いま道の駅が自動運転のサービス拠点として注目を集めている

2年間で全国20カ所近くで実証実験、住民わずか1%のケースも

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都市部や高速道路などを中心に実証実験が進められている自動運転。しかし、地理的条件が整っていない全国各地の中山間地域においても積極的に走行実験が行われている。

その舞台の大半は「道の駅」だ。なぜ道の駅を拠点に実証実験が行われるのか。国土交通省の取り組みを紐解き、その謎を解明してみた。

出典:国土交通省
■プロジェクトの全体像
道の駅をモビリティと生活拠点に

中山間地域は全国に比べ高齢化率が高く、65歳以上の交通事故死者数が全体の約半数を占めるなど高齢者による交通事故も深刻化している。その一方、路線バスの廃止路線は2014年で前年比39%増と増加。公共交通が衰退しており、自家用車や免許などを持たない高齢者は、商業施設や病院、市役所などの生活サービスの利用が難しい状況になってきている。

こうした施設が集まる生活拠点として「道の駅」の有効活用が解決手段の一つとして考えられている。道の駅は2018年4月時点で全国1145駅が登録されており、地域外から人を呼び込む「ゲートウェイ型」と、地域の産業振興や役場、病院・診療所などの福祉を支えていく「地域センター型」の大きく2つの機能がある。この1145駅のうち約8割が中山間地域に設置されており、モビリティの拠点や中山間地域の生活拠点としてこれらの道の駅を活用することが期待されている。

このような道の駅を拠点とし、自動運転車両が集落などを巡回する仕組みを構築することで、中山間地域の人流の確保と物流の確保の双方が可能となるほか、観光など地域の活性化にも展開できる。

こうした理由を背景に、道の駅などを拠点とした自動運転サービスの実証実験を行い、自動運転に対応した道路空間活用のあり方や、中山間地域のニーズを踏まえた自動運転車両技術などのあり方、道の駅などを拠点としたビジネスモデルのあり方について検討し、2020年までに自動運転サービスを社会実装することを目標に2017年度に事業がスタートした。

2017年度は13カ所で実証実験に着手、自動運転レベル2~4で実走

主に技術的検証が速やかに実施可能な地域として、地域指定型5カ所を2017年4月に選定し、同7月には、地域からの提案内容を踏まえて主にビジネスモデルの検討に資する地域として、公募型8カ所を選定し、夏頃から順次実証実験を開始した。

なお、地域指定型は、秋田県北秋田郡上小阿仁村の道の駅「かみこあに」、栃木県栃木市西方町の「にしかた」、滋賀県東近江市蓼畑町の「奥永源寺渓流の里」、島根県飯石郡飯南町の「赤来高原」、熊本県葦北郡芦北町の「芦北でこぽん」の5カ所。

公募型は、北海道広尾郡大樹町の「コスモール大樹」、山形県東置賜郡高畠町の「たかはた」、茨城県常陸太田市の「ひたちおおた」、長野県伊那市の「南アルプスむら長谷」、富山県南砺市の「たいら」、岡山県新見市の「鯉が窪」、徳島県三好市の「にしいや・かずら橋夢舞台」、及び福岡県みやま市の山川支所の8カ所。

このほか、ビジネスモデルの具体化に向け机上検討をおこなう地域として、新潟県長岡市の「やまこし復興交流館おらたる」、岐阜県郡上市の「明宝」、愛知県豊田市の「どんぐりの里いなぶ」、滋賀県大津市の「妹子の郷」、山口県宇部市の「楠こもれびの郷」の5カ所が選定された。

検証項目は、混在交通対応や拠点に必要なスペースなどの「道路交通面」をはじめ、気象条件やGPS受信感度などの「地域環境」、車両の導入・維持コストやインフラ工事費などの「コスト面」、速度・心理的影響などの快適性やルート・運行頻度などの利便性といった「社会受容性」、高齢者の外出の増加や農作物の集出荷の拡大、運営主体、採算性確保の方策などの「地域への効果・ビジネスモデル」の5項目とした。

実験期間はそれぞれ1週間ほどで、道の駅などを拠点として病院や役場などの周辺施設をめぐる4~5キロメートルほどのルートを設定し、交通規制などによる専用空間を自動運転レベル4、混在交通下では緊急時にドライバーがすぐに対応できる自動運転レベル2で走行した。

実験車両には、株式会社ディー・エヌ・エーの車両自律型バスタイプ、先進モビリティ株式会社の路車連携型バスタイプ、ヤマハ発動機株式会社の路車連携型乗用車タイプ、アイサンテクノロジー株式会社の車両自律型乗用車タイプが採用された。

実証実験で使用する車両として選定された4車種=出典:国土交通省
2018年度は5、6カ所で長期実証実験を実施

2018年度は5、6カ所で1〜2カ月程度の長期実証実験を行ったほか、自動運転ビジネスモデル検討会が2019年1月に中間とりまとめを発表した。

自動運転走行区間の明示や運行方法などに課題、運営形態などガイドライン作成へ

中間とりまとめによると、実証実験全体を通して概ね円滑に走行できたが、1車線区間や狭隘(きょうあい)な混在交通下では、車両センサーが対向車を検知することで走行停止したり手動運転で回避したりする場合があった。また、低速走行時は後続車の追い越しや滞留が発生する場合などもあった。

このため、自動運転車両の走行空間を法定外標示として明示するなど、道路利用者や地域へ周知して理解を醸成する必要があるとしている。

電磁誘導線や磁気マーカーなどを用いた路車連携技術では、GPS受信精度が低下するような地域や積雪・圧雪状態でも問題なく走行できることを確認した。

運行方法については、デマンド型のニーズが一定程度あり、改善点として走行ルートや運行スケジュールを挙げる声が多かったという。

運営形態については、社会実装に向けて既存の公共交通サービスとの連携や共存を考慮しながら、運営主体や導入スキーム、役割分担をより具体化させる必要があり、今後、実証実験を実施していない他の地域でも導入できるように、運営形態のあり方や地域環境に応じた事業スキームの検討方法などを含めたガイドラインを作成すべきとしている。

また、採算性については、年間収支試算では、運賃や配送料といった利用者からの収入だけでなく、道の駅からの売上協力金や物流事業者からの配送委託料、貨客混載による人と物の移動の効率化、地元企業からの観光ガイド料、他事業とセットでの料金収受など、多様な連携を通じた民間企業からの収入や地元自治体からの補助金なども合わせて検討する必要があるとしている。

今後については、2020年までに、全国における長期間の実証実験の検証結果を踏まえ、自治体や有識者の意見を聞きながら検討を進めるとともに、2020年以降、基準やガイドラインの策定、実証実験を実施していない地域への展開、導入支援などを実現すべきとしている。

■実際に行われた実証実験の一例
栃木県栃木市西方町の「にしかた」:実証実験第一弾、乗車モニターから好印象

道の駅第一弾の実証実験となったにしかたでは、ディー・エヌ・エーによる12人乗りバスタイプの車両を使用し、栃木市役所西方総合支所から集落前を往復運行する延長約2キロメートルの全区間をレベル4で走行した。

自動運転車両を用いた公共交通の導入の賛否や利用意向に関するアンケートでは、 近隣住民、乗車モニターともに高く、特に乗車モニターには好印象だったという。

熊本県葦北郡芦北町の「芦北でこぽん」:ヤマハ発動機のカートタイプ使用で評価良好

芦北でこぽんでは、2017年10月にヤマハ発動機の7人乗りカートタイプの車両を使用し、病院や役場などをめぐる走行延長約6キロのルートを、レベル2やレベル4の走行で農作物の集荷や地域住民の移動、宅配便や図書の返却などを行った。

概ね問題なく走行でき、乗車モニターの評価も高かったようだ。今後、福祉や物流などサービスに応じた車両定員・積載重量、構造をはじめ、地域の特性に応じた運行方法と必要な設備、車内の安全確認方法と必要な設備などについて検証することとしている。

滋賀県大津市の「妹子の郷」:2019年3月初実施、観光創出や貨客混載など実証

机上検討を進めてきた妹子の郷でも、2019年3月に実証実験が行われることとなった。走行延長約19.2キロメートルの区間で、総合病院への通院や市役所支所への移動など高齢者の日常生活の支援をはじめ、貨客混載による道の駅への農産物輸送、日本二百名山の一つである武奈ヶ岳などと道の駅を結び新たな観光の流れ創出に向けた実証を行うこととしている。

【参考】妹子の郷の実証実験については「人口250人の滋賀・葛川地域で自動運転の実証実験 レベル4搭載、道の駅を利用」も参照。

長野県伊那市の「南アルプスむら長谷」:実証実験アンケートで反対意見はわずか1%

南アルプスむら長谷では、2018年2月に先進モビリティの定員20人のバス車両を利用し、診療所や長谷総合支所などを結ぶ総延長約5キロメートルのルートをレベル2やレベル4で走行。道の駅の商品の配送支援や書類の配達、集落から道の駅への商品出荷支援などを行った。

技術面では、磁気マーカーを使用した自己位置特定は有効に機能したほか、後続車に対しバス停を活用して追い越しを誘導するなどの措置をとった。

国土交通省が実施した住民アンケートでは、46%が賛成する一方反対は1%にとどまるなど、社会受容性の面では及第点だったようだ。

【参考】南アルプスむら長谷の実証実験については「長野で実施の自動運転バス実験、反対住民わずか1% 自動運転レベル2、自動運転レベル4で走行」も参照。

福岡県みやま市の山川支所:物流や福祉面で一定の需要を確認

道の駅以外では、みやま市の山川支所で2018年2月に実証実験が行われている。ヤマハ発動機の7人乗りカートタイプの車両を使用し、支所を拠点に片道約5キロメートルの中山間地域を往復運行。児童や高齢者の移動をはじめタブレット端末の商品注文システムを導入した商品配送などを実施した。

線形や勾配が厳しい道路構造でも問題なく走行できたが、幅員が小さい交差点や狭隘区間などでは、走行停止や手動運転が必要だった。

ビジネスモデルとしては、人の移動に伴う運賃収入以外の収入方法を検討する必要がある一方、貨客混載などの物流や福祉面で一定の需要を確認したという。

■【まとめ】公道におけるレベル4は道の駅から!?

乗車モニターからの評価は概ね高い一方、低速走行などに不満を持つドライバーもいるようで、自動運転走行区間の明示を含め理解の醸成はまだまだ必要なようだ。

地域の課題解決においては自動運転車がヒトやモノの移動の一助になっていくのは事実で、今後、継続を前提に他の地域でも流用できるような形でいかにビジネスモデルとして確立していくかがカギになりそうだ。

また、公道における自動運転レベル4は、道の駅などを拠点にスタートする可能性が高い。その意味でも、今まで以上に実証と検証を重ね成功事例を作り上げてもらいたい。

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