自動運転シャトルに「人間の目と口」を模したディスプレイを設置し、AI(人工知能)の意図を歩行者などに伝える実証実験が、茨城県境町の公道で行われている。テキスト表示に加えて目と口で表情を変えていくことで、右折や左折などの意図を表現する取り組みだ。
この取り組みを行っているのは、ソフトバンク子会社で自動運転車両の運行プラットフォームを開発するBOLDLYと、自動車部品メーカーの市光工業。茨城県境町の公道で2023年6月19日〜7月5日に実施している。
将来のレベル4での自動運転サービスを見据え、自動運転車から周囲の交通参加者(歩行者やドライバー)へのコミュニケーションを円滑に行えるようにすることを目指している。
■人間が介入しないレベル4において重要
取り組みは、外向けHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の公道実証実験として実施されている。HMIとは一般的に、人間とシステムとの情報のやり取りを媒介する装置のことを指す。
境町では、BOLDLYが協力し、2020年11月から自動運転バスの定常運行を行っている。今回の実証は、その定常運行ルートが舞台だ。
現在境町で運行している自動運転バスは自動運転レベル2だが、車内のオペレーターの役割として、車内サービスや周囲の交通参加者とのコミュニケーションが重要であることが分かったという。
今回の実証を通じ、レベル4の自動運転サービスにおいて人間が介入しない場合でも、外向けHMIを用いて自動運転車の周囲の交通参加者が適切なコミュニケーションを行い、安全な運行が促されるようにすることを目指しているようだ。
■外向けHMIで表示するサインとは?
実証では、自動運転シャトルに市光工業が開発したディスプレーを設置し、車両の状況に合わせ、「発進」「横断者あり」「停車」「右折」「左折」「あいさつ」などを意味するサインを文字や表情で表示する。
人間による運転の場合、ドライバーがアイコンタクトやジェスチャーなどで周囲の交通参加者に対してコミュニケーションを行っており、今回の取り組みはその代替というわけだ。
自動運転バスに設置された外向けHMIには、「自動運転中」「停止中」「←右折中」「左折中→」「こんにちは」「再起動中」というフレーズが表示され、その内容とともに目と口で示された表情も変化する。ちなみに表示は、車内のスタッフがタブレットを使って都度操作するようだ。
実証では、住民向けの試乗会や公道での走行を行い、周囲の交通参加者の受容性や行動変容を検証するという。
なお車両から他の交通参加者へのコミュニケーションのことを、BOLDLYは「V to P(Vehicle to Person)コミュニケーション」というワードで表現している。
■両社の今後の展開にも期待
プレスリリースによれば、将来的にはBOLDLYが提供する自動運転車両運行管理プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」と市光工業のシステムを連携し、車両の運行状況に合わせて自動で適切なサインを表示できる仕組みを目指すという。
外向けHMIの実証実験は、自動運転技術そのものの開発から、さらに次のフェーズへ進んだ取り組みと言える。今後の展開にも期待したい。
【参考】関連記事としては「自動運転バスの実証国内最多!BOLDLYの全貌(ソフトバンク×自動運転・MaaS 特集)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)