新型コロナウイルスによる自粛の影響で、自宅で過ごす時間が増加している。自宅で仕事を行うテレワークも増加傾向にあり、コロナ収束後も一定程度定着する可能性が高い。
こうした自宅における生活時間の増加により、家の中で活躍するロボットに注目が集まっており、技術や製品開発も盛んに行われているようだ。
今回は、自動運転技術を搭載した家庭向けロボットに焦点を当て、開発動向に触れていこう。
記事の目次
■家庭向けロボットと自動運転技術
家庭向けロボットと言えば、ソニーが1999年に発売したAIBO(2018年に新型aibo発売)や、ルンバに代表される掃除ロボットが頭に浮かぶ人も多いのではないか。
AIBOやルンバも自律移動が可能だ。当初は障害物にぶつかったら向きを変えるなど、最低限のセンサーとシンプルなアルゴリズムによって部屋の中を移動していた。
こうした移動機能は、障害物を避ける動作や充電ステーションに自ら戻る機能、人を認識して追従する機能など徐々に進化し、より自律した移動を可能にしてきた。近年では、家庭向けロボットにLiDAR(ライダー)などの各種センサーを搭載し、マッピング技術や画像解析技術を駆使するものも登場しているようだ。
それほど広くない室内で自律走行が必要か……といった観点もあるが、掃除やコミュニケーション、ホームアシスタントなど、求められる機能の幅が広がり、技術の高度化と相まって家庭向けロボットの自動運転機能が進化しているのも事実だ。
以下、自律走行技術を搭載したさまざまなロボットを紹介していこう。
■コミュニケーション・ホームアシスタント系ロボット
家族型ロボット「LOVOT」
ロボット開発を手掛ける国内スタートアップのGROOVE Xが2018年に発表した家族型ロボット「LOVOT(ラボット)」は、自動運転車さながらのセンサーで自律走行を可能にしている。
10以上のCPUコアや20以上のMCU、50以上のセンサーを搭載し、生き物のようなふるまいを再現している。各センサーが捉えた刺激をディープラーニングを含む機械学習技術で処理し、リアルタイムな動きを生み出すほか、独自の性格を育んでいくという。
自律走行は、深度カメラや障害物センサーが進行方向にある物体を感知し、対象物までの距離を測ることにより実現している。測距センサーで段差を把握し、回転やバック、カーブなど各場面で最適な動きを行うことが可能だ。
パーソナルアシスタントロボット「temi」
ロボット開発を手掛ける米temi USAは、自律走行が可能なパーソナルアシスタントロボット「temi」を製品化している。
360度LiDAR(ライダー)や深度カメラ、RGBカメラ、近接センサーなど計16のセンサーが搭載されており、あらかじめ登録された地点まで自ら障害物を避けながら走行したり、人に追従したりすることを可能にしている。
機能面では、対話型・音声操作に対応したAIアシスタント機能により、スマートスピーカーと同様、情報の検索や連携家電の操作、ビデオ通話、高音質なスピーカーによるメディア再生などを行うことができる。
高さ約100センチの洗練されたデザインで、先端技術開発などを手掛けるhapi-robo(ハピロボ)が国内総代理店として2019年10月から販売を開始している。
企業の導入が中心となっているが、大和ハウス工業はIoTを活用したコンセプトハウスにtemiを常設し、新たなライフスタイルの提案とともにさまざまな実証を進めているようだ。
【参考】関連記事としては「自動運転のAIロボット「temi」、代理店のハピロボが国内販売開始」も参照。
ホームアシスタントロボット「BUDDY」
仏Blue Frog Roboticsが製品化したスマートロボット「BUDDY」は、ホームセキュリティ機能やスケジューリング、マルチメディア、高齢者ケアなど多彩な機能を持つアシスタントロボットだ。
障害物を回避しながら自律走行することが可能で、頭・顔の部分に設置されたモニターに表情を映し、かわいらしさを演出している。
2013年発表の初代から数え現行型は3代目となり、随時進化を図っているようだ。
ボッシュ系ベンチャーが開発した「Kuri」、惜しまれつつ製造中止に
家庭用のアシスタントロボットとして一時期注目を集めたのが、独ボッシュの社内ベンチャーMayfield Roboticsが開発した「Kuri」だ。
高さ50センチほどの小型タイプで、雪だるまのようなかわいらしい外観と、映画スター・ウォーズに登場するR2-D2のようなコンピュータ音で返事をするのが特徴。人の顔を認識するカメラやレーザーセンサーなどを搭載し、音声コマンドに応答する機能やセキュリティカメラ機能、音楽再生機能などを備えているようだ。
2016年12月に出荷開始が発表され、その後の評判は上々だったようだが、ボッシュの判断として、2018年夏ごろに突如製造中止が発表された。
高度な自動運転技術を持つサプライヤー系の取り組みだが、こうした新分野へ自動運転システムやHMIなどの技術展開を図る動きが今後出てくる可能性もありそうだ。
■介護系ロボット
高齢化・長寿命化が進む日本では、介護の在り方が大きな社会問題となっている。金銭面、労力面で大きな負担を強いられ、介護者と被介護者の共倒れが懸念される場面は思いのほか大きい。
また、新型コロナウイルスの影響は介護現場にも及び、自宅介護を余儀なくされるケースも増加したようだ。介護施設におけるコロナ感染はクラスター化する例が多いためだ。
こうした介護問題を打開する一つの策が介護ロボットの導入で、研究開発が盛んに進められている分野に数えられる。
多くは事業者向けのロボットだが、機能の簡素化や小型化を図り、独居高齢者などに対応したパーソナル向けのロボットが今後増加する可能性も高そうだ。
自動駆けつけ介護ロボット「SOWAN(ソワン)」
シティモビリティの開発などを手掛けるテムザックは2019年11月、高山商事と共同で自動駆けつけ介護ロボット「SOWAN(ソワン)」を開発し、受注受付の開始を発表した。
ソワンは、24時間体制での対応が求められる介護現場において、建物内を自動巡回し、必要に応じて利用者のもとへ駆けつけたり、さまざまなデータを送信したりすることができる。
360度LiDARやカメラを搭載しており、事前に建物内を巡回することでマップを作成し、自動巡回を可能にしている。自動で充電ドックへ戻る自動充電機能もオプションで追加可能だ。
人物認識では、事前に登録した人を巡回中に発見した時は声掛けを行うほか、利用者の腕に装着した活動量計のデータをもとに脈拍などを把握し、設定値を超えると自動で居室に駆けつけ、入室と同時に映像の録画を開始する。職員はその映像を遠隔で確認し、ソワンを通じて利用者と会話することも可能という。
2020年5月には、新型コロナウイルス対策として除菌消臭液の噴霧機能を追加したことも発表している。
【参考】SOWANについては「自動運転の介護ロボ「SOWAN」、コロナ対策で除菌液の噴霧機能を追加」も参照。
ヒューマノイド型ロボット「PALRO(パルロ)」
富士ソフトが2010年に発表したヒューマノイド型ロボット「PALRO(パルロ)」は年々バージョンアップを繰り返し、AIによる高度なコミュニケーション機能を実現している。
会話の中から相手が見たことのあるものや行ったことがある場所など経験を記憶し、話の脈絡の中で話題として提供する頭脳を持っている。
また、介護予防機能として、ご当地クイズや旗上げゲーム、ダンス、体操などの各機能を備えている。
高さ約40センチと小型で、3軸加速センサーや2軸ジャイロセンサー、距離センサーなどでバランスをとったり障害物を検知したりする。
介護現場など広く対応可能な「アイオロス・ロボット」
米Aeolus Robotics Corporation(アイオロス・ロボティクス)が2019年に量産を開始した「アイオロス・ロボット」は、AI(脳)や自律走行(足)、アーム(手)、3Dビジョン(目)を搭載し、さまざまな機能を発揮する。
人物認識では、姿勢から「立つ」「座る」「寝る」「倒れている」などの状態を識別することができる。物体認識では、事前に登録することで最大10万個の物体を検知可能だ。
自律走行はLiDARなどを使用してMAPを作成することで可能にしており、エレベーターの乗り降りやスライドドアの開閉などもできるという。2本のアームで物の運搬にも柔軟に対応することができる。
■研究開発も盛んに
東京大学IRT研究機構、掃除や後片付けを行うロボット技術発表
東京大学IRT研究機構は、ホームアシスタントロボットによる掃除後片付けを行う技術を発表している。
LRF(Laser Range Finder)のスキャンデータとステレオカメラで撮影した画像データを併用する家具姿勢推定など、一般的なセンサー構成で適用できる家具姿勢推定法と衣類発見手法を新たに開発したほか、家具や道具などを操作するため3次元幾何モデルを規範とした行動生成システムを構築した。
また、失敗検知・動作やり直し機能として、視覚・力覚などの外界センシング情報や計画時の姿勢と実作業時の姿勢を比較するなどして、作業状態を監視する機能も搭載している。
実験機は、ステレオカメラやLRF、腕部力センサーなど外界センサーを搭載し、さまざまな姿勢で物体に作用できる腰軸と双腕アーム構成、器用な物体操作を可能にする多指ハンド、空間内を広く移動するための台車機構などを備えているようだ。
■【まとめ】家庭向け自動運転技術の普及なるか
いわゆる愛玩ロボットも近年は自律移動技術の高度化が進んでおり、自動運転技術がより身近なものとなっている印象だ。
家庭内では走行場所が限られるため、掃除系ロボット以外で今後どのように自動運転技術が活用されていくかがカギとなる。例えば、洗濯機や冷蔵庫と連動し、洗濯物を運んだり飲み物を運んだり……といった特定の機能から応用が進み、進化を遂げる可能性も考えられそうだ。
需要面を考慮すれば、小型の警備ロボットなどは有力かもしれない。固定された防犯カメラではなく、センサーで不穏な動きを感知して移動し、状況をリアルタイムで所有者に送信するといった具合だ。
自由な移動という要素が家庭内のどのような場面で生かされるか。国内だけで6000万近い世帯数を誇るビッグな市場だけに、正解にたどり着いた時のリターンは相当大きなものになりそうだ。
【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)