改正道路交通法の施行により、2023年4月から届け出制のもと公道運用が可能となる自動走行ロボット。本格実用化に向けては、自律走行能力をはじめ、遠隔監視のみで複数台を同時監視可能にするなど安全かつ効率的なシステムの構築が求められるところだ。
遠隔監視・操作による複数台の同時監視技術については、パナソニックホールディングス(以下パナソニック)が注力している。同社は2022年4月に国内初となる完全遠隔監視・操作型の自動配送ロボットの道路使用許可を取得し、実証を積み重ねている。
現在、同社の技術水準はどこまで高まっているのか。パナソニックの自動走行ロボットの現在地に迫る。
▼ロボット搬送ソリューション 取組紹介|パナソニックホールディングス
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/pdf/007_07_00.pdf
記事の目次
■パナソニックの取り組み
Fujisawa SSTで実証に着手
パナソニックは、2023年2月開催の「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」で近々の取り組み状況を発表している。これを踏まえながら、自動配送ロボット開発における同社の足取りをたどってみよう。
同社は2020年9月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」への参画を発表し、自動配送ロボット分野への正式参入を明らかにした。
「個人向け自動走行ロボットによる安全な配送サービスの実現」をテーマに掲げ、同年11月、神奈川県藤沢市が取り組むスマートタウンプロジェクト「Fujisawa SST」で自動配送ロボットの実証を開始した。
独自開発したロボットを使用し、フェーズ1として管制センターのオペレーターがロボット周囲の状況を常時監視するとともに、ロボットとの距離5メートル以内に保安要員を同行させる形式だ。
2021年3月には2台のロボットを導入し、医薬品や冷蔵品の弁当を商業施設などから住宅へ配送するサービス実証に着手した。屋外で小型低速ロボットを使用した医薬品配送は国内初としている。
その後も実証を重ね、2021年8月にはロボットを4台導入し、保安要員との距離を10メートルまで伸ばして疑似保安要員レス化を図っている。
フルリモート型の許可取得、1人4台監視の運行に着手
2022年4月には、国内初となる完全遠隔監視・操作型(フルリモート型)の公道走行の許可に関わる審査に合格し、道路使用許可を取得したと発表した。これまでは道路運送車両法に基づく保安基準緩和認定の条件として保安要員の配置が必要だったが、この許可により配置が不要となり、完全遠隔監視・操作型による実証が可能となった。
Fujisawa SSTにおけるこれまでの実証で1,200キロ超を走行し、ロボットの認識能力などが向上したことでフルリモート型が可能になったという。
ロボットのセンサーが遠方の人や近接車両などの移動物体、路上落下物などを即座に発見し、遠隔監視・操縦を行うオペレーターに通知することで、緊急時においてもオペレーターが遠隔操作で介入し、適切な対応をとることができる。
また、遠隔操作によってロボットが横断歩道を走行する場合などにおいて、遠隔システムとの通信が途切れてもロボットが自動で安全な場所まで走行するという。機能安全ユニットにより万が一の際は緊急停止し、また遠隔業務の負担を軽減するAI(人工知能)監視機能なども導入している。
この許可により、保安要員なしで1人のオペレーターが4台同時に監視・操作するフルリモート式の実証に着手した。
なお、Fujisawa SSTの実証において240時間走行を完了したことで、同年9月に「特定自動配送実証実験に係る道路使用許可基準」に基づく同地域での道路使用許可も取得した。これにより、公道審査を伴わない簡単な手続きで類似環境と認められる他拠点での展開も容易にしている。
つくば市では最短30分のオンデマンド配送を実証
2022年5月には、楽天グループ、西友とともに茨城県つくば市でもサービス実証も開始している。つくば駅周辺の約1,000世帯を対象に、西友つくば竹園店で取り扱う商品を注文から最短30分で配送するオンデマンド配送だ。
対象商品は生鮮食品や日用品など2,000点以上に及び、最長850メートル離れた住宅まで手数料110円で配送する。注文は楽天が開発したスマートフォン向けの専用サイトで受ける。配送中の位置情報や到着予定時刻を確認できるほか、到着時には自動音声の電話やSMSによって通知を行う仕組みだ。
東京では無人移動販売を実施
2022年12月には、東京の丸の内仲通りなどでロボット単独による販売実証にも着手した。搬送ロボット「ハコボ」が指定ルートを巡回しながら、特定地点でカプセルトイや飲料などの販売を行う取り組みだ。
約2カ月間の実証で、人通りが多い状況での走行が約9,000シーンあったが、人やモノなどと接触することもなく安全運行を実現した。信号機がある道路横断においても、約50回の横断を保安要員の介入なしで行った。一方、タクシー乗降停止で遠隔操作介入があったという。商品の販売実績は、1日あたり約20件という。
今後、ロボットの同時管制台数を増大し、10台以上による配送サービスを実現する遠隔管制システムとロボット自律移動技術の高度化を図っていくとしている。
■エリアモビリティサービスプラットフォーム「X-Area」
最適なモビリティサービス構築へ
パナソニックは、小型低速ロボットや遠隔管制システムをはじめとしたエリアモビリティサービスプラットフォームを「X-Area(クロスエリア)」と名付けた。
自動搬送ロボット「X-Area Robo」は、自動運転可能な車両プラットフォームに載せ換えできる多用途キャビンを備え、配送をはじめ移動販売や無人警備サービス、ごみ回収サービス、移動サイネージなどさまざまなサービスに対応する。
遠隔管制システム「X-Area Remote」は、専門知識がなくても多様なモビリティをまとめて管理し、安全かつ適切に運用できるシステムとなっており、モビリティAPI、配車管理、遠隔監視・遠隔制御、管理アプリ、データベースといった各種機能を備えている。
サービスサポートシステム「X-Area Connect」は、サービスAPIやシミュレーター、ユーザーアプリ、管理アプリ、データベースなど、事業者の環境に合わせて簡単に導入できるさまざまなサポートシステムを提供する。迅速なサービス提供と継続的なサービスアップデートを可能にしているという。
すでに歩道を走行する配送ロボット以外での導入を目指す取り組みも進められており、2022年11月には、仏EasyMileの自動運転トラクターを活用して長瀬産業が事業開発をしている「TractEasy」にX-Area Remoteを搭載し、三菱ふそうトラック・バスの川崎製作所で車両エンジンの運搬を想定した実証を行ったことを発表している。
X-Area RoboやX-Area Remoteなどの各ソリューションを個別に活用し、新たなモビリティサービスを生み出すこともできるようだ。
【参考】X-Areaについては「国内初!自動配送ロボで遠隔監視型の公道走行許可 パナソニックが取得」も参照。
■【まとめ】監視業務を効率化するシステム開発にも注目
技術開発と経験を積み重ね、着実に前進を遂げているようだ。サービス形態にもよるが、本格実用化には遠隔監視・操作のみでオペレーター1人が複数台を管理する運行体制が必須となる。現状は1人4台となっているが、目標とする10台以上をいつ頃実現するか要注目だ。
他社も同様に取り組みを進めているものと思われる。ロボットそのものの高精度化も必要不可欠だが、監視業務を効率化するシステム開発なども今後需要を増していくことになりそうだ。
【参考】関連記事としては「パナソニック、住宅街で自動運転配送の実証実験!小型・低速型ロボットで」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)