自動運転やコネクテッド時代を見据えた取り組みが加速している。自動運転車の車内では、移動時間を有効活用すべくさまざまな情報サービスが提供されるが、こうした未来を見越し、車中ブラウザや車中エンタメ提供を可能にするプラットフォーム開発などが加速している。
この記事では、音声認識技術の開発を手掛ける米Cerence(セレンス)とIoT事業などを手掛ける日本のACCESSの事例を通じ、業界の動向に迫っていく。
■Cerenceの取り組み
セレンスは2021年12月、トヨタの北米事業を統括するToyota Motor North America(TMNA)がセレンスのAIクラウドベースのコンテンツドメイン「Cerence Browse(セレンスブラウズ)」を採用したと発表した。同社の最新のクラウドサービスを導入する第1号だ。
▼Cerence Browse
https://www.cerence.com/static-files/0b976ee5-a63e-4f04-a24a-c13405adc153
これまでの音声ソリューションでは、天気やルートの取得、レストランの検索など、運転や目的地に関連したコンテンツに限定されていたが、最新のセレンスブラウズでは、地理データやレジャー、グルメ、ニュース、イベントなどの一般的な情報にもリアルタイムでアプローチすることを可能にしている。
同社はまた、欧州の大規模OEMと1億4,900万ドル(約170億円)に上る契約を締結したことも発表している。詳細は明かしていないが、同社にとって過去最大の契約となったようだ。
音声技術がHMIを変える
自動車のインフォテインメントシステムは、ディスプレイのタッチパネルやボタン、リモコンなどで操作するものがスタンダードとなっているが、運転中のドライバーはこれらを操作することができない。しかし、高度なAIと会話をするような感覚で音声によって操作できれば、運転中でも注意を妨げることなくさまざまな操作が可能になる。
声を識別し、ドライバー以外の各乗員に合わせたサービスを個別に提供することもできる。さまざまなサービスやコンテンツが生み出されるコネクテッド時代は、こうしたHMI(ヒューマンマシンインタフェース)が徐々にスタンダード化していく可能性が高い。
上述したトヨタとの契約や欧州OEMとの大型契約は、AI音声認識技術を活用したコネクテッドサービスの本格化を示す証左と言えそうだ。
Cerenceが提供するソリューション
セレンスはAIを活用した音声認識や出力技術の開発を手掛けており、冒頭の「Cerence Browse」は、車のインフォテインメントシステムを通じたモビリティ・アシスタントとして機能する。複数の外部ナレッジソースやウェブ検索エンジンに接続して機能を拡張することで、運転に関する質問をはじめ外出時に気になるさまざまな質問に音声で回答することができる。
クラウドサービスでは、スマートフォンやスマートホームとの連携を可能にするCerence ExtendやCerence Connect、車載コマースに対応したCerence Pay、クルマの状態などを管理するCerence Car Lifeなどを提供している。
また、外観や機能をはじめ、拡張性やコンテンツ、UXなどをカスタマイズ可能なオープンプラットフォーム「Cerence Drive」をコア技術とし、同テクノロジーを組み込んだターンキー製品「Cerence Mobility Platforms」なども用意している。
運転中に何ができるか、また車内における移動時間をより便利にするインテリジェントな乗車体験を再考する上で、車載テクノロジーとクラウドサービスを組み合わせた強力なAI音声アシスタントが自動車業界のイノベーションを加速させるとしている。
このほか、OEMやサードパーティの開発者が独自のエクスペリエンスを作成するためのツールとなる「Cerence Studio」なども提供している。
▼Cerence公式サイト
https://www.cerence.com/
【参考】Cerenceについては「自動運転時代、音声認識は「即時性」必須!米セレンスの取り組みに注目」も参照。
■ACCESSの取り組みは?
国内では、ACCESSが車載インフォテインメントシステム「ACCESS Twine for Car」や、車載向けに最適化されたブラウザ「NetFront Browser NX for Automotive」を提供している。
最新のACCESS Twine for Car 3.0は、自動運転時代を見据えた次世代車載向けインフォテインメントプラットフォームで、幅広いパートナ企業のコンテンツ提供や車載向け広告プラットフォーム機能、欧州のACCESS Europeが開発したアプリストア「Twine4Car 3.0」の提供、4G・5Gでの車載Wi-Fi経由の音声・動画ストリーミング配信、スマートフォンとIVI(In-vehicle infotainment)システム間のコンテンツ共有、スマートフォン上で自社ブランドを冠した統合エンターテインメントの提供など、数々の機能を有する。
一方、NetFront Browser NX for AutomotiveはWebKitベースのHTML5対応ブラウザで、エンドユーザー側の操作性を格段に向上させ、開発者側の研究開発プロセスにおけるタイムロスも最大限に軽減させた次世代カーナビゲーション・IVIシステム開発ツール・インターフェースとして機能する。
クラウド技術と連携することで、最新地図などのアップデートをはじめ、天気予報や店舗情報といったユーザーニーズによる機能の追加も容易になる。従来のカーナビゲーションでは提供できなかった、パソコンやスマートフォン並みの情報提供を可能にするという。
■【まとめ】乗車体験のイノベーションに向け、今後も新規参入が続発
セレンスは、音声認識技術でクルマと乗員間のコミュニケーションにイノベーションをもたらそうとしている。一方、ACCESSは自動運転時代を見据えたインフォテインメントプラットフォームの開発に力を注ぎ、乗車体験にイノベーションをもたらそうとしている印象だ。
こうした分野はテクノロジー系企業の得意分野であり、今後も世界に名だたる大手が続々と進出してくる可能性が高い。新たなビジネス領域として要注目だ。
【参考】関連記事としては「米Cerence、車内での音声決済が可能な「Cerence Pay」を発表 見据えるのは自動運転時代?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)