【インタビュー】「大容量×信頼性」、車載業界屈指の半導体メーカーが見据える自動運転の未来

ウエスタンデジタルとルネサスエレクトロニクスが推進する取り組み

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ウエスタンデジタルで製品マーケティングディレクターを務めるラッセル・ルーベン氏(左)とルネサスエレクトロニクス社で自動運転向けSoCマーケティングを担当する大塚聡氏(右)=自動運転ラボ撮影

自動車業界でコネクテッドカーや自動運転車の開発競争が激しさを増す中、車載向けストレージ製品でも長い歴史を持つ米ウエスタンデジタルがこのほど、データ需要の将来的な増加を見越した新製品「Western Digital iNAND AT EM132」と車載向けSoC「R-Car」を展開する日本のルネサスエレクトロニクス社との取り組みについて発表した。

自動運転ラボは今回、発表と合わせた特別企画として、ウエスタンデジタルで製品マーケティングディレクターを務めるラッセル・ルーベン氏と、ルネサスエレクトロニクスで自動運転向けSoCマーケティングを担当する大塚聡氏の両氏による対談記事をお届けする。

対談ではウエスタンデジタルの新製品の強みなどのほか、業界の最前線で活躍する両氏にSoCとストレージ製品を取り巻く市場の最新状況についても解説してもらった。

【ラッセル・ルーベン氏プロフィール】組み込みおよびOEM向け製品マーケティングディレクターとして、日本および韓国のウエスタンデジタルの自動車、産業機器、コネクテッドホーム、モバイルおよび組み込みコンピュータ市場向けの 組み込みソリューションの製品マーケティングを担当。 ウエスタンデジタル入社前は、米半導体メーカーのMICROSEMIやALTERAなどで20年以上マーケティングや営業に従事。

【大塚聡氏プロフィール】ルネサスエレクトロニクスではADAS(先進運転支援システム)市場立ち上げ時の2006年から一貫してADAS・自動運転向けSoC(SH、R-Car)のマーケティングを担当。前職の三菱電機では、「iモード」の前身となった携帯情報端末やデジタルTV向け情報サービス、電力小売りシステムなどの新規事業のマーケティングや営業に携わる。

■新製品「iNAND AT EM132」はストレージ容量と信頼性が向上

新製品は、自動車メーカーやティア1企業(1次部品メーカー)向けのe.MMC組み込みフラッシュドライブ製品だ。256GBと大容量であることが特徴であるほか、業界初の64層3D TLC NAND車載グレードとなっており、AR(拡張現実)やAI(人工知能)などを活用した最先端アプリにも対応可能となっていることも強みだ。

Q 新たに発表された「iNAND AT EM132」の優れているポイントは?

ルーベン氏 前世代の「2D NAND」という構造に対して、iNAND AT EM132は「3D NAND」という新しい構造で作られています。大きく進化したポイントとしては、信頼性の向上とデータ容量の増加です。

2D NANDの製品では、セルとセルの間の干渉が発生することが避けられず、信頼性の面で課題がありました。しかし3D NANDでは干渉がほぼ発生しないため信頼性と品質が向上し、製品性能をしっかり発揮して動作させることができます。

また、高度なヘルスステータスモニタリング機能も信頼性の向上につながります。デバイスがどのような状態で、どれくらいの寿命があるのかといった情報をインフォテイメントパネルに表示することで、故障する前に察知して点検や交換をすることが可能です。

ストレージ容量についても、前の世代の製品は64GBまでが最大だったのですが、新製品は256GBまでの記憶容量となっています。記憶容量に対するニーズはどんどん増えていますが、容量が増えたことで、さまざまなアプリケーションに対応することができます。

【参考】iNAND AT EM132については、ウエスタンデジタル社の製品紹介ページ「自動車用iNAND e.MMC組み込みフラッシュドライブ|Western Digital」も参照。

■ルネサスエレクトロニクスのSoC「R-Car」での互換性を事前確認

Q ウエスタンデジタルとルネサスエレクトロニクスの具体的な取り組みの内容は?

ルーベン氏 弊社が新開発した車載向けストレージがルネサスのSoCである「R-Car」で互換性があるか、事前に検証していただいています。事前に動作確認をすることで、ティア1やOEMメーカーといったお客様が安心して弊社のストレージとルネサスのSoCを使えるようになります。

今まではお客様自身で互換性を確認する必要がありましたが、事前に互換性の確認が取れていればお客様の手間は少なくなり、車載用アプリケーションの開発に掛ける時間を短くできます。

大塚氏 このような事前に検証を行う取り組みは、例えばデジタルカメラなどの分野ですと一般的なのですが、車載SoC分野では進んでいませんでした。今回のような取り組みは車載業界でも今後スタンダードになってくると思います。

ルーベン氏 また、ウエスタンデジタルはルネサスが主宰している「R-Carコンソーシアム」に2017年から参画しています。ルネサスは世界的なSoCメーカーですから、R-Carコンソーシアムに参加することは弊社にとってもメリットがあります。例えばコンソーシアムのイベントに出展することがきっかけで、普段接点が少ない企業様にも弊社の技術をアピールすることができます。

大塚氏 R-Carコンソーシアムとして、海外資本のパートナー様との協業をより積極的に進めていく中で、一早く、ウエスタンデジタル様にRCCに加盟頂いたことは当社にとっても大変喜ばしいことです。

新製品「iNAND AT EM132」を手にするルーベン氏
■変わる車載ストレージの役割と増す重要性
Q 自動運転やコネクテッドカーにおいてストレージの大容量化が求められている理由は?

大塚氏 まず自動運転の実現のために搭載センサーが増えていくことで、扱われるデータ量も圧倒的に増えていきます。さらにコネクテッド化によってやり取りするデータも増えていくのですが、24時間ずっと(クラウド側の)サーバーと接続されているわけではありませんので、車自体に何かがあった時に対処するためにも、車両に搭載する大容量で高性能のストレージが必ず必要になってきます。今後もストレージに求められるデータサイズは当然ながら増えていきます。

Q 具体的にストレージに保存されるデータの種類は?

大塚氏 例えば自動運転車が故障して通信機能が使えなくなったときでも、安全な場所まで走行した上で車両を停車させるためには、車両側で位置情報や一定程度の地図データを有していなければいけません。最低でも5分間程度は走行できる程度のデータが保存されている必要があるでしょう。ドライバーを認証するためのセキュリティデータなどを保存する必要もあります。自動運転車の開発が進んでいく中で、今後、データ種類はより増えていくでしょう。

ルーベン氏 数年前までは車載用ストレージは主にインフォテインメント向けに使われていましたが、最近はアプリケーションの種類が増えてきており、車載ストレージの搭載数が増え、役割としての重要性も増してきています。以前はティア1企業がSoCを決定してから最後にストレージを決めるということが多かったのですが、最近では早い段階からSoCとストレージを一緒に検討するという流れになってきています。

また、ウエスタンデジタルは数年前まではティア1企業との関わりが強かったですが、最近では直接OEM企業とも関わるようになってきています。車載ストレージに求められるニーズがどのようなものになるかを把握できれば、製品開発に活かせます。またOEM企業は直接弊社から製品をご購入頂くわけではないのですが、弊社と関わって頂ける中で、車載ストレージではどのようなことができて、何ができないのかということがご理解頂けるようになってきてもいます。

■求められる性能は刻一刻と高まっている
Q SoCベンダーであるルネサスエレクトロニクスから見て、車載用ストレージに求められる要件とはどのような点ですか?

大塚氏 まずe.MMCに求めるのは「信頼」「実績」「大容量」、そしてあとは可能であればコスト面です。また性能についても自動運転領域においては日々求められる要求は上がっています。弊社も例えばSoCの規格はOEM様とも話し合って決めるのですが、仕様を決定して「設計に入ります」と言ったそばから求められる基準が変更になる、ということもよくあります。

ルーベン氏 ストレージも一緒です。どういうアプリケーションをどの時期の自動車に載せるかということのプランニングがOEM企業も常に完璧にできているわけではありません。要件を詰められる部分と詰められない部分があって、あとはどこまで性能の伸び代を持たせておくか、ということが重要になってきます。

規格によって論理的に可能なパフォーマンスは決まっていて、それ以上のものは作れませんので、我々としてはできるだけ上限に近いところまで持っていくという考え方をしています。今後求められるパフォーマンスが規格の上限を上回ると、新しい規格に移行していきます。

■WD、スタートアップの支援にも意欲
Q ウエスタンデジタルの車載向けストレージ市場における立ち位置や、今後の市場予測を教えてください。

ルーベン氏 ウエスタンデジタルは2002年に車載用ハードディスク事業を展開し、車載市場に参入しました。車載用フラッシュストレージも2015年から発売しており、経験と信頼性、品質には自信があります。今後も車載用ストレージ市場は伸びていく認識でおりますので、さらに投資してどんどん新しい製品を生み出していきたいと思います。

自動運転ラボ 自動運転時代には、人やモノのラストワンマイルを解決する小型のビークルも増えてくると考えられます。このような乗用車以外の車載ストレージについて、ビジネスチャンスがありそうな領域はありますか?

ルーベン氏 基本的には全ての領域にチャンスがあると考えています。そのような分野は自動車メーカーではなくスタートアップ会社が取り組んでいることが多く、競争が加速しています。小型ビークルのストレージに関してまだはっきりしてない部分が結構ありますが、今後ニーズは増えてくると思いますね。弊社の本社はシリコンバレーにあり、周辺にさまざまなスタートアップ企業がありますので、できるだけサポートしていきます。

■「命を守る」車載ストレージ製品を作る
Q ウエスタンデジタルとしてのコネクテッドや自動運転に対する今後の意気込みをお願いします。

ルーベン氏 自動運転車にとってストレージやSoCは重要なバーツとなりますので、万が一事故が発生すると命に関わります。信頼性と品質が高くした上で、できるだけ不良率をゼロにする必要があると考えています。

信頼性や品質という部分はハードウェアだけで実現するというのは難しいものです。設計時点でさまざまな不具合を考え、アプリケーションに影響を与えないようデバイスの設計をする、というのが我々の基本的な考え方です。全く壊れないものを作るということではなく、何らかの障害があっても実質アプリに対して問題がないというものを作る、という設計思想は、ウエスタンデジタルの製品ならではの部分です。

■【取材を終えて】技術革新に尽力し続ける両社に注目

取材を通じ、信頼性の高い車載用ストレージ開発にかけるウエスタンデジタルの意気込みが伝わってきた。自動運転が実用化されていく中でSoCやストレージにも求められる性能はどんどん高くなっている。そんな中で技術開発に尽力し続ける両社の取り組みに、今後注目し続けていきたい。

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