コロナ禍でさまざまな活動に制限が課される中、米半導体大手NVIDIAが提供するクラウドベースの「NVIDIA DRIVE Constellation」プラットフォームに注目が集まっている。仮想環境で自動運転技術を進化させることが可能なプラットフォームだ。
最新技術を発表する年次イベント「GTC2020」で、自宅から基調講演を行った同社のJensen Huang(ジェンスン・ファン)CEOもこの点を強調している。今回はこの講演をもとにNVIDIA DRIVE Constellationの特徴を解説していこう。
記事の目次
■NVIDIA DRIVE Constellationとは?
NVIDIA DRIVE Constellationは忠実度の高い仮想空間を再現可能な自動運転車両シミュレーターで、2台の異なるサーバーの計算処理能力を利用することで、クラウドベースの革新的でスケーラブルなコンピューティング・プラットフォームを提供する。
1台目のサーバーはDRIVE Simソフトウェアで自動運転車に必要となるカメラやLiDAR(ライダー)、レーダーなどのセンサーをシミュレートする。パワフルなGPUが写真のようにリアルなデータストリームを生成し、暴風雨や吹雪、強烈にまぶしい日差しなどさまざまなテスト環境やテストシナリオを作成できる。
2台目のサーバーには、AI車載コンピューターDRIVE AGX Pegasusを搭載し、車両内部で動作する自動運転ソフトウェアスタック全てをバイナリ互換で実行する。実際の道路を走っている車のセンサーから送られてきたようなシミュレーションデータを実時間で処理することが可能という。
この2台目のサーバーによる走行判断が1台目にフィードバックされ、ビットレベルの精度を持ちつつもリアルタイム実行が可能なHardware-in-the-Loopを用いた開発と検証を実現する。
NVIDIA DRIVE Constellationはオープンプラットフォームとして提供しており、DRIVE Constellationの利用者はエコシステムパートナーのモジュールを活用し、自分のニーズに合わせてシミュレーションテストをカスタマイズできる。
【参考】NVIDIA DRIVE Constellationについては「米半導体大手NVIDIA、自動運転シミュレーション用のオープンプラットフォーム発表」も参照。
■GTC2020における講演内容は?
GTC2020の様子は9本の動画に分けて公開されており、自動運転関連はパート8に収められている。
【参考】パート8の動画は「https://www.nvidia.com/ja-jp/gtc/keynote/?video=8」から閲覧できる。6分23秒の動画だ。
デモ動画では、NVIDIA DRIVE AVソフトウェアを搭載した仮想のNVIDIA BB8テスト車両が、シリコンバレーにあるNVIDIA本社近くの幹線道路や市街の道を歩行者や交通車両を避けて走行する様子が収められている。道路や背景などが非常に精密に再現されているほか、ブレーキ・アクセル時の車体の傾きや水しぶき、他車の排気ガスまでも反映されている。
スケーラブルな仮想フリートとしてデータセンターで展開できるよう設計されているため、現実世界ではめったに起こらないような悪天候など、非常にまれで危険なシナリオも一貫してテストすることが可能だ。
自動運転の開発においては、サブシステムから車両全体の結合テストに至るまであらゆる段階でのテストが必要になるが、NVIDIA DRIVE Constellationはこうしたエンドツーエンドの開発とテストをシミュレーション内で実現し、物理的な車両を用いた場合と同様の開発を行うことができる。
エンドツーエンドのテストでは、タイミングと動作を正確に合わせるだけでなく、自動運転ソフトウェア内で複雑に依存しあう個別のシステムを正確にモデル化することができるという。
忠実な運転環境の構築は非常に大変な作業で、周辺環境や周辺車両の動き、センサー入力、車両力学が必要で、車載コンピューターへのフィードバックが現実世界と同じようにならなければならない。
そのためには多くのGPUが正確なタイミングで合成データを生成する必要があり、車両のソフトウェアやハードウェアの信号、インターフェースをシミュレーションの中で再現し、すべてリアルタイムで実行することが求められることになる。
以下、シミュレーションにおいて重要となる3要素について、NVIDIA DRIVE Constellationの特徴・仕組みを見ていこう。
3D環境の構築
動画の舞台となっているシリコンバレーの環状道路を正確に再現するため、NVIDIA DRIVEエコシステムのメンバーである独3D Mapping社が車道を5センチ単位の精度でスキャンし、そのスキャンデータをOpenDRIVEと呼ばれるデータセットフォーマットで処理した。
これを基にNVIDIAがコンテンツ作成パイプラインを開発し、NVIDIA Omniverseコラボレーションプラットフォームを使って正確な3D環境を生成した。この環境には道路の車線や路面標示なども正確に表現されており、物理世界の本物のセンサーと同様に電波や光線などが相互作用するよう、マテリアルのプロパティも適用されている。
センサーデータの再現
忠実度の高い開発とテストにおいて3D環境の次に求められるのは、正確に生成されたセンサーデータだ。センサーモデルには、一般的な自動運転テスト車両に備えられているカメラやLiDAR、レーダー、慣性計測装置などが含まれているほか、DRIVE Simは柔軟なセンサーパイプラインとAPIを提供しており、現実の車両の構造に合わせてセンサーを配置できるようになっている。
DRIVE Simはレイトレーシングを使用し、物理に則したLiDARとレーダーのセンサーも提供しており、NVIDIA RTX GPUによって、DRIVE Simは非常に計算負荷の高いレーダーとLiDARのモデルをリアルタイムで実行できる。
車両の動作をモデル化
車両モデルでは、車載コンピューターに送信されるステアリングや加減速といった制御信号に基づき、物理世界と同様に反応するよう、シミュレーションプラットフォームにおいて、道路の表面との相互作用など細部を含め動きを正確に再現する必要がある。
DRIVE Simの車両モデルは、プラグインシステムを使って処理されており、組み込みのPhysXモデルやNVIDIA DRIVEエコシステムパートナーであるMechanical Simulation、IPGなどのサードパーティ製車両力学モデルを利用することができる。
車両の動作中、例えば車が減速している際は前方カメラが下に傾くなど、著しく動く車両の位置や姿勢がセンサーの視点に影響を与える。こうしたセンサーデータを適切に生成するには、車両力学の正確なモデル化が重要となる。
これら環境、センサー、車両力学をエンドツーエンドの単一プラットフォームで正確にシミュレートすることによって、NVIDIA DRIVE ConstellationとDRIVE Simは包括的な開発・テストのパイプラインにとって欠かせない一部となり、本来のテスト車両がガレージに停められている間もより安全で効率的な自動運転車の開発に取り組むことを可能にする。
■【まとめ】コロナ明けの自動運転技術の進化に期待
日々進化を遂げる自動運転車の影で、こうしたシミュレーション技術もまた進化を遂げていることがよく分かる講演内容だ。
マッピングをはじめとした外部環境と車両の精密な動き、センサーの機能が忠実に再現され、タイムラグを生じることなく各種データを取得できるシミュレーション技術は、コロナ禍における自動運転開発を促進するのはもちろん、平時における開発も大きく前進させる。
コロナ禍が明けたころには、開発各社が格段に進化した自動運転システムをお披露目してくれる可能性も高そうだ。
【参考】関連記事としては「NVIDIAの自動運転プラットフォーム、ベンチャー3社で活躍 Pony.ai、Canoo、Faraday Future…」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)