ライドシェアでの性的暴行、米国で年間約1,000件 発生率、日本のタクシーの45倍

データを分析、安全性は大丈夫なのか?

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国内でライドシェア導入の是非をめぐる議論が過熱し始めている。過去、国会ではライドシェア導入を認めない方針が決議されているが、移動サービスの需給不均衡などを背景に一部の有力国会議員らが議論の必要性を訴え始めたのだ。

ライドシェアに反対する野党議員からは、早速質問主意書が出された。立憲民主党の辻本清美議員は10月20日付で「ライドシェアをめぐる世界各国の犯罪事案等と禁止・規制事例に関する質問主意書」を提出し、このほど答弁書が閣議決定された。

答弁書には、ライドシェア導入国における犯罪・事件の発生状況などが記されており、2020年に発生した米国における性的暴行件数が約1,000件に上ることなどが報告された。発生率を分析すると、日本のタクシーの約45倍となる。

これまで、運行責任の在り方や安全性確保などの点が問題視され、導入が見送られてきたライドシェア。特に、安全性に対する懸念は根強い。

質問主意書や答弁書の中身を交えながら、ライドシェアの安全性・危険性に触れていく。

■質問主意書・答弁書の概要
性的暴行は日本のタクシーに比べ米ライドシェアは45倍の水準

答弁書によると、日本のタクシーの輸送回数は約5.6億回で、米国の主要ライドシェア企業は約6.5億回と比較的近い数字になっている。2020年における事故・事件の件数は、交通事故死者数が日本(タクシー)16人、米国(ライドシェア)42人、身体的暴行による死者数は日本ゼロ、米国11人、性的暴行件数が日本19件、米国998件という。

▼<答弁書>ライドシェアをめぐる世界各国の犯罪事案等と禁止・規制事例に関する質問主意書の答弁書が出ました
https://www.kiyomi.gr.jp/blog/17184/

輸送回数が2020年のものなのか明記されていないが、仮にこの数字を母数に事故・事件の発生割合を算出すると、交通事故死者数は日本が3,500万分の1、米国が1,548万分の1、身体的暴行による死者数は日本ゼロに対し米国が5,909万分の1、性的暴行件数は日本2,947万分の1、米国65万分の1となる。

性的暴行件数を発生率で示すと、日本0.0000033%、米国0.00015%となりぱっと見で把握しにくいが、米国ライドシェアのほうが日本のタクシーよりも45倍ほど高い割合で発生していることとなる。交通事故死者数は2倍強だ。

被害の約9割が乗客

また、辻本氏の質問主意書では、米Uber Technologiesが発表した「Uber US Safety Report」の内容にも触れられている。これによると、Uber利用に関連した性犯罪は、2017年に2,936件あり、このうちレイプは219件あったという。2018年は同3,045件・235件、2019年は2,826件・247件、コロナ禍の2020年は998件・141件という。

▼2019-2020 Uber US Safety Report
https://uber.app.box.com/s/vkx4zgwy6sxx2t2618520xt35rix022h

2017~2018年の被害者のうち92%が乗客、2019~2020年では88%が乗客だったという。性犯罪は被害者が被害を申告しにくい特徴があることにも触れており、実際の被害件数はこの数倍でもおかしくはないとしている。

ハロウィン帰りの学生が被害に

最近では、米カリフォルニア州でハロウィンのカーニバル帰りの学生が被害にあった事件が報道されている。南カリフォルニア大学の学生がLyftの配車サービスを利用して自宅に帰る途中、ドライバーに強姦されたと通報した。

Lyftは同大学とパートナーシップを結び、キャンパス周辺の指定エリア内で学生を対象に無料相乗りサービスを提供しているというが、キャンパス内には動揺と不安が広がっているようだ。

インターネットメディアによると、ドライバーから性的暴行を受けた500人超の女性が2022年、有効な対策を講じなかったとしてUberを相手に訴訟を起こしているようだ。

中国では、2018年にDiDi Chuxing(滴滴出行)の配車サービスを利用した女性が殺害される事件が2件発生し、同社は相乗りサービスの一部を無期限停止する措置を講じる事態に陥った。

素養にばらつきがあるライドシェアドライバー

このほかにも、ドライバーによる酒気帯びや薬物の使用といった違法行為や、運転技術の不足による事故なども報告されている。

「知らない人のクルマに乗ってはいけません」ではないが、組織立って教育・管理されているタクシードライバーに比べ、ライドシェアドライバーの素養にばらつきがあることは否定できない。この点においては、世界的な対策が必要であることは言うまでもないだろう。

【参考】ライドシェアにまつわるトラブルについては「ライドシェアの主なトラブル事例・問題・事件まとめ」も参照。

各国の犯罪発生状況も加味すべき

このように、ドライバーの素養にばらつきがあるという点で、ライドシェアを不安視・疑問視する声は否定できない。

ただし、先述した犯罪発生率の差を鵜呑みにすることもできない。なぜならば、「日本のタクシー」と「米国のライドシェア」の比較には、そもそも日本と米国における犯罪発生の素地が異なるからだ。

例えば、こども家庭庁の「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」の中で示された資料によると、2015~2019年に発生した性暴力の件数は、日本が6,305~7,922件で推移しているのに対し、米国は12万6,100~14万3,224件で推移している。

人口10万人当たりの発生件数では、日本の5.0~6.2件に対し、米国は39.3~44.0件と約8倍の開きがある。つまり、ライドシェアなどに関わらず日本に比べ米国のほうが犯罪発生率が高いのだ。

おそらく、「米国のタクシー」と「米国のライドシェア」で各犯罪発生率を比較すれば、先述したほどの差は出てこないはずだ。同様に、「日本のタクシー」と「日本のライドシェア」のケースにおいても、驚くほどの差にはならないものと思われる。

「ドライバーの素養のばらつき」によりライドシェアのほうが事故・事件を巻き起こす可能性は高いものの、「米国のライドシェア」と「日本のタクシー」を単純比較する際は、こうした素地を織り込んで考慮する必要がある。

■ライドシェアにおける安全対策
プラットフォーマーの審査では不十分

いずれにしろ、ライドシェア導入を検討する際は、「ドライバーの素養のばらつき」と「車両そのものの安全性のばらつき」を抑える仕組みが必須となる。

UberやDiDiなどの配車プラットフォームにドライバー登録する際、一定の安全性を満たすため身元審査などが行われるが、実情として万全でないのは明白だ。

米メディアが2018年、犯罪歴が判明したドライバー数千人のアカウントをUberが削除したことを報じており、こうした審査・調査がある程度機能しているのは確かだが、全幅の信頼を寄せることはできない。

各ドライバーが運行前に適正に車両のメンテナンスを行っているか、また酒気帯び防止のため呼気検査を行っているか……といった確認を徹底することは困難だ。犯罪歴や交通違反の履歴なども、基本は自己申告が前提となる。

【参考】Uberの審査対応については「ウーバー、犯罪歴ドライバー数千人の登録抹消 ライドシェア」も参照。

コネクテッド技術で安全対策を充実?

高い安全水準を維持するには、ライドシェアに用いる車両すべてにコネクテッド装置の搭載を義務付けるのも1つの手だ。

車両のメンテナンス状況の把握や映像込みの呼気検査、車内モニタリングシステムによる定期監視、緊急通報装置の設置など、安全性を高めるソリューションはいろいろ考えられる。

仮に日本で導入する場合は、警察をはじめとした行政機関への登録制にすれば、犯罪歴なども明らかになるため、抑止力が働く。加えて、2種免許までは至らずとも旅客運送に関する基本知識習得や道路交通法の順守を徹底するための講習、特定の保険加入の義務付けなどを課し、ハードルを少し高めに設定するのも有効かもしれない。

■【まとめ】規制改革推進会議での議論スタート、果たして結末は?

内閣府の規制改革推進会議は11月6日、「地域産業活性化ワーキング・グループ」を開催し、さっそくUber Japanや一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会などからライドシェアに関する意見聴取(参考資料の提出)が行われたようだ。

国内情勢を踏まえると全面解禁はあり得なさそうだが、部分解禁がなされる場合、どういった条件が付されるのか。議論の行く末を見守りたい。

【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?解禁時期は?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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