パリ五輪に続き、2025年開催予定の大阪・関西万博でも乗客を乗せたサービス運航が見送られることになった空飛ぶクルマ。一部で「飛ぶ飛ぶ詐欺」と揶揄されるほど計画の繰り下げが相次いでおり、「ほぼオワコンか?」といったムードも漂っている。
このような状況下、トヨタが空飛ぶクルマ開発を進める米Joby Aviationに5億ドル(約730億円)を追加出資すると発表した。パートナーシップをより深め、実用化に向けた取り組みをさらに加速させていく狙いだ。
今回のトヨタの投資判断は果たして正しいのか。
記事の目次
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■日本関連のJoby Aviationの動向
商業化加速に向けトヨタが追加出資
トヨタは2024年10月、Joby Aviationに5億ドル追加出資すると発表した。2020年1月に出資した3.94億ドルと合わせ、同社への累計投資額は8.94億ドル(約1,300億円)となった。
投資は2回に分けて行われ、1回目は2024年末まで、2回目は2025年に完了する予定で、電動エアタクシーの認証と商業生産をサポートする。投資条件には、商業化の第一段階に向けた製造提携の設立計画が含まれるという。
Joby AviationのJoeBen Bevirt(ジョーベン・ビバート)CEOは「トヨタのモノづくりで培ったノウハウや支援は、当社の取り組みの前進に大きく貢献してきた。より身近な空のモビリティの実現という共通の目標に向け、今後も連携していく」としている。
Joby Aviationは空飛ぶクルマの商業化に向け着実に進歩を続けている。カリフォルニア州マリーナのパイロット生産ラインで3 機目の試作機を完成させており、生産施設も 2 倍以上に拡張する着手している。
型式証明プロセスの5段階のうち4段階目まで進んでいるという。4段階目も3分1を超えており、2024 年中に第4 段階の進展はさらに加速するという。
ベンチャー投資きっかけに協業続く
トヨタとJoby Aviation の関係は、Toyota AI Ventures(現Toyota Ventures)による投資にさかのぼる。AI開発などを手掛けるトヨタの米拠点Toyota Research Institute(TRI)がAIや自動運転モビリティ、ロボティクスなどのベンチャーに投資を行う1億ドルのファンドとして2017年に設立されたもので、Joby Aviationも投資先の一社に名を連ねている。
これをきっかけに両社は2019年に協業を開始し、トヨタが生産技術の見地から生産しやすい工程の設計や治具・補助ツールの開発などの知見を共有・提供してきた。Joby Aviationの資金調達シリーズCラウンドを主導し、計5.9億ドル中3.94億ドルを出資した。2023年には電動化関連部品の供給も開始している。
このほか、トヨタグループで航空事業を手掛ける朝日航洋も、エアモビリティ事業の一環としてJoby Aviationと共同でトヨタ関連向けの空飛ぶクルマシャトル運航サービスの準備を開始している。
ANAともパートナーシップ
日本国内では、ANAホールディングスとも2022年2月にeVTOLを活用した新たな運航事業の共同検討に関する覚書を締結したことが発表されている。
国内大都市圏を中心とした移動サービスの実現に向け、事業性調査、旅客輸送サービス実現に向けた運航・パイロット訓練、航空交通管理、離着陸ポートなどの地上インフラ整備、関係各社および国・自治体と新たな制度・法規への対応など、さまざまな側面で共同検討を実施していく。
また、トヨタ参加のもと、地上交通との連携についても検討を進めていくとしている。
2023年2月には、ANAとJoby Aviationが大阪・関西万博における空飛ぶクルマ運航事業者に選定された。Joby Aviationが開発したeVTOL「Joby S-4」を導入し、会場内ポートや会場外ポートをつなぐ2地点間での空飛ぶクルマ運航を計画していた。
なお、万博での乗客を乗せた商用運航は中止し、デモフライトに切り替える見込みであることが報じられている。
【参考】ANAとの取り組みについては「ANA、東京・大阪圏で空飛ぶタクシー展開へ 全国で数百機展開も」も参照。
開発モデルは日本でも型式証明申請中
Joby S-4は、最高時速320キロ、5席仕様で航続距離は最高240キロのスペックを誇る。高い静粛性と高速性で利便性あふれる都市内・都市間移動を実現するとしている。
2022年10月に海外機として初めて日本の型式認証の申請を国土交通省航空局に実施している。
■空飛ぶクルマの現在地
万博では全陣営が商用運航を断念
大阪・関西万博では、ANA×Joby Aviation陣営のほか、日本航空×独Volocopter、丸紅×英Vertical Aerospace、SkyDriveの計4陣営が空飛ぶクルマの運航事業者に選定され、会場内外での運航サービス実現を目指していた。
しかし、全陣営が2024年9月までに万博での商用運航を断念したことが報じられている。いずれもデモフライトに切り替えたようだ。
2024年に開催されたパリ五輪でも独Volocopterが5つのルートで有人運航サービスを計画していたが、こちらもとん挫し、デモフライトに切り替えている。
【参考】パリ五輪の状況については「空飛ぶタクシー、結局「パリ五輪」に間に合わず 許可取得に失敗」も参照。
証明審査が難航
その要因には、型式証明や耐空証明取得のハードルの高さが挙げられる。耐空証明は飛行に必須で、型式証明は機体の量産化に必須のものだ。取得するには通常数年がかりと言われているが、空飛ぶクルマ(eVTOL)は従来の航空機と仕様が異なり、前例のないさまざまなタイプの安全性や強度、環境条件などを審査しなければならず、より時間を要することになっているようだ。
世界各国の航空当局も慎重にならざるを得ず、認証は世界的に遅れている状況だ。
ある意味、審査が遅れることは致し方ないことだが、商用運航などの計画が中止されることで空飛ぶクルマの社会受容性はどんどん落ち込んでいく。
先進技術は評価されるまで時間がかかる――というのはままあることだが、期待通り、予定通りに開発・実用化が進んでいないのも事実で、負のイメージが定着し始めている印象を受ける。
【参考】大阪・関西万博における空飛ぶクルマの近況については「万博の空飛ぶクルマ、結局は「乗客席からっぽ」で飛行か」も参照。
トヨタも空を飛びたかった?
先を見通しづらい状況が続く中、トヨタはJoby Aviationへの追加出資を決定した。この投資判断は正しいのか。
自動車の自動運転同様、トヨタはこうした分野の実用化を特段急いでいないのかもしれない。多少予定から遅れたとしても、最終的にしっかり実用化できればOK――といったスタンスだ。Joby Aviationは上場企業であり、とん挫せず実用化できれば製造面含め投資効果は望めるのかもしれない。
また、ANAを交えたパートナーシップが象徴するように、地上と空のモビリティを連動させることで、モビリティカンパニーとして新たな道を切り開こうとしている可能性もある。
戦時中含め、トヨタも航空機の開発に力を入れたことはあったが、夢はかなわなかった。トヨタも空を飛びたいのかもしれない。
トヨタと空を結びつける観点はいろいろと考えられるが、エアモビリティも移動手段の一つであり、そのポテンシャルは未知ながらも非常に高い。モビリティカンパニーを目指すトヨタにとって外すことのできない領域なのかもしれない。
■Joby Aviationの近況
2025年に商用運航開始予定
Joby AviationはエンジニアのJoeBen Bevirt(ジョーベン・ビバート)氏らが2009年に設立した。2019年にeVTOLのプロトタイプによる飛行試験を開始するなど、空飛ぶクルマ業界のリーディング企業の一社に数えられる。
NASAや米空軍などとのパートナーシップで開発を加速し、2021年にはニューヨーク証券取引所への上場も果たしている。この年、試験飛行は5,300マイルを超えたという。
2022年に商業用航空タクシーサービスを運営するライセンスを取得し、デルタ航空と複数年にわたる複数都市での運航提携契約を締結している。デルタ航空のサービスにeVTOLサービスをシームレスに統合し、自宅から空港までの航空タクシーサービスを提供する計画だ。
2023年には、カリフォルニア州マリーナのパイロット生産工場で生産を開始し、6月に最初の航空機がラインオフした。ライト兄弟を生んだ航空発祥の地であるオハイオ州デイトンに大規模生産拠点を建設する計画も発表している。
同年には、ニューヨークでのデモフライトを成功させている。ニューヨークを早期導入市場の一つに位置付けており、ラガーディア空港とジョン・F・ケネディ空港のインフラ整備を含む初期運用の計画を進めているという。2025年に商用運航を開始する予定だ。
【参考】Joby Aviationについては「Joby Aviationとは?「空飛ぶクルマ」で世界をリード」も参照。
自律飛行技術のスタートアップを買収
Joby Aviationは2024年6月、航空モビリティの自律飛行技術を開発する米スタートアップXwing Autonomyの自律飛行部門を買収したと発表した。
Xwingは2020年創業で、自律飛行技術「Superpilot」を開発している。地上から監視するタイプの無人運航を実現しており、世界初の完全自律型ゲートツーゲート飛行技術という。
これまでに 250 回の完全自律飛行と 500 回以上の自動着陸を成功しており、2023 年 4 月に連邦航空局 (FAA)から大型無人航空機システムの認証に関する正式プロジェクトの指定を受けている。
Joby Aviationの短期的な有人運用と将来の完全自律運用の両方にメリットをもたらすほか、国防総省との技術開発における提携拡大にもつながるとしている。
自動運転車同様、空飛ぶクルマも将来的な無人運航に大きな期待が寄せられている。無人化によりエアタクシーサービスの低料金化が図られるほか、誰もが空の移動を気軽に体験できるようになる。
商用運航向けソフトウェア「ElevateOS」発表
Joby Aviationは2024年6月、エアタクシー運用向けソフトウェアスイート「ElevateOS」を発表した。高速オンデマンドエアタクシーの運用をサポートする独自ソフトウェアだ。
ElevateOSには、パイロットツールや運用・スケジュール管理ソフトウェア、乗客向けのアプリ、インテリジェントマッチングエンジンが含まれている。マッチングエンジンは、現在の配車アプリのように乗客と利用可能な航空機、着陸ポートを組み合わせ、可能な限り効率的な旅を提供するという。類似のルートを通る乗客同士のマッチング機能も備えているようだ。
過去に買収したUber TechnologiesのeVTOL開発部門Uber Elevateのエンジニアらがゼロから構築したという。
エアタクシー実現に向け、こうしたソフトウェアもぬかりなく開発が進められているようだ。
オーストラリアでも型式認証を申請
2024年8月には、オーストラリアでの商用運航に向けeVTOLの型式認証を正式に申請したと発表した。二国間協定に基づき、オーストラリア民間航空安全局(CASA)にFAA(連邦航空局)型式認証の承認を申請したようだ。
同社はFAAからの認証を取得次第、日本航空局 (JCAB)と英国民間航空局 (CAA)による認証も正式に申請するとしている。
ドバイではエアタクシーの独占契約を締結
Joby Aviationは2024年2月、エアタクシーサービスの展開に関しドバイ道路交通局 (RTA)と正式契約を締結したと発表した。早ければ2025年にも運行を開始する計画としている。
ドバイで6年間にわたりエアタクシーを独占的に運行する権利を取得したという。
■【まとめ】Joby Aviationの開発は着実に前進
計画通り進むことができるかは予断を許さないものの、Joby Aviationの開発は着実に進展しており、アプリや自律飛行技術の開発など、本格サービス展開を見据えた開発もしっかりと進められている。
自動運転同様、本格実用化までには多額の資金が必要であり、開発事業者にとってトヨタのような存在は救世主に相当する。
Joby Aviationは果たしてトヨタの期待に応えることができるのか。2025年の万博でのデモフライトの手応えやニューヨークなどでの商用化計画の動向など、引き続き注目したい。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?英語で何という?定義やヘリコプターとの違いは?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)