JR九州が、運転士不在の鉄道運行を早ければ2024年3月に開始する。自動運転技術を活用することで、従来の運転士に求められる要件をコンピュータ化が担い、コンピュータ化が担いきれない部分を「自動運転乗務員」が担う形だ。
極論だが、こうした技術が進めば、将来的には運転士の資格が廃止されるかもしれない。自動運転鉄道がスタンダード化し、新規生産車両がすべて自動運転化される時代が到来すれば、運転にまつわる資格・技能は不必要となる。
実現したとしても相当先の話となるが、こうした流れは公道を走行する自動車などにもあてはまる。自動運転技術により必要がなくなる資格や免許には、どのようなものがあるか、一考してみよう。
記事の目次
■JR九州のケース
自動化レベルGoA2.5で半自動化
冒頭で触れたJR九州は、自動化レベル「GoA2.5」の自動運転に向け2020年12月から実証を進めている。
GoAは「Grade of Automation」の略で、鉄道における自動運転の常務形態を分類したものだ。IEC(国際電気標準会議)による定義で、レベル0、1、2、3、4の5段階に分けられている。GoA2.5はIECに定義されていない日本独自の規格となるが、前頭に運転士以外の係員が乗り、車両の基本操作を行うことなく、緊急停止操作や避難誘導などを担う半自動運転の形態を指す。
JR九州は香椎線(西戸崎駅~宇美駅間25.4キロ)で実証を重ねており、必要な行政手続きを完了後、2024年3月からGOA2.5による半自動運転運行を開始する。これに合わせ、2023 年12月から自動運転乗務員(GOA2.5係員)の養成を開始するという。
従来、鉄道の運転には「動力車操縦者」運転免許が必要だが、この免許を保有する運転士なしで運行することが可能になるのだ。
なお、前頭以外に係員が乗務するGoA3は千葉県のモノレール路線「舞浜リゾートライン」が実用化済みで、係員なしのGoA4は「東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)」や神戸新交通などの自動案内軌条式旅客輸送システムが達成している。これらは、他の交通から完全に独立した専用軌道上を走行するものだ。
鉄道関連では、東武鉄道が東武大師線において2021年からGoA3実現に向けた取り組みを進めている。
自動運転技術により、動力車操縦者の運転免許なしで運行可能になる好例だ。極論だが、将来インフラ含め技術が高度化・普及すれば、すべての路線で運転士が必要なくなる時代が到来する。そうなると、動力車操縦者の運転免許も用済みとなり、廃止される可能性は十分考えられる。
【参考】鉄道の自動運転レベルについては「鉄道の自動運転レベル、GoA0〜4の定義や導入状況を解説」も参照。
■なくなる可能性がある資格や免許
ドライバー無人化で第二種免許が不要に?
前述した鉄道における自動運転化の例は、そのまま自動車分野にも当てはまる。完全自動運転技術が確立されると、次第に手動運転の需要が減少していく。こうした流れは、まずバスやタクシーなどのサービスカーから始まる。
特定の路線を走行するバスや一定エリア内を走行するタクシーなどは、自家用車に比べ無人化を図りやすい。運転手に関わる人件費も大きく、収益性を考慮すれば無人化が進展していくことはもはや既定路線と言える。
タクシードライバーやバスドライバーといった旅客運送事業に係る職業ドライバーが徐々に姿を消していき、これに伴って旅客運送に必要だった第二種免許の需要も落ちていくことになる。自動車関係では、まず第二種免許が姿を消す可能性が高そうだ。
物流分野ではまず大型免許から需要が減少?
物流分野でも自動運転トラックが徐々に幅を利かせていくことになる。各地の配送拠点などで荷物のバトンリレーが必要で、かつラストマイルやミドルマイル用途で車種やODD(運行設計領域)が大きく異なるため、すべてを自動運転化するには時間を要するが、高速道路における長距離自動運転など局所的な無人化が進み、徐々に対象エリアを拡大していくことが予想される。
現在計画が進められているのは、ラストマイルにおける自動配送ロボット(車道走行含む)と高速道路のA〜B間無人輸送だ。高速道路直結の物流拠点間を自動運転トラックが無人走行し、そこから有人トラックで配送する仕組みだ。
技術が進めば、物流拠点から特定の配送拠点までの移動も自動運転化できる。最終的なラストマイルはロボット配送と人力がしばらく共存することになりそうだが、ミドルマイルがすべて自動化された時点で、まず「大型免許」の需要が激減することが考えられる。
大型トラックは主にミドルマイルを担うが、複雑なラストマイルに比べ輸送ルートを固定しやすく、自動運転化に適しているためだ。ラストマイルは比較的小型のトラックでまかなうことができるため、大型免許が先行する形で姿を消すことが予想される。
トラック間の積み荷の受け渡しも、パレットなどの規格化により徐々に機械化が進んでいくものと思われる。ラストマイルにおける最終的な利用者の受け渡しも、スマートロッカーなどの活用により無人化が図られる時代が訪れるだろう。
【参考】高速道路における自動運転については「T2と三菱地所、レベル4自動運転トラックの物流網構築へ」も参照。
フォークリフト免許は早期に姿を消す?
物流分野では、荷物の積み下ろしや運搬を担うフォークリフトの自動運転化がすでに進み始めている。主に倉庫内外などの公道外で使用されるため、自動運転化・実用化は容易な部類に入る。
このフォークリフトの使用は、労働安全衛生法に定められた「フォークリフト運転特別教育」や「フォークリフト運転技能講習」の修了証、俗にいうフォークリフト免許が必要となるが、この講習は比較的早い段階で廃止される可能性が高そうだ。
【参考】自動運転フォークリフトについては「フォークリフト&搬送ロボが「ダブル自動運転」!荷下ろし自動化を実現」も参照。
建設機械関連の資格も
建設機械の自動化が進めば、フォークリフト同様、クレーン・デリック運転士など一定の技能を証明する国家資格も廃止されていくことになるだろう。
クローラダンプやバックホウ、ブルドーザーなどの自動運転化は、走行における自動運転化よりも各建機が担う作業の自動化が要となるが、こうした面での自動化も進展している。フォークリフトなどの特殊車両も公道を走行する場合が少なくないが、こうした際には小型・大型特殊免許が必要となる。
これらの免許や、民間における技能認定資格なども、徐々にその役割を終えていく可能性が高そうだ。
【参考】建機の自動運転化については「自動運転と建機」も参照。
自家用車にも自動運転の波が押し寄せる
無人走行を可能にする自動運転技術は、自家用車にも波及していく。当初は高速道路限定など自動運転が可能となるODDは狭く設定されるが、その範囲は徐々に拡大し、一般道路を網羅していくことが予想される。
相当時間を要するが、自動運転レベルが限りなくレベル5の水準に近づけば、一般的な車道はほぼすべて網羅されるため、ドライバーなしで自由に目的地を行き来することが可能になる。ある程度悪天候にも対応でき、万が一の際の対応システムなども完備されれば、運転免許なしで自家用車を所有・利用することができる時代が到来するはずだ。
こうした時代が訪れれば、普通第一種免許の存在意義も次第に薄れていくことになる。自動車を操る「手動運転」の需要は根強いが、現在のEVシフトのように試行錯誤を重ねながら各自動車メーカーが自動運転自家用車をスタンダード化していく潮流が生まれる。
手動運転車は生産が停止され、クラシックカー的立ち位置で台数を減らしながら生き残る格好となりそうだ。国によっては、交通事故撲滅の観点から原則自動運転車のみ公道走行を認める法改正が行われる可能性も十分考えられる。
この段階に至れば第一種運転免許も廃止され、手動運転ドライバーには特別な走行許可制度のようなものが設けられるかもしれない。現在の自動運転車と立場が入れ替わる格好だ。
パイロット資格はどうなる?
飛行機の操縦には、パイロット(操縦士)の資格が必要となる。自家用操縦士、事業用操縦士、定期運送用操縦士の3種類あり、航空分野では花形的な扱いを受ける人気職種だ。
飛行機における自動化、いわゆる自動操縦(オートパイロット)はスタンダード化しており、実際にパイロットが手動で操縦する場面は少ないと言われているが、気象状況や他機の状況、搭乗客の様子などを適時判断し、万が一のリスクを限りなくゼロにしなければならない重責が何よりも大きい。
飛行機の場合、些細なミスが重大な事故に直結するため、これをリアルタイムで監督する責任者としての役割が大きいようだ。
自動運転技術をはじめとした各種テクノロジーの高度化により一定水準の無人運航は可能になるものと思われるが、こうした役割をどこまでコンピュータに任せることができるか、その信頼性に操縦士資格の有無は左右されることになりそうだ。
船舶関連の免許は?
船舶の自動運転化により、水上での免許はどうなるか。レジャー用途を中心とした小型船舶操縦士免許は、自動運航船・ボートの普及により徐々に姿を消すことが考えられる。
一方、2級船舶免許や1級船舶免許や、総トン数20トン以上の船舶で必要な海技免許などは、飛行機同様責任が重く、自動運航技術が成熟してもしばらく残る可能性が考えられる。
ただし、船長や航海士に必要な海技士(航海)、機関長や機関士に求められる海技士(機関)、通信長や通信士などに必要な海技士(通信)などいくつかの種別が存在するため、種別ごとに廃止の方向に進むことなども考えられそうだ。
【参考】自動運航船については「自動運転船、国・民間の取り組み解説」も参照。
■【まとめ】自動運転技術が特段の技能を不必要にする
このほか、自動運転車の普及により事故が大幅に減少し、かつEV化・コンピュータ化に伴う構造変化が進展すれば、自動車整備士や自動車車体整備士などの国家資格の中身も変わっていくことが想定される。従来の「機械」から「コンピューター」要素が多くなるため、新たな専門知識を要する場面が多くなるためだ。
移動サービスや物流サービス事業者に求められる運行管理者資格なども、その中身が変わっていくことになるだろう。
「運転」「操縦」といったこれまで当たり前だったタスクが自動化されることにより、そこに求められていた特段の技能は不必要なものになるのだ。
もちろん、そうなるまでには相当の時間を要することとなるが、中にはフォークリフトのように比較的早い段階で廃止・簡素化されてもおかしくない資格もありそうだ。
自動運転化の波が、こうした資格・免許に波及するのはいつ頃になるのか。長い目で注目したい。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4の関与者「運転免許、必要は必ずしもなく」」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)