自家用車活用事業、通称日本版ライドシェアのドライバー争奪戦が過熱しているようだ。新規参入組のnewmoは2025年度末までにタクシードライバー含め1万人のドライバー確保を目標に掲げている。
一方、プラットフォーマーのUber Japanは、ドライバー応募者を対象にプレゼントキャンペーンを実施するなどこちらも精力的だ。
売り手市場のような状態が続く日本版ライドシェア。ドライバー争奪戦は今後どのような展開を迎えるのか。各社の動向に迫る。
記事の目次
■ライドシェアドライバー獲得に向けた各社の動向
newmoはタクシー事業に参入、タクシー・ライドシェア両方のドライバー1万人を目指す
スタートアップのnewmoは、大阪エリアでタクシー事業を手掛ける岸和田交通グループの岸交に資本参加したほか、同エリアの未来都の全発行済株式を取得して経営権を取得するなど、タクシー事業に直接参入したうえで日本版ライドシェアの展開を見据えている。
【参考】関連記事としては「老舗タクシー会社、「ライドシェアの運営権」狙いで買収標的に?」も参照。
newmoグループの保有タクシー車両数は646台となり、大阪府内のタクシー事業者として5位に位置する。大阪府内を皮切りにタクシー事業に着手し、全国のタクシー事業者との資本提携も進めエリア拡大を図っていく。IT技術を駆使し、各事業者の経営効率化や人材採用などの投資を進めていく方針としている。
日本版ライドシェアに関しては、近隣エリアに複数のグループ会社を有するタクシー事業者がライドシェア参入を検討する際、傘下の1社とnewmoが提携(資本参加)することで協働してライドシェア事業を推進することができる。
岸和田交通グループがその例で、これを「OSAKAモデル」とし、他地域でも同様のパートナーシップを通じたライドシェア事業を展開していく計画だ。
newmo は、2025年度中に全国主要地域でタクシー事業を展開し、タクシー車両数3,000台、ドライバー数1万人を目指す。
このドライバー数には、正規のタクシードライバーとライドシェアドライバーの両方が含まれる。タクシーとライドシェアのハイブリッドモデルで供給拡大を図っていくのがnewmoの戦略だ。
【参考】newmoの取り組みについては「元メルカリ幹部、新会社でライドシェア事業!最高年収1,200万円で人材募集」も参照。
Uberは説明会参加者対象にキャンペーン実施
配車サービス大手のUber Japanは、日本版ライドシェアの導入支援を2024年 4 月上旬から順次開始することを発表している。
Uber アプリを東京・神奈川・愛知・京都の約10社の提携タクシー事業者に提供するほか、日本版ライドシェアで必要となる一般ドライバーへの遠隔点呼の導入・実施サポートやカスタマーサポートなどを提供する。
さらには、ドライバー職に興味のある人を対象地域の提携タクシー事業者に紹介する採用・研修支援を行う。運行開始後は、配車から決済、ドライバーや乗客からの問い合わせや事故発生時の対応も行う。アプリ上では、タクシー事業者による日本版ライドシェアは「自家用タクシー」と表示されるという。
7月には、日本版ライドシェアドライバーに応募し、説明会に参加した人の中から抽選で300人に5,000円分のUberギフトカードを進呈するキャンペーンも開始した。対象は東京都23区もしくは三鷹市・武蔵野市で業務が可能で、車両とスマートフォンの両方を所有している人だ。
同社によると、外部の求人サイトを通じて数百人のライドシェアドライバー候補者にアプローチしたものの6月末時点での応募は数パーセントに留まっており、実際に稼働しているドライバーは割り当てられたライドシェア台数に対し非常に少ない状況になっているという。
ライドシェアドライバーに興味がある人の関心と意欲を高め、パートナーのタクシー事業者を支援していく構えだ。
▼\ Uber ギフトカード 5,000 円分が当たる!/東京のUber 提携タクシー会社にてライドシェアドライバー大募集
https://www.uber.com/ja-JP/blog/nrs_driver_incentive_campaign_202407/
DiDiもドライバー紹介事業を開始
DiDiモビリティジャパンも日本版ライドシェアに向け乗客向け・ドライバー向けアプリの開発や導入を検討しているタクシー事業者向けのプロダクト開発などの支援を開始する計画を発表しており、2024年5月に北海道、宮城、東京、神奈川、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、広島、福岡、沖縄エリアの提携タクシー事業者と連携し、ライドシェア車両のマッチングを6月上旬より順次開始している。
ライドシェアドライバーの募集も開始しており、自家用車を持たない人の応募も受け付けている。Uber同様、タクシー事業者に紹介する方式だ。
今のところキャンペーンなどは行っていないが、Uberに追随する形で新たなキャンペーンを実施する可能性は十分考えられる。
タクシー配車サービスにおけるキャンペーン合戦のように、今後こうした求人紹介案件はプラットフォーマーが盛り上げていくのかもしれない。
電脳交通はタクシー・ライドシェア対応の採用サービス「DS Driver」実証
徳島県を本拠とするテクノロジー企業電脳交通は、二種免許保有者と日本版ライドシェアに適応した採用サービス「DS Driver」の実証を2024年5月に開始した。
2023年11月にも隙間時間にタクシー乗務員として働く二種免許保有者(副業タクシー乗務員)をタクシー事業者が採用する際の実証を行っており、今回の実証はこれに次ぐ取り組みとなる。
需要ピークの特定時間帯のみ勤務するスポット勤務特化の採用サービスを実施し、スポット人材を受け入れたいタクシー事業者と求職者をマッチングする役割を担い、重要課題となっている乗務員不足の解消・緩和を目指すとしている。
二種免許を持たないドライバーが対象の日本版ライドシェアに留まらず、二種免許保有者を対象としたスポットドライバーも募集している点がポイントだ。
スポットドライバーの待遇は時給制や時給+歩合給などさまざまで、週2日4時間~などの勤務時間が提示されている。
DS Driver特設サイトを見ると、2024年7月現在スポットドライバーの求人は東京都や神奈川県、高知県の事業者など6社、日本版ライドシェアドライバーの求人は神奈川県内の1社が掲載されている。
【参考】電脳交通の取り組みについては「空いた時間に「タクシー運転手」に!ライドシェアの仕組み、いらないかも?」も参照。
GOも総合求人サービス「GOジョブ」を提供
国内配車サービス最大手で日本交通グループのGOは、タクシードライバーやアプリドライバー、ライドシェアドライバー、ハイヤードライバーを網羅した総合求人サービス「GOジョブ」を提供している。
パートタイム雇用となるライドシェアドライバーの紹介をはじめ、アプリからの注文のみ受け付け流し営業を行わない専用車「GO Reserve」と、GO Reserveを運行する二種免保有ドライバー「GO Crew」のサービスの全国展開に力を入れているようだ。
2024年7月現在、ライドシェアドライバーを求める東京都内の求人だけでも42件が掲載されている。全国を網羅したタクシーネットワークは、こうした求人事業でも効果を発揮しているようだ。
日本版ライドシェアへの参入を希望するタクシー事業者は、基本的に自社サイトや一般求人サイトでドライバーを募集しているが、GOジョブのようなサイトがあると事業者と希望者のマッチングを図りやすい。
【参考】GOの取り組みについては「私服OK!GO、ライドシェア運転手の募集開始 車両も貸し出し可」も参照。
日本版ライドシェアから派生する形で、こうした求職マッチングビジネスも盛り上がるかもしれない。隙間時間に焦点を当てたスキマバイトマッチングサービス「タイミー」も、国の規制改革推進会議でライドシェアに関する意識調査を発表するなど、日本版ライドシェアに関心があるように感じる。
ライドシェアドライバー争奪戦に向けたアプローチはすでに各社が進めているようだ。
【参考】タイミーの取り組みについては「タイミー、ライドシェア参入か 労使の「直接契約」が前提」も参照。
■日本版ライドシェア(自家用車活用事業)の概要
日本版ライドシェアはタクシー事業者の味方?
現在日本で制度化されているのは、タクシー事業による運行管理のもと、一般ドライバーが自家用車を用いてタクシーサービスを提供する自家用車活用事業だ。
海外では、特に許認可を要せずUberなどのプラットフォーマーに登録した個人が自由にサービスを提供するタイプと、国などの許認可のもとライドシェアドライバーの資格を保有し、サービスを提供するタイプが主流だ。
個人が自家用車を活用してサービスを提供する意味では日本版を含め違いはないが、日本は運行管理や車両整備の責任を誰が担うのか――といった点を重視し、タクシー事業者の傘のもとサービスを提供する制度としている。
それゆえ、一般ドライバーは事実上雇用形態となり、「週~回」「一日~時間」といった自由度の低いパート・アルバイトの立場を余儀なくされている。また、制度上稼働可能な曜日や時間帯も限られている。この自由度の低さが、ドライバーを集めにくい一因となっていることは間違いないだろう。
反面、タクシー事業者から見れば、供給不足分を自身の管理下で安定して補うことができる良制度と言える。「タクシードライバーお試し制度」として仕事を知ってもらうきっかけに位置付け、正規雇用につなげることもできる。
「タクシーサービスの不足分を補う」という制度主旨を踏まえれば、業界と協調した有力な事業であることは紛れもない事実だろう。
自由度低くドライバー確保が難航?
自家用車活用事業では、どれくらいのドライバーを必要としているのか。国土交通省が算出した営業区域ごとの不足車両数(マッチング率90%を確保するために必要な車両数)は、東京エリア270~2,540台(時間帯により増減)、京浜エリア480~940台、名古屋エリア90~190台、京都エリア200~490台、札幌エリア110台、仙台エリア30~50台、さいたまエリア140~580台、千葉エリア110台、大阪エリア240~420台、神戸エリア100~510台、広島エリア70~220台、福岡エリア220~520台となっている。
最新情報は不明だが、登録ドライバーは5月6日の週までに東京エリアが917人、京浜エリアが同173人、名古屋エリアが同15人、京都エリアが同162人となっている。
7月現在では数字はもっと伸びているものと思われるが、各社の募集状況を踏まえるとまだまだ不足している可能性が高そうだ。
プラットフォーマーはシェア獲得や先々の本格版解禁を視野に?
タクシー事業者各社が募集にドライバーの確保に力を入れるのは理解できるが、プラットフォーマーが力を入れるのはなぜか。日本版ライドシェアドライバーが増加しても、プラットフォーマーとしてのメリットはそれほどないように感じる。
恐らく、プラットフォーマーが商機ととらえているのは配車サービスにおけるシェア争いだ。日本版ライドシェアの配車に対応するのはもちろん、「うちのプラットフォームを使ってくれれば、ドライバー募集をはじめ各種サポートを行います」といった感じで、タクシー事業者にアプローチするのだ。
全国を網羅し圧倒的シェアを誇るGOに対抗するには、各社は大都市圏以外でも勢力を伸ばさなくてはならない。きめ細やかなサービスで差を埋めていかなければならないのだ。
タクシーにおける配車サービスそのものにまだまだ伸びしろがあるため、これを機に拡大路線を強める動きが活発化している感も受ける。
そしてもう一点、各社が意識しているのが本格版ライドシェアの解禁ではないだろうか。本格版が解禁されれば、一般ドライバーはタクシー事業者を介することなくプラットフォーマーに登録し、サービスを提供することになる。
こうした未来を見据え、ライドシェアに興味のある人にアプローチしていると捉えることもできる。いわば本格版解禁に向けた前哨戦だ。いざ解禁されたときに出遅れないためには、日本版で実績と知見を獲得しておかなければならない。
プラットフォーマー各社が今後どのような動きを見せるのか、必見だ。
【参考】配車サービスのシェアについては「タクシー配車アプリランキング、1位は?GOやS.RIDE、Uber Taxi の順位は?」も参照。
■【まとめ】日本版ライドシェアでタクシー不足がどの程度緩和されるか?
本格版ライドシェアは解禁の是非をめぐる議論が続いており、いつごろ結論に達するかも見通せない状況となっている。また、この議論においては、日本版ライドシェアの実施状況が反映されることになる。
同事業でタクシー不足がどの程度緩和されるか。それをもとに規制改革推進会議でどのような判断が下されるのか。同会議の審議状況にもしっかり注目していきたい。
【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業一覧」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)