日本のある島で「自動運転スクーター」の実証が実施されてた

シニアカーベース、誰もが移動可能に

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出典:スマートアイランド公式サイト

愛知県西尾市の佐久島で2021年、ちょっと変わった自動運転実証が行われていたことをご存じだろうか。自動運転バスでもタクシーでもない。「自動運転スクーター」だ。国土交通省のICTなどの新技術を離島地域への実装を図る取り組み「スマートアイランド」において、実証調査事例として2024年5月にあらためて紹介されている。

はじめに断っておくが、スクーターと言っても2輪ではなく4輪で、いわゆるシニアカーに分類されるパーソナルモビリティだ。こうした個人の移動を担うモビリティの自動運転開発・実用化も着々と進められている。

佐久島ではどのような実証が行われているのか。次世代モビリティ実証における「島」特有の環境を含め取り組みを紹介していこう。

▼電気自動車と自動運転パワースクーターを活用した島内移動システム構築 – スマートアイランド|離島と企業の出会いが、日本の未来を変える。
https://smartisland.mlit.go.jp/demo/12island/

■佐久島におけるモビリティ実証の概要

AZAPAエンジニアリングが自動運転スクーターを開発

自動運転スクーターの開発者はAZAPAエンジニアリングだ。同社は2021年7月、愛知県西尾市と「佐久島の魅力向上・活性化」「島民の移動手段確保」「佐久島におけるSDGsの推進」に向け事業連携協定を締結した。

佐久島は三河湾に位置する人口約200人の離島で、本州から定期船で20分ほどかかる。アートによる島おこしで観光需要も多いが、島内にはバスやタクシーなどの公共交通がなく移動手段が限られており、島民の高齢化率が50%を超えるなど、移動手段の確保が大きな課題となっている。

そこで両者は、島民の移動手段を確保するためAZAPAエンジニアリングが自社開発を進める「自動運転パワースクーター」の導入実証に踏み切った。

出典:スマートアイランド公式サイト

シニアカーベースの次世代自動運転モビリティ

自動運転パワースクーターは、AZAPAエンジニアリングと富山大学が2020年に共同開発を開始した小型の低速自動運転モビリティだ。シニアカーをベースとした1人乗りモデルで、「誰もが気軽に安全に活用できる次世代の自動運転モビリティ」をコンセプトに据えて開発を進めている。

最高時速6キロで、GNSSやモビリティ搭載のカメラから得られる情報で自己位置を推定し、目的地までの自律走行や複数台の隊列走行の実現を目指している。

LiDARのような高価なセンサーや電磁誘導線といったインフラ工事が不要で、より手軽に自動運転モビリティを導入できるよう設計されている。自動運転に関わる画像処理技術は、富山大学都市デザイン学部の堀田裕弘教授との共同研究としてその検証と精度の改善を行っている。

コネクテッド技術も搭載しており、遠隔管理を可能にすることで安全性やサービス性の質も高めている。誰もが自動運転を身近に感じられるよう、観光地での二次交通手段やテーマパークでのアトラクションとしての活用も想定しているという。

当初計画では、法人向けに2023年、個人向けに2025年から販売予定としている。

出典:スマートアイランド公式サイト

実証ではマーカー使用

佐久島における実証は2021年11月に実施された。マーカーを取り付けたカラーコーンを公道に7メートル間隔で設置し、このマーカーを自動運転パワースクーターに搭載したカメラが読み取ることで指定コースを自律走行する仕組みとした。

島内の道路は道幅が狭い場所が多く、免許返納後の高齢者も安心・安全に移動できるモビリティとして自動運転パワースクーターは最適解の1つとなったようだ。

実証では、高齢者によるパワースクーター試行運転により、自動運転機能の動作の安定性や障害物の検知・停止機能の有効性、体験者による自動運転の評価、行動変容(外出頻度、行動範囲)、島内の移動上の課題(道幅、傾斜などによる問題点)などを検証した。

また、エネルギー自給自足の観点から、ソーラーパネルで発電した電気でEV(電気自動車)軽自動車を運行し、島内の自動車のエネルギーを自給するために必要なソーラーパネルの量、設置可能な場所などの調査も行っている。

エネルギー資源を島外に依存しているため災害時の供給不安やガソリン貯蔵タンクの維持更新コストの負担が大きく、再生可能エネルギーの活用・EV導入なども大きなテーマとなっているようだ。

将来的にはマーカーや標識に塗料を混ぜ込むなど、景観への配慮も踏まえ改善を重ねていくほか、次回は再生可能エネルギー(太陽光)で動力を賄う実証にも取り組むこととしている。

佐久島の移動にパワースクーターは最適

島内でパワースクーターの通行に支障のある場所はなく、集落の狭い道路、坂道でも通行が可能だった。集落から1~1.5キロの範囲にある島内の主要目的地までの移動にもパワースクーターは適していたという。

また、これまでの原動付きバイクや自転車で移動する時と変わらず、毎日複数回外出するなど現状の生活行動の維持を確認できた。

一方、運転に慣れていない人が自動運転に不安を感じるケースもあったほか、マーカーの配置精度の改善で自律走行は実現できたもののふらつきが見られ、衝突防止も基本的に機能していたが進入角度によって回避できない場合があったという。

パワースクーターは佐久島に適した高齢者のパーソナルモビリティとして有効であり、今後に向けては、運転力が低下した高齢者の運転に対する不安に対応するため、衝突防止機能や自動運転機能の技術的課題の解決と心理的な抵抗感の解消が課題としている。

また、パワースクーターの普及に向けた貸し出しや購入補助などの制度や、自動運転に適した環境構築も必要としている。

■島×次世代モビリティ

交通課題抱える離島、国も支援を本格化

離島の多くは人口減少・高齢化が大きく進行しており、公共交通や道路インフラも不十分なケースが多い。人やモノの移動・輸送に制約があるなど条件不利性を背景にしたさまざまな課題を有しているのだ。

国土交通省は、こうした離島が抱える問題解決に向け2020年度から「スマートアイランド実証調査事業」を実施しており、ICTなどの新技術を有する民間企業を巻き込みながら様々な取り組みを進めている。佐久島の取り組みも2021年度の同事業に採択されている。

同事業では佐久島以外にも、佐渡島(新潟県佐渡市)や似島(広島県広島市)、中通島(長崎県新上五島町)などがそれぞれ課題解決に取り組んでいる。

佐渡島ではクラウド型タクシー配車システムを活用した複数社による共同配車の実証などが行われた。似島では利用しやすいいワンプッシュ配車システムを開発し、グリーンスローモビリティ導入に向けた取り組みが行われた。中通島では、片道50キロ強の本土~離島間を無人ヘリで物資輸送する実証が行われている。

【参考】スマートアイランド実証調査事業については「「自動運転は不安」「黒字化に壁」 離島×自動運転・MaaSの課題は?」も参照。

島は自動運転実証などに最適?

「島」は、走行エリアが本当などと明確に区切られているため運行設計領域(ODD)を設定しやすく、不特定の交通参加者の混在も抑えやすい。初期における自動運転の実証・導入に適した環境が整っているのだ。

また、比較的面積が狭い島であれば小型の低速モビリティでストレスなく島内を移動できる。道幅が狭くても運行可能な点もポイントで、電動シニアカー・車いすなどのパーソナルモビリティも導入しやすい。

低速で移動する小型モビリティは自動運転化が比較的容易なため、この観点からも島と自動運転の相性が良いことがわかる。

メンテナンスなどを担うエンジニアの常駐がカギとなりそうだが、次世代に向けたモビリティの実証・実装場所として好条件がそろっているのだ。

こうした島が抱える交通課題や生活課題解決に向け、自動運転をはじめとした次世代モビリティを活用した取り組みは今後さらに増加していく可能性がありそうだ。

■自動運転パーソナルモビリティや超小型モビリティの開発状況

AZAPAエンジニアリングは1~2人乗りモビリティの開発を加速中?

AZAPAエンジニアリングは、システムインテグレーターとしてモデルベースによるシミュレーション開発を軸に事業展開するAZAPAの関連会社で、自動車業界を中心に技術提供やエンジニアリング支援を行っている。

その開発領域は広く、次世代モビリティ向けECUや自転車ADAS、自動運転やセンサー開発を目的にAZAPAグループで開発した2人乗りEV「AZP-LSEV」、1人用街乗りモビリティ「AZP-UDiS」などを製品化している。近年は超小型モビリティの開発が盛んな印象だ。

これまでは各開発企業を支援する役割が多かったが、今後はモビリティに精通した知見や独自技術を武器に自ら主役となる事業展開を推し進めていくことになるのか。さらなる飛躍に期待したい1社だ。

自動運転車椅子で先行するWHILL

シニアカー関連では、自動運転車椅子の開発を手掛けるWHILLの存在も大きい。同社の製品は空港や病院などでの導入が広がっている。

自動運転は主に屋内で活用されているが、電動車椅子としてはテーマパークや公園などでも利用されている。今後、誰もが日常的な移動を可能にする自動運転パーソナルモビリティとして新たな境地に向かうことに期待したい。

【参考】WHILLの取り組みについては「WHILLの自動運転クルマ椅子、「累計利用20万回」を達成」も参照。

人もモノも自動運転で輸送するZMP

ロボットベンチャーのZMPも、自動運転歩行速モビリティ「RakuRo(ラクロ)」を製品化している。配送ロボット「DeliRo(デリロ)」から派生したモビリティで、周囲とのコミュニケーション機能も搭載されているのがポイントだ。

【参考】RakuRoについては「宅配、1人乗り、警備…自動運転技術でZMPが「三兄弟」発表」も参照。

ヤマハ発動機のゴルフカーは自動運転に最適?

時速20キロ未満で公道走行可能なEV「グリーンスローモビリティ」としては、ヤマハ発動機が自動運転分野で先行している。

ゴルフカーをベースにした安価な車体で、電磁誘導システムを併用することでいち早く自動運転レベル4の移動サービスを実現している。

概ね時速20キロ未満で、福井県永平寺町で実装済みのレベル4「ZEN drive」は定員7人で最高時速12キロに設定されている。車体が小さいため狭い道路も走行しやすく、多少の勾配も問題なく走行できる点が魅力だ。

【参考】永平寺町の取り組みについては「自動運転レベル4、国内初認可!運転者を必要とせず」も参照。

KGモーターズも自動運転化に向け共同開発に着手

近々では、小型EV開発を手掛ける新興勢のKGモーターズが大阪大学と自動運転開発に係る共同研究契約を締結した。

同社が開発するミニマムモビリティに、大阪大学大学院基礎工学研究科の堀井隆斗講師が技術協力し、データ収集や自動運転手法の開発などを進めていく方針だ。

【参考】KGモーターズについては「広島のKGモーターズ、「超小型車」を自動運転化へ!阪大と共同研究」も参照。

■【まとめ】自動運転シニアカーの動向に注目

一般的に自動運転車は小型・低速なほど実用化しやすく、パーソナルモビリティや超小型モビリティは初期の自動運転サービスに最適と言える。

都会では走行環境に左右されがちだが、島であれば条件を整えやすく、都会に比べ取り組みやすい利点も大きい。

自動運転時代には、車道を走行するモビリティをはじめ、歩道を走行するモビリティの自動運転化も進展していく。高齢化が一段と進む中、自動運転シニアカーの動向などにもしっかりと注目していきたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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