中国ライドシェア大手の滴滴出行(Didi Chuxing:ディディチューシン)が2018年6月15日、オーストラリアへの進出を発表した。同社は同年中にも中南米や日本の市場を開拓していく目標を掲げており、積極的に世界展開を進める構えだ。
世界戦略をめぐっては、米ライドシェア大手のUber(ウーバー・テクノロジーズ)社が一足早く拡大路線を進めており、オーストラリアにも進出済み。その裏で競合を理由に東南アジアで事業を撤退した例もあり、複数社の競合が予想されるオーストラリア・ラウンドに注目が集まる。
■Didi社:ブラジルやメキシコでもサービス提供
Didi社の発表によると、同社は100%子会社を通じてオーストラリア第2の都市メルボルンで6月25日から乗り合いサービスをスタートする。メルボルンの南西75キロメートルに位置するジーロングでテストを実施済みで、ドライバーの募集もすでに行っている。
中国国内の400都市以上で事業を展開するDidi社は、2016年にウーバー社の中国事業を350億ドル(約3兆8500億円)で買収し、その後台湾と香港に事業を拡大。2018年にはブラジルのライドシェア大手99社を買収したほか、メキシコで乗り継ぎサービスを開始している。
また、2015年ごろから米国のLyft(リフト)社、東南アジアのGrab(グラブ)社、インドのOla(オラ)社、ヨーロッパ・アフリカのTaxify(タクシファイ)社などウーバー社と競合する世界各国のライドシェア企業への投資・提携も進めており、シェア獲得競争を見据えた世界戦略を展開してきた。
【参考】ディディ社とウーバー社については「中国ライドシェア大手DiDi、年内に時価9兆円規模も ウーバー超え視野」も参照
■ウーバー社:70カ国600以上の都市で事業展開
一方のウーバー社はいち早く世界展開を進め、現在70カ国、600以上の都市で事業を行っているという。しかし、各国の競合他社との競争や各国独自の安全基準や法制度などが影響し、全てが順風満帆とはいかないようだ。
2016年には中国での事業をDidi社に、東南アジアでの事業をグラブ社にそれぞれ売却している。ウーバー社、Didi社、グラブ社それぞれに出資しているソフトバンクグループの影響も少なからずありそうで、競争による消耗戦を回避し市場をすみ分ける経営判断によるものとみられている。また、2018年にはロシアにおいて、同国インターネットサービス最大手Yandex(ヤンデックス)社の配車サービス子会社と事業統合して新会社を設立している。
日本においては、同社が2015年に実施したライドシェアの検証実験に対し、タクシー業界の猛反発とともに国土交通省が道路運送法に違反するおそれがあるとして中止するよう指導しており、法律の壁に阻まれる形で通常のタクシー配車事業やフードデリバリー事業を行うにとどまっている。
英国では、ロンドン市運輸局が2017年、安全に対する懸念を理由に同社の営業許可の更新を行わないことを発表した。同社は不服申し立てを行っており、2018年6月時点で保留の状態が続いている。
急成長分野が抱えがちな課題であり、続々と誕生する新規参入事業者との競合や従来の交通規則との整合性、独自の文化とのあつれきなど、越えなければならない壁はたくさんある。ライドシェア事業の世界進出のパイオニアだからこそウーバー社が直面してきた問題と言えそうだ。
■オーストラリア・ラウンドの行方は
オーストラリアではMobi社など同国のライドシェア企業やウーバー社がすでに事業を行っているほか、ディディ社が出資しているインドのオラ社も2018年前半にサービスを始めると発表している。ここにディディ社が進出することで、各社入り乱れての競合となるのか、あるいは統廃合のような形ですみ分けが進むのか。
パイオニアとして先手を打ってきた王者のウーバー社は譲ってばかりではいられない。一方、各国で提携を結び反ウーバー連合のような体制を築き上げ、気勢を上げるディディ社。世界最大級の交通プラットフォームである2社の次のラウンドはオーストラリアが舞台になりそうだ。
【参考】世界のライドシェア企業については「ライドシェア企業、世界で300社突破 日本企業はゼロ?」も参照