米EV(電気自動車)大手のテスラが展開するADAS(先進運転支援システム)である「Autopilot(オートパイロット)」「FSD(Full Self-Driving)」という名称については、かねてから問題点が指摘されている。自動運転機能が実装されているという勘違いを誘発しやすいためだ。
この問題について、米国運輸省長官であるピート・ブティジェッジ氏が「テスラは部分的な自動運転システムをオートパイロットと呼ぶべきではない」と2023年5月10日に発言したという。米メディアが報じている。
■オートパイロットとFSDに対する指摘
ブティジェッジ運輸長官の発言を詳しく紹介する前に、テスラのADASの名称についておさらいしておく。
同社のオートパイロット(Autopilot)を直訳すると「自動操縦」、FSD(Full Self-Driving)は「完全自動運転」となるものの、実際は自動運転レベル2相当のADASとされる。ADASは運転支援レベルの技術であるため、これらの名称が自動運転機能が実装されていると誤解を招く恐れがあるとたびたび指摘されてきた。
2023年1月に、米カリフォルニア州でこういった誤認を招くような名称・マーケティングを避けるよう求める新たな法律が施行された。車両メーカーやディーラーに対し、マーケティング資料で「部分的な自動運転化機能」または「運転操作の一部を自動化する機能」を持つ車両を、「自動運転車」として機能すると消費者を信じさせる表現を禁じ、部分的な自動運転の機能とその限界の明確な説明も求めるという内容だ。
テスラのオートパイロットとFSDは、これに該当するとみられるが、同社が名称を変更するといった発表はまだなく、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)自ら公の場でこのワードを用いて、今後の予定などについて発言している。
【参考】関連記事としては「テスラの有料ソフト「完全自動運転(FSD)」、名称禁止に?」も参照。
■「まだ人間がコントロールしている」
ブティジェッジ運輸長官は「テスラは部分的な自動運転をオートパイロットと呼ぶべきではない」と指摘したあとに、「なぜならまだ人間がクルマをコントロールしているからだ」とその理由を説明したという。
また、「常にハンドルに手をかけ、道路に目を向けていなければならないシステムを、オートパイロットと呼ぶべきではないと思う」とも語っている。
同氏直属の組織である米国道路交通安全局は、テスラ車がオートパイロットまたはFSDを作動中に起こした衝突事故について、2016年から調査チームを派遣しているという。
ブティジェッジ運輸長官はテスラやその他の企業について、連邦安全基準を遵守する責任を追及していく方針で、「企業が何か間違ったことをしたり、車両がリコールされる必要があったり、設計が安全を保障できるものでなかったりする場合は、我々はいつでもそれについての対応をするつもりだ」と述べている。
■2023年末に完全自動運転を実現させる?
今回のブティジェッジ運輸長官のコメントについて、イーロン・マスク氏から反論は特に出てきていないようだ。
最近になってマスク氏は、完全自動運転の実現を2023年末には達成すると発言している。もし完全自動運転を実現できれば、名称を変更する必要はなくなる。しかし、年内に達成できずに名称変更を変更せざるを得なくなるのか。どうなるのかを今後も追っていきたい。
【参考】関連記事としては「今度こそ本当?テスラ「年内に完全自動運転を実現」宣言」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)