日本が提案した「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」が国連基準として採決される見通しとなった。
2024年6月に開催された国連の第193回自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)においてこの提案が了承され、同年11月に行われる次回会合で採決される予定だ。
過去には、自動運転システムの安全性を評価するための手順やシナリオに関する日本発の国際標準が発行されたこともある。また自動運転車の衝突を回避するシステムやトラック隊列走行システム、自動バレー駐車システムが国際標準として定められている。
日本発案の国際レベルでの基準は、今後も増えていきそうだ。
■日本が提案した国連基準案の中身
日本が提案したのは、ペダル踏み間違い時加速抑制装置に関する国連基準の策定だ。日本国内でのペダル踏み間違いによる事故の発生状況などを踏まえて2022年に提案し、国際議論を主導している。アクセルとブレーキの踏み間違いや前方の障害物を検知し、衝突を防止する性能要件等を規定した国連基準(案)を、日本の提案をベースに策定する予定だ。
この案の主な要件は3つある。1つ目は「急発進抑制に関する要件」だ。障害物の手前1.0メートルおよび1.5メートルに停止状態でアクセルをフルストロークまで踏み込んだ場合に、障害物に衝突しないこと、もしくは障害物との衝突時の速度が時速8kmを超えず、障害物が無い状態に比べて30%以上速度が低下していることだ。
2つ目は「ドライバーへの警報に関する要件」で、視覚警報が必須などになる。3つ目は「機能の解除条件に関する要件」で、解除中のドライバーへの表示や機能の復帰条件などとなっている。対象車両は乗車定員9人以下の自動変速機(AT)を備えた乗用車だ。
この基準案が、このたび行われた国連自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)の専門分科会において合意された。高齢ドライバー等による事故の削減に向け、2024年11月に行われる次回会合で採択される予定だ。
この国際基準に基づき、国土交通省は新車へのペダル踏み間違い時加速抑制装置の搭載を2025年から義務化する計画を発表している。
■合意1:自動運転車の安全ガイドライン
今回行われたWP.29の第193回会合では、「自動運転システムの安全性能の要件及び評価手法のガイドライン」と「EV等のバッテリー耐久性能の国連基準」が合意された。
自動運転車の安全ガイドラインは、日本が自動運転車に求められる安全性能やその評価手法を提案し、専門家会議の共同議長国として議論を主導した。自動運転車に求められる安全性能やその評価手法をガイドラインとして策定する。国際的に統一した性能評価を通じ、安全な自動運転車の世界的な開発が促進される。
求められる安全性能は、安全レベルとして交通法規を遵守することや、注意深く有能な人間ドライバーと同等以上の安全性を有することなどが要求される。交通シナリオによる評価では、通常の交通状況・衝突の危険性がある場合・不具合発生時の3つ分類ごとに必要なシナリオを設定する。乗員等とのインタラクションとしては、乗員等にシステム作動状況や緊急時を知らせることなどを行う。
評価手法は、安全性能の要件への適合性について、製造者の安全管理体制や自動運転車の性能テスト(シミュレーション・試験路での試験・実交通環境での試験)、使用過程時のモニタリングを行う。
■合意2:EV等のバッテリー耐久性能の国連基準
EV等のバッテリー耐久性能の国連基準では、バッテリー容量劣化度の規制値を規定するとともに、バッテリー容量劣化度を示すモニターの搭載を義務づける。これにより、適切な性能を有するバッテリーを搭載したEV等の世界的な普及・流通が期待される。EV等の普及の妨げとなる粗悪なバッテリーを排除するとともに、ユーザーがバッテリー劣化状況を認識し適切に交換できるようになる。
バッテリーの耐久性能規制としては、年間500台以上の車両の90%以上がバッテリー容量劣化度(SOCE:State Of Certified Energy)の規制値を下回らないことが定められた。「バッテリー容量劣化度とは、新車時のエネルギー容量を100%とし、使用時のバッテリーのエネルギー容量の劣化割合を示すものだ。
またバッテリーの劣化割合を示すモニターの搭載が義務づけられた。対象車両は乗用車および小型貨物車(いずれも3.5トン以下)のEV、PHEV(プラグインハイブリッド車)となっている。
■ガイドライン提案で日本が世界をリード
今回議論されたガイドラインや国連基準等は、WP.29傘下の専門分科会等において日本が議長や副議長として議論をリードしてきたものだ。会合では、型式指定申請における不正事案について、関係国から高い関心と懸念が示されたという。特に英国やドイツからは、今後の日本の再発防止の徹底に期待を寄せる発言があったようだ。
自動運転の実用化については米国や中国に後れを取っている日本だが、ガイドラインや基準などの枠組み作りの面では世界をリードしている。この点は注目すべきことと言える。
【参考】関連記事としては「快挙!日本発の「自動バレー駐車システム」、国際標準に」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)