欧州や米国をはじめ、世界的にインフレが加速している。ロシアのウクライナ侵攻が拍車をかけ、一時よりは落ち着いたという見方もあるものの、エネルギー価格の上昇や物価高騰などが顕著な現状となっている。
その影響は自動車業界も例外ではない。特に米EV(電気自動車)大手テスラの「インフレ」がすごいものとなっている。
イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)はツイッターで、高度運転支援システム「FSD(Full Self-Driving)」を現行価格1万2,000ドル(約164万円)から1万5,000ドル(約205万円)に引き上げることを発表した。なんと3,000ドル(約41万円)の値上げだ。価格の引き上げは2022年9月5日からとのことだ。
テスラは1月にもFSDを値上げしたばかりであり、2022年だけで2回も価格を変更したことになる。
■発売から2年で価格が2倍に
FSDは2020年に発売され、当時の価格は8,000ドル(約110万円)だった。つまり、今回の値上げで発売当時の価格の約2倍になるということだ。
マスクCEOのツイートによると、値上げは現在のベータ版10.69.2を広く普及した後に実行するようだ。なお、9月5日以前に発注した場合は、納品が9月5日以降であったとしても現行価格1万2,000ドルが適用されるという。また、手持ちの車両をFSDにアップグレードする場合はテスラのアプリから2分ほどで完了することも強調している。
ちなみにマスクCEOは、FSDベータ版のユーザー数を2022年度末までに100万人まで伸ばす目標を公表していた。2022年7月には、FSDベータ版の自動運転の累計走行距離が3,500万マイル(約5,600万キロ)に達し、オーナーは10万人以上に上っている。
■EV車両の値上げも止まらない
テスラが値上げしたのは、ソフトウェアだけではない。2022年6月にはEV現行モデルであるModel 3、Model Y、Model S、Model Xの4車種が大幅に値上げされた。
具体的には、Model 3は2,500ドル(約34万円)、人気モデルであるModel Yは3,000ドル(約41万円)、Model Yパフォーマンスは2,000ドル(約27万円)の値上げとなった。また、Model Sは5,000ドル(約68万円)、Model Xは最大の値上げ幅である6,000ドル (約82万円)の引き上げとなっている。
ちなみに、同社はこれまで車両の値上げを10回以上行っている。
■EV普及に暗い影
テスラはこれまで、ユーザーを獲得するための戦略として値上げを行っていた印象だ。しかし、理由は明らかにしていないものの、今回の値上げは世界的なインフレによる物価高騰が大きな原因であるとみてよいだろう。
米国はインフレ抑制としてEV税額控除の施策を打ち出し、EV促進を目指しているが、EV普及を目指すテスラに暗い影が落ちる。しかし、値上げに踏み切っているのはテスラだけではない。半導体不足や製造コスト上昇、物流費上昇など、自動車業界全体が厳しい状況に直面している。
テスラを含めた自動車メーカーの動向を今後も注視してきたい。
【参考】関連記事としては「テスラの自動運転技術(2022年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)