位置情報を活用したマーケティングやサービス施策の促進を図る一般社団法人「LBMA Japan」はこのほど、位置情報関連ビジネスを展開する上での活用に関するガイドラインを策定した。
スマートフォンの普及などを背景に多くのデータが生成され、これを基にサービスの増進を図る動きが活発化しているが、こうしたデータの扱いに共通のルール・基準を設けることで、業界の健全性を保ちながらデータ利活用の促進を図る狙いだ。
こうした活動の必要性は、多くのデータを生み出すモビリティ分野にも当てはまり、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)を対象にしたルール作りが求められるところだ。
LBMA Japanの取り組みを参考に、自動運転やMaaS分野におけるデータ利活用の課題や現状を解説していく。
記事の目次
■LBMAの取り組み
世界に26支部、1600超の会員が参加
LBMA(The Location Based Marketing Association)は、ロケーションベースドマーケティングソリューションについて社会全体の理解や支持を高めることや地域密着型マーケティングソリューションの有効活用などを推進する目的で設立された団体。世界に26の支部を有し、1600超の会員が参加している。
日本支部となるLBMA Japanは2020年2月に設立され、インクリメントPや三井住友海上火災保険、GMOタウンWiFi、NTTデータをはじめ、ロケーションデータなどを取り扱う企業が加盟している。
スマートフォンなどの各種デバイスの普及にともない、端末にひもづく位置情報などのデータの取得・利活用が進んでいるが、この位置情報などのデータに「デバイスロケーションデータ」という名称を設け、その利活用によるビジネスの展開を目指している。
「デバイスロケーションデータ」とは?
デバイスロケーションデータは、基本的に単体では特定の個人を識別することはできず、他の情報と容易に照合して個人を識別することができない限りにおいては、個人情報保護法が定める「個人情報」には該当しないが、データの蓄積や利活用の方法によっては、行動経路や滞在履歴が可視化されたり、特定の個人が識別されたりする可能性がある。
これまでは、デバイスロケーションデータの利活用を行う事業者がそれぞれ法令に基づいて独自ルールに則った利活用を行ってきたが、昨今のデータの利活用における社会的な影響を背景に、健全で持続可能なデータの利活用を促進するため、業界全体としての基準を定めることが重要と考え、ガイドラインの策定に至った。
ガイドラインの対象データは?
ガイドラインは、スマートデバイスから取得されたデバイスロケーションデータを対象としており、個人情報保護法で定められたデータの取り扱いについては対象外としている。
個人情報保護法や電気通信事業法など国内の関連法規・ガイドラインの遵守をはじめ、国際基準・プラットフォーム基準の参照、アカデミア観点の反映、持続可能性のあるビジネス合理性の担保の各観点を前提としている。詳細は会員のみ参照できるようだ。
■自動運転分野におけるデータ
自動運転やコネクテッドカーで収集される情報
自動運転においては、前提となるコネクテッド化によってさまざまな情報が収集される。該当車両の種類や年式をはじめ、アクセルやブレーキ・ステアリングの操作状況、車速、クルーズコントロールなどのシステムの作動状況、シートベルトや窓の開閉状況、ワイパーの稼働状況、走行中の位置情報、時刻情報、車両のメンテナンス情報、運転者や同乗者情報、サービスやアプリの利用状況なども収集可能だ。
さらに、HMI(ヒューマンマシンインタフェース)やDMS(ドライバーモニタリングシステム)の普及や進化により、ドライバーの目線や脈拍なども計測可能となる。ドライバーを事前に識別することで、過去の交通事故歴なども蓄積されるかもしれない。
自動運転車においては、車載カメラなどのセンサーが取得した映像などもデータとしてクラウドに収集・蓄積される可能性が高い。解析したデータをフィードバックすることで自動運転システムの安全性を高めることができるからだ。
将来的には、運転から解放され自由な空間となる自動運転車において、エンターテインメントをはじめとしたさまざまなサービスが提供される可能性が高く、こうした面から乗員の嗜好に関わる情報も収集される可能性がありそうだ。
自動運転やコネクテッドカーにおけるデータの取り扱い
多くは個人情報と直接結びつくことのない情報となるが、位置情報にひもづく目的地の情報など、個人と結び付けずデータを収集する場合と、個人と結び付けたうえでデータを収集する場合とで扱いが変わる。後者のケースでは、個人の行動履歴がデータ化されることになるからだ。
テレマティクス保険のように、個人と結び付けたデータを収集することを前提に契約を結んだ場合、その企業が保険事業を目的にデータを活用するのは当然のこととなるが、こうしたデータを他の目的に使用したり、他企業に提供したりする際は事前に取り決めが必要となる。個人情報とのひもづけを外す、いわゆる匿名加工を施してビッグデータとして利用する手法などもあり、情報を取り巻く環境は想像以上に複雑なのだ。
日本は特にプライバシーを含め個人情報の取り扱いに厳しい国だ。マイナンバー制度のように、国が情報を管理する場合においても厳しい目が向けられている。たとえ各種データを有効活用することで社会全体のサービス増進につながるとしても、逐一取り扱いに注意を払わなければならないのだ。
一方、消費者目線では、契約の際に個人情報の取り扱いについてその都度細かに目を通さなければならない。どの企業がどのような形で情報を利用するのか、契約ごとに内容や方針が変わるからだ。
こうした際に、業界などが策定した統一基準・ガイドラインのもと各社が一律にデータ運用を図っていれば、消費者にとっても情報の取り扱いが分かりやすく、かつ違反行為なども目立ちやすくなる。
自動運転業界においては、現在のところ自主規制が中心であり、各社の判断に委ねられているのが現状だ。しかし、コネクテッドサービスも本格化し、扱われるデータは年々肥大化している。自動運転が社会実装される頃には、データ活用による新サービスも多く登場することが想定されるため、早期に業界あるいは国が指針となるガイドラインを策定すべきなのかもしれない。
■MaaS分野におけるデータ
自動運転同様、MaaSもデータの宝庫だ。モビリティの時刻表や料金、運行エリアなど各企業が有する情報をはじめ、プラットフォームには多くの利用者の情報が収集されることになる。MaaSに参加する企業やプラットフォーマーがそれぞれ所有する情報をどの範囲でどのように共有すべきか、その複雑性は自動運転分野をはるかに超える。
MaaSに関しては、国土交通省が2020年3月、「MaaS 関連データの連携に関するガイドライン」を発表している。関連するデータが円滑かつ安全に連携されるよう情報の取り扱い方法などに関わる指針をまとめたもので、多くの個人情報が含まれる可能性があることから、データをやり取りする際は個人情報保護法などに従って所要の個人情報・プライバシー保護対策を行う必要があることに言及している。
【参考】MaaS関連データ連携ガイドラインについては「国交省、「MaaS関連データの連携に関するガイドラインver.1.0」を策定」も参照。
■【まとめ】データの利活用推進と個人情報保護を両立させるルールが必須に
自動運転、MaaS双方とも、収集されるデータをいかに有効活用するかが問われるとともに、その取扱いについては最大限の注意を要するなど、ある意味二律背反するような状況となっているが、それだけにルール作りが必要な分野と言える。
各種データの共有・連携は今後必然の流れとなることからも、広く業界団体で運用ルールを策定し、新規参入企業にも協調を促していく仕組みが求められそうだ。すでに水面下で動きがあるかもしれないが、次世代モビリティ社会において非常に重要な取り組みとなることは間違いない。
【参考】関連記事としては「産総研&日立が提案した移動体データ形式、国際標準仕様に採択 自動運転に貢献」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)