【解説】自動運転解禁への道路交通法と道路運送車両法の改正案の概要

2020年にもレベル3実現へ ジュネーブ条約の動向に注目

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自動運転車の公道走行ルールを盛り込んだ「道路運送車両法の一部を改正する法律案」及び「道路交通法の一部を改正する法律案」が2019年3月8日、閣議決定された。政府は2020年夏ごろまでの施行を念頭に、今国会での成立を目指す構えだ。

自動運転レベル3(条件付き運転自動化)相当の概念が盛り込まれたこの改正により、自動運転の実現に大きな弾みがつくことになる。今回はこの2つの法律改正について、中身を精査してみよう。

■改正の背景

改正の背景にあるのは、2018年4月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議が発表した自動運転に係る制度整備大綱だ。

自動運転車については、高速道路において自動運転を実施する車両や、過疎地などの限定地域において無人で移動サービスを提供する自動運転車の開発が、2020年の実用化に向けて進められているが、現行法は自動運転車を想定したものとなっていない。

このため、同大綱では、自動運転システム搭載車両の導入初期段階となる2020年から2025年頃の、公道において自動運転車と自動運転システム非搭載の従来型一般車両が混在し、かつ自動運転車の割合が少ない過渡期を想定した法制度の在り方について検討している。

具体的には、自家用車においては自動運転レベル2(部分運転自動化)による高速道路・一般道路の走行をはじめ、自動運転レベル3(条件付運転自動化)の高速道路走行、物流サービスでは高速道路でのトラックの隊列走行、移動サービスにおいては、限定地域における遠隔型自動運転システムなどを活用したレベル4(高度運転自動化)などを想定している。

■道路交通法の改正ポイント

自動車の自動運転の技術の実用化に対応した運転者などの義務に関する規定の整備として、以下の3項目が盛り込まれた。

①自動運行装置の定義等に関する規定の整備

自動運行装置の定義に関し、道路運送車両法第四十一条第一項第二十号に規定する自動運行装置を準用することとしている。道路運送車両法による定義については後述する。

②作動状態記録装置による記録などに関する規定の整備

自動車の使用者は、自動運行装置を備えた自動車で作動状態記録装置により作動状態の確認に必要な情報を正確に記録することができないものの運転を禁じている。つまり、自動運転車においては、必要な情報を記録できる装置の搭載が義務化される。

その上で、整備不良車両に該当すると認められる車両が運転されている際は、警察官は当該車両の運転者に対し作動状態記録装置により記録された記録の提示を求めることができることとし、この場合において、当該記録を人の視覚又は聴覚により認識することができる状態にするための措置が必要であると認めるときは、当該車両を製作した者などに対しても当該措置を求めることができるとしている。

また、自動運行装置を備えている自動車の使用者は、作動状態記録装置により記録された記録を、内閣府令で定めるところにより保存しなければならないことなども盛り込まれている。

③自動運行装置を使用して自動車を運転する場合の運転者の義務に関する規定の整備

自動運行装置を備えている自動車の運転者は、当該自動運行装置に係る使用条件を満たさない場合においては、当該自動運行装置を使用して自動車を運転してはならないこととする。

また、自動運行装置を使用して自動車を運転する運転者が、当該自動運行装置に係る使用条件を満たさなくなった場合などにおいて、ただちにそのことを認知するとともに当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にある場合は、当該運転者について第七十一条第五号の五の規定を適用しないこととしている。

第七十一条第五号の五は、「携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置を通話のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと」を規定した条文で、運転中のスマートフォンなどの操作を禁じる内容となっている。

この禁止事項に対し、自動運転による走行時は、システムからの要請に即座に対応できる状況であれば適用しないこととする内容が盛り込まれた。スマートフォンや車載テレビの閲覧などはシステムからの要請にすぐ対応できるため可能となるが、飲酒や睡眠などはすぐに対応できないため、従来と変わらず不可とされている。

飲食や読書などその他の行為については新たに規定されていないため、安全運転義務違反などに問われる可能性が高そうだ。

このほか、今回の改正には、携帯電話使用などに関する罰則や反則金の限度額の引上げや免許の効力の仮停止に関する規定などについても盛り込まれている。

施行期日は、道路運送車両法の一部を改正する法律の施行の日から施行することとしている。また、携帯電話使用などに関する罰則強化については、公布の日から起算して6カ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている。

■道路運送車両法の改正ポイント

道路運送車両法は、自動車などの道路運送車両に関し、所有権についての公証などを行い、安全性の確保や公害の防止、その他の環境の保全、整備に関する技術の向上を図り、合わせて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とした法律。自動車の構造や装置、保安基準、整備管理、車検などに関し規定されている。

現行法は自動運転車を想定したものとなっていないことと、自動車技術の電子化・高度化により、自動ブレーキなどの先進技術搭載車が急速に普及し、通信を活用したソフトウェアの更新による自動車の性能変更が可能となっている事実などを踏まえ、自動運転車などの安全な開発・実用化・普及を図りつつ、設計・製造過程から使用過程に至るまで、自動運転車などの安全性を一体的に確保するための制度整備として、大きく5項目にわたる改正を行うこととしている。

①型式指定制度に係る是正命令などの創設

国土交通大臣は、自動車、共通構造部又は装置の型式の指定の申請をした者が型式指定制度に係る国土交通省令の規定に違反していると認めるときは、当該者に対し、当該違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命じ、又は当該違反を是正するために必要な措置が講じられたものと認めるまでの間、当該指定の効力を停止することができるものとする。

②保安基準対象装置への自動運行装置の追加

保安基準対象装置の中に新たに自動運行装置を盛りこんでおり、「プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの」と定義した上で、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならないものとしている。

自動運行装置を「プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な装置」とし、この中に作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置も含むこととしている。

③分解整備の範囲の拡大と点検整備に必要な技術情報の提供の義務付け

自動車の使用者は、当該自動車について特定整備(原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置、連結装置又は自動運行装置を取り外して行う自動車の整備又は改造その他のこれらの装置の作動に影響を及ぼすおそれがある整備又は改造であって国土交通省令で定めるものをいう)をしたときは、遅滞なく、点検整備記録簿に整備の概要や整備を完了した年月日その他国土交通省令で定める事項を記載しなければならないものとするとともに、自動車の特定整備を行う事業を経営しようとする者は、当該事業の種類及び特定整備を行う事業場ごとに、地方運輸局長の認証を受けなければならないものとしている。

また、自動車製作者などは、国土交通省令で定めるところにより、その製作する自動車で国内で運行されるものについて、自動車の特定整備を行う事業の認証を受けた者等が点検及び整備をするに当たって必要となる当該自動車の型式に固有の技術上の情報であって国土交通省令で定めるものをこれらの者に提供しなければならないものとしている。

要約すると、分解整備の範囲を自動運行装置などの先進技術に関する整備まで拡大し、その名称を「特定整備」に改めるとともに、自動車メーカーなどに対し、点検整備に必要な技術情報を、特定整備を行う事業者などへ提供することを義務付ける内容となっている。

④基準適合性審査に必要な技術情報の管理に関する事務を行わせる法人に関する規定の整備

自動車の検査に関する事務のうち、基準適合性審査に必要な技術上の情報であって国土交通省令で定め るものの管理に関する事務を、独立行政法人自動車技術総合機構に行わせるものとしている。

つまり、自動車の電子的な検査の導入に伴い、当該検査に必要な技術情報の管理に関する事務を自動車技術総合機構に行わせることとしている。

⑤自動車の特定改造などに係る許可制度の創設

自動運行装置その他の装置に組み込まれたプログラムなどの改変による自動車の改造であって、当該改造のためのプログラムなどが適切なものでなければ自動車が保安基準に適合しなくなるおそれのあるものとして、国土交通省令で定めるものを電気通信回線を使用する方法その他の国土交通省令で定める方法によりする行為、及び改造をさせる目的をもって、電気通信回線を使用する方法その他の国土交通省令で定める方法により自動車の使用者その他の者に対し当該改造のためのプログラムなどを提供する行為について、あらかじめ国土交通大臣の許可を受けなければならないものとしている。

かいつまんで言うと、重要なプログラムの改変など、その内容が適切でなければ自動車が保安基準に適合しなくなるおそれのある改造に関する許可制度を創設する内容だ。

また、許可に関する事務のうち技術的な審査を独立行政法人自動車技術総合機構に行わせることとしている。

改正案にはこのほか、自動車の型式指定制度における適切な完成検査を確保するため、完成検査の瑕疵などに対する是正措置命令の創設や、自動車検査証を電子化(ICカード化)するとともに、自動車検査証の記録など事務に係る委託制度を新設することも盛り込まれている。

施行期日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとし、型式指定制度に係る是正命令などの創設に関する改正は公布の日から、自動車の特定改造などに係る許可制度の創設に関する改正は公布の日から起算して1年半を超えない範囲内において政令で定める日から、自動車検査証の電子化に関する改正は公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日からそれぞれ施行するものとしている。

■【まとめ】国内法はクリア 今後ジュネーブ条約の改正が争点に

予定通り事が運べば、2020年夏には自動運転レベル3搭載車が高速道路などを走行することが可能になりそうだが、もう一つ大きな壁がある。ジュネーブ道路交通条約(ジュネーブ条約)だ。

国際的な道路交通法としてジュネーブ道路交通条約とウィーン道路交通条約がそれぞれ統一規則を定めており、ウィーン条約は自動運転システムが国際基準に適合している場合などは許容する旨の改正案を2014年に採択しているが、日本が批准するジュネーブ条約の改正は遅れており、自動運転の普及や実証実験の足かせとなっている。

条約改正に向け日本を含めた各国が主導権争いを繰り広げているが、もはや待ったなしの状況となっている。

国内法の制定や条約の改正は、実際に公道を走行できる環境面だけではなく、技術面における安全基準などが標準化されることで開発スピードも増すことにつながる。

今後、ジュネーブ条約に関する国際的な議論や諸外国の法制度整備状況、産業界の動向や実証実験成果などを踏まえ随時見直しされるものと思うが、こちらの問題も早期進展を期待したい。

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