)による許可が必要となる。CPUCは自動運転に対し、セーフティドライバー付きの無償移動サービスプログラムや遠隔監視・操作による無償移動サービスプログラムを用意していたが、2020年11月に乗客から運賃を取ることが可能な有償プログラムも追加し、事実上の商用利用を可能にしている。
つまり、カリフォルニア州で無人の自動運転タクシーによる商用サービスを展開するには、DMVとCPUCの両方から許可を受ける必要があるのだ。
CPUCは2022年2月28日、CruiseとWaymoに「Drivered Deployment」の許可を発行したと発表した。これにより、2社は乗客から運賃を徴収することが可能となった。
CPUCによると、同日時点でCruiseはサンフランシスコのあらかじめ設定した公道において、午後10時から翌日午前6時まで、時速30マイル(約48キロメートル)までの速度でサービスを提供できるという。一方、Waymoはサンフランシスコとサンマテオの指定場所で、時速65マイル(約104キロメートル)までの速度で昼夜問わずサービス提供できるとしている。なお、濃霧や大雨の際の操業は許可されていない。
【参考】CPUCについては「米カリフォルニア州、「自動運転タクシー」が料金徴収可能に」も参照。
■WaymoとCruiseの取り組み
公道実証で常にトップを争う2社
WaymoとCruiseは、カリフォルニア州の公道実証で常に1、2位を争う仲だ。走行距離はWaymoがほぼ1位を独占しているが、2020年(2019年12月~2020年11月)に1度Cruiseが逆転している。最新となる2021年(2020年12月〜2021年11月)は、Waymoが374万キロで首位を奪還し、Cruiseは141万キロで2位となっている。
こうした豊富な実証経験を有する2社が同州初の自動運転有償サービスに着手するのは、ある意味必然と言えるだろう。
【参考】関連記事としては「カリフォルニアでの自動運転走行、企業別距離ランキング」も参照。
Waymoはテストプログラムを実施中
Waymoは2020年秋にサンフランシスコ住民を対象に輸送ニーズに対するリサーチを行い、さまざまな検証を進めてきた。そして2021年8月、カリフォルニア州サンフランシスコで「Waymo One Trusted Testerプログラム」を開始した。セーフティドライバー同乗のもとサービスを提供する形式で、いわば実用化に向けた第1フェーズだ。
2022年3月現在、同プログラムはまだ継続されているが、テスターとなる住民は数百人規模に達しているようだ。そう遠くない時期に利用者の拡大や無人化、そして有料化の道を歩むものと思われる。
▼Waymo公式サイト
https://waymo.com/
Cruiseは無料サービスを開始
一方、Cruiseはサービス開始に先立ち2021年秋に従業員を対象にサービス実証を積み重ね、2022年2月に正式に一般を対象とした無人自動運転サービスを開始した。利用者は、同社公式サイトから登録することで今のところ無料で乗車することができる。
こちらも有料化の時期は未定だが、利用者からのフィードバックをもとに早い段階で本格的な商用化を開始するものと思われる。
▼Cruise公式サイト
https://www.getcruise.com/
【参考】Cruiseの取り組みについては「Waymoから3年2カ月遅れ、GM Cruiseが自動運転タクシーの展開スタート」も参照。
■実用化のカギを握る受け入れ体制
こうした自動運転サービスの実用化は、開発企業の努力だけではなし得ない。サービス提供エリアとなる州や自治体などの受け入れ体制がモノを言うのだ。
カリフォルニア州は早い段階で公道実証プログラムを策定することで走行基準を明確化し、意欲のある開発企業の受け皿となった。米西海岸の拠点であり、またシリコンバレーを擁することもあり、世界各地の開発企業が集結する実証の聖地となったのだ。
実証中の衝突や手動介入の報告義務化など厳格な管理によって道路交通全体の安全性と両立を図っている。
一方、Waymoが世界初の自動運転タクシーサービスを2018年に開始したアリゾナ州は、カリフォルニア州よりも緩めの条件で開発企業の誘致を推し進めた。その結果、Waymoが同州に本格進出し、自動運転タクシーサービス「Waymo One」を生み出す成果につながったのだ。
Waymoは2017年にアリゾナ州でアーリーライダープログラムに着手し、2018年12月に有償サービス「Waymo One」を開始した。その後、利用対象者の拡大を進めつつ実績を積み上げ、2019年末にはドライバーレスのサービスも開始している。
このように、自動運転サービスの実用化には、これを受け入れる側の体制が必要不可欠となる。自動運転車の混在による道路交通への影響や社会受容性の向上など課題はあるものの、次世代モビリティ社会への早期対応をはじめ、スマートシティ化や企業誘致につなげることができるなど、受け入れ側のメリットは大きい。
■【まとめ】アリゾナ・カリフォルニアに次ぐのはどの州か?
米国では各州で公道実証が行われているが、アリゾナ州とカリフォルニア州に続くエリアはどこになるのか。Waymoはニューヨーク市(ニューヨーク州)でも公道実証を本格化させている。他社では、Argo AIがマイアミ(フロリダ州)やオースティン(テキサス州)、Motionalがラスベガス(ネバダ州)で自動運転タクシーサービスを開始する計画をそれぞれ発表している。
2つ目の州、そして2つ目の企業が動き出したことで、他州や他社の動きが今後加速する可能性が高く、今後の動向に要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転タクシーとは?開発競争が激化、既に商用サービスも」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)