日本発の衝突回避システム、国際標準に 自動運転高度化の下地に

ISO認証、「ISO 23375」として発行

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公益社団法人自動車技術会が提案していた「自動車運転の衝突を回避する制御システム」がISO(国際標準化機構)に認証され、国際標準「ISO 23375」として発行された。

緊急時に自動でハンドルを操作して安全運転を支援する「衝突回避横方向制御システム」で、経済産業省は「自動運転の高度化の下地となる大変重要な技術」と評する。

衝突回避横方向制御システムとはどのようなもので、自動運転にどのように結び付いていくのか。その概要を解説する。

▼ISO 23375:2023
https://www.iso.org/standard/75362.html

■衝突回避横方向制御システムの概要
ハンドル操作を支援し衝突を回避
衝突回避横方向制御システムの作動イメージ=出典:経済産業省

衝突回避横方向制御システムは、前方に歩行者や停止車両などが存在し衝突危機のある場面において、①システムが自動的にハンドル操作回避を行うもの②警報で注意喚起し、ドライバーが衝突危険に気付いてハンドル操作を行ってからシステムがハンドル操作回避の支援を行うもの(ハンドル操作量不足を補う)──の2通りがある。

国際標準ISO 23375ではこの両方に対応できるよう、対象障害物の設定や作動速度の条件、システムの状態通知、回避要件など、それぞれの衝突回避を行う際の機能要件や、試験手順、試験環境・コース条件、ダミーターゲットの設置法、合否判定基準といった性能評価方法について規定されている。

衝突回避横方向制御システムはハンドル操作を伴うことから、誤作動や二次衝突を防ぐ非常に高い信頼性が求められる。

経産省によると、日本の複数の部品メーカーは、高い信頼性を担保するために欠かせない高性能な各種部品(カメラ、レーダー、車載コンピューター、電動パワーステアリングなど)の供給が可能であり、日本の自動車メーカーもそれらの機能を構築できる技術力を有しているという。

また、日本の自動車メーカーは、システムが自動的にハンドル操作回避を行う動作をとる車両を先行して市場投入しており、今回の標準によりその技術力を十分に発揮することが期待されるとしている。

■自動車における横制御
横制御の代表格は「レーンキープアシスト」

横方向制御を支援するADAS(先進運転支援システム)として、現在スタンダード化している技術は「レーンキープアシストシステム(LKAS/車線維持支援システム)」だ。走行中の自車両がセンターラインなどの区画線をはみ出しそうになった際、車線内走行を維持するためハンドル操作を支援する。

車載センサーが区画線を検知し、車両がはみ出しそうになった際に警報を発するとともに横制御を支援する。常に車線の中央を走行するよう支援するものもある。

このLKASに、前走車との距離を一定に保つアダプティブクルーズコントロール(ACC)など縦方向の制御支援を行う技術が組み合わさると、自動運転レベル2のADASとなる。走行中にハンドルから手を離すことができるハンズオフ運転は、精度の高いLKASやACCなどによって一定水準以上の縦方向と横方向の制御を実現することで可能になる。

車線をまたぐ操作はハードルが上がる

ただ、車線変更など区画線をまたぐ運転支援は、ウインカーを操作するなど一動作が必要となるケースが大半だ。LKASなど横制御を担うADASは基本的に区画線を拠り所にしており、また、車線外には他の交通参加者が存在する可能性があるため、現在走行している車線を超える動作はハードルが上がるのだ。

一方、衝突回避横方向制御システムは、基本的に区画線を超えて車両を制御する技術となる。例えば、前方で不意に落石が発生したり歩行者が飛び出したりしたケースを考えてみる。人間のドライバーであれシステムであれ、ブレーキが間に合わないと判断した場合、衝突を免れるためには縦方向の制御ではなく横方向の制御に頼るしかない。こうした際、走行中の車線の範囲内で避けるのは実質的に無理があり、車線外に進路を変えざるを得ない。

しかし、車線外には新たな危険がつきまとう。隣のレーンを走行する車両や対向車などの存在だ。前方の障害物を避けるために周囲の車両などと衝突しては本末転倒となる。こうした周囲の状況を把握した上で、車線外への進路変更が適切かどうかを瞬時に判断しなければならない。

今回標準化された衝突回避横方向制御システムの詳細な仕様は分からないが、あくまでドライバーの運転を支援するADASであることから、対象障害物や作動速度、回避要件といった機能要件は比較的緩めに設計されているものと思われる。

いずれにしろ、事故を防止するためのより高度なADASと言えそうだ。

自動運転車は「かわす」「避ける」制御は苦手?

LKASやACCがそうであるように、衝突回避横方向制御システムも高度な自動運転に通じる技術となる。自動運転車は、前方に障害物を検知した際に安全に車両を停止できる速度で運行する。これが大前提で、前方車両がフルブレーキで急停止したとしても安全に止まることができるよう、車間を十分に開き、安全な速度で運行するのだ。

ただ、落石のように不意に発生する障害物は必ず存在する。車載センサーの誤検知などで障害物の検知が遅れるケースもあるだろう。そうした際に衝突を避けるためには、縦方向の制御だけでなく横方向の制御技術も試されることになる。「止まる」技術だけではなく、「かわす」「避ける」技術だ。

自動運転車は、縦制御に比べ横制御を苦手とする向きがある。例えば、路肩に停車している車両をかわす場合だ。停車車両を検知して止まることは比較的容易だが、隣の車線にはみ出してかわすのはハードルが一気に上がる。

前述したように、前方、または後方から迫る車両の有無や停車車両の影から飛び出してくるものがないかなどを確認しながら進路を変え、かわさなければならないからだ。

不意に発生した障害を避けるためには、さらに高度な技術が必要となる。平時から前後方の車両なども検知し、常に進路変更の可能性を計算しながら走行しなければならない。

いっそう高度な技術が必要となるが、安全性を高めるためには遅かれ早かれ必要となる技術だ。こうした技術開発に、衝突回避横方向制御システムの開発が貢献していくことになるのだろう。

■【まとめ】自動運転車の安全性を高める横制御技術の下地に

縦方向の制御に比べ横方向の制御の方がハードルが高いことは間違いなく、自動運転車においてもより柔軟に横制御を行う技術はまだまだ未完成だ。

衝突回避横方向制御システムは、こうした技術開発の下地となる。刻々と変化する道路交通につきものの突発的な事態に自動運転車がどこまで対応できるかは、この横方向の制御に掛かっているといっても過言ではなさそうだ。

▼日本発の「自動車運転の衝突を回避する制御システム」に関する国際標準が発行されました
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230301002/20230301002.html

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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