
原子力自動車は可能か不可能か――。現状、この問いに胸を張って「可能」と答えられる人はほぼいないだろう。荒唐無稽と笑われるのがオチだ。
しかし、原子力ブームが巻き起こった1950年代、この非現実とも言える構想は大きな注目を集めていた。膨大なエネルギーを誇る核エネルギーを導入できれば、自動車は燃料を補給することなく数年、数十年走行することが可能になるためだ。
その実現は将来技術に託されたが、今なお実現していない。やはり技術的に不可能なのだろうか。原子力×自動車の可能性について調べてみた。
記事の目次
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■原子力×モビリティの動向
1950年代の原子力発電ブーム
原子力発電は、ウランなどの燃料が核分裂する際に発生する熱エネルギーで水を沸騰させ、高圧の水蒸気でタービンを回すことで電気を起こす発電方法だ。
1951年に米アイダホ州の実験炉で発電に成功し、1954年には旧ソ連のオブニンスク原子力発電所が電力を送電網に繋ぎ供給を開始した。
当時は原子力に関する研究開発が盛んで、未来を担うエネルギー源として自動車や飛行機、鉄道などへの導入を目指すプロジェクトが世界各地で本気で進められていた。
原子力飛行機は、米ソ冷戦下で研究が本格化し、一時飛行実証を行うところまで進展したという。長時間の航行に期待が寄せられたが、軽量化が必須の航空分野は、水やコンクリートなど放射線を遮蔽する物体の絶対重量と相容れず、実用化されることはなかった。
鉄道分野も同様だ。当時、蒸気機関車やディーゼル機関車、電気機関車が実用化されていたが、燃料効率や送電システムのインフラ整備費用など課題が多く、原子力機関車に期待が寄せられた。しかし、放射線の遮蔽体を考慮すると超大型化せざるを得ず、経済性や安全面から実用化には至らなかったという。
なお、米ユタ大学の研究チームが設計した原子力機関車のコンセプト「X-12」は、100×30センチの原子炉を搭載し、5キログラムの核燃料で1年間無補給の運行が可能とされていた。
海洋モビリティで実用化
地球上のモビリティとしては、唯一海洋モビリティで原子力が活用されている。原子力船や原子力潜水艦などだ。危険性は変わりないが、海洋上であれば万が一の際にも安全対策を施しやすく、また超重量・大型化に耐え得る構造が可能なため実用化できるようだ。
1950年代に長期潜航が可能な原子力潜水艦が開発され、船についても1959年に旧ソ連が原子力砕氷船「レーニン」を航行させている。貨客船などへの導入を模索する動きも活発だったが、こちらは不評に終わっている。
日本でも貨物船「むつ」が1972年に就役し、2年後に就航したものの微量の放射線もれが検出されるなど大変だったようだ。試験航海を終えた1991年までに、地球2周分に相当する8万2,000キロ運航されたという。
軍艦など、軍事分野を中心に今なお開発と実用化が進められている領域だ。
■原子力×自動車の動向
小さな自動車に原子力は不向き?
原子力モビリティは、突出したエネルギーを手に入れられる一方、安全面に大きな課題が抱えている――ということは、もはや説明不要だろう。細かい部分に目をつぶったとしても、必要最低限の安全対策となる放射性物質の遮蔽だけでも膨大な重量・容量が必要となるため、小さなモビリティである自動車には不向きとなる。
フォードらが相次いで原子力自動車のコンセプトを発表

しかし、1950年代当時の原子力開発熱は相当なもので、一部自動車メーカーも本腰を入れて研究を進めていたようだ。
米フォードは1958年、独立型の原子炉を動力とする自動車「ニュークレオン(Nucleon)」の3/8スケールのコンセプトを発表した。
放射性物質のコアを内蔵したカプセルを入れ替えることで馬力や走行距離を変更することができるという。燃料が満タンであれば、約5,000マイル(約8,000キロ)走行できると試算していたようだ。
将来、安全上の問題や原子炉サイズ・重量といった課題が解決されることを前提としたモデルとされており、フォードが実際に原子力開発に着手したかは不明だ。
フォードは、1962年のシアトル万博博覧会でも、小型原子力エンジンを想定したコンセプトカー「シアトリティ XXI(Seattle-ite XXI)」を発表している。パワートレインがモジュール仕様で、燃料電池や原子力エンジンを乗せ換えることができるという。
可変濃度ガラスや対話型コンピュータナビゲーション、マッピング機能など、現在に通じるような未来技術がイメージとして盛り込まれていたようだ。
今はなき自動車メーカーの仏SIMCAが1959年開催のジュネーブモーターショーで公開した「フルグル(Fulgur)」も、原子力の活用を想定しており、航続距離は5,000キロを想定していたという。
高速道路における電磁誘導や、核廃棄物を使用した交換式の原子力電池といったアイデアが盛り込まれていた。
このほか、Studebaker-Packard「Astral(アストラル)」(1957年発表)や、Arbel「Symétric(シンメトリック)」(1958年発表)なども発表されている。
アストラルはジャイロスコープ技術により1輪で走行し、イオン核エンジンを動力とすること、さらには宇宙飛行までを想定していたようだ。
シンメトリックはハイブリッド方式で、水素電池によってインホイールモーターを駆動させたり、核廃棄物を利用したエネルギーカートリッジで駆動させたりする動力源を想定していたという。カートリッジは5年間ごとに交換するシステムとしていたようだ。
▼ニュークレオン|ヘンリー・フォード博物館
https://www.thehenryford.org/collections/explore/artifact/278186?AssetId=THF37896
クライスラーは原子力戦車を研究
原子力戦車も計画されていたようだ。クライスラーは1950年代、原子力を動力とするアトム・タンク「TV-1」「TV-8」などの開発を進めていた。
TV-8は電動モーターで駆動する仕組みで、その動力はガスタービンエンジン駆動や炭化水素を燃料とする蒸気サイクル駆動、そして核分裂反応による蒸気サイクル駆動が計画されていたという。戦車ながら、数千キロの航続距離が想定されていたようだ。
余談だが、仮面ライダーの愛車「サイクロン号」も原子力を活用しているようだ。200馬力のプルトニウム原子力エンジンを搭載しており、最高時速400キロで走行できるという。
映画バック・トゥ・ザ・フューチャーに登場する名車「デロリアン」もプルトニウムを燃料にしている。
21世紀に入って再びコンセプト発表

1950年代のアトミック・エイジは、良い意味で夢に溢れていたのかもしれない。核の平和的利用を前提に、数十年後を想像したコンセプトを打ち出し、技術の進歩にその実現を託したのだ。
ただ、半世紀以上が過ぎた今もその技術は実現しておらず、夢は夢のままとなっているのが現実で、映画などのSFで活用されるに留まっている。
各社も原子力エンジンの実現は早々に諦めたのだろう……と思いきや、21世紀に入ってもなお原子力システムを盛り込んだコンセプトカーが発表されている。
米GMは2009年、キャデラックブランド創業100周年超を記念し、100年間走行可能な自動車というコンセプトのもと「Cadillac World Thorium Fuel」を発表した。
▼キャデラック公式サイト
https://www.coroflot.com/lorenipsum/world-thorium-fuel-vehicle
ウランに比べ高レベル放射性廃棄物の発生を大幅に抑制できるとされるトリウムを動力源とした原子力システムを想定している。トリウム原子炉で発電された余剰電力は、電力網への供給なども可能という。また、極端な乱用が発生した場合に亜臨界反応を抑制するための複数の遮断装置も備えるとしている。
トリウムを利用した革新的クリーンエネルギーシステム開発などを手掛ける米Laser Power Systemsも、2011年にコンセプトモデル「Thorium Concept Car」を発表している。
▼Thorium Concept Car
https://www.motorauthority.com/news/1065040_thorium-powered-cars-a-million-miles-without-refuelling
当時の報道によると、同社CEOは1グラムのトリウムはガソリン7,500ガロン(約2万8,000リットル)に相当するエネルギーを有し、独自の発電システムは重量500ポンド(約227キログラム)に抑えることが可能としている。
リッター10キロで走行する自動車であれば、単純計算ではあるもののトリウム1グラムで28万キロ走行できる計算だ。
■原子力×自動車の未来
原子力電池のイノベーションは?
もちろん、トリウムを活用した原子力システム搭載車両が実用化される気配はない。原子力自動車は21世紀に入ってもまだまだ未知の存在なのだろうか。
しかし、視点を「原子力電池」に切り替えると、異なる未来が見えてくるかもしれない。原子力電池は、放射性物質が崩壊する際に発生する熱を電力に変換する電池タイプの発電装置だ。原子炉における核分裂と比べるとエネルギー量は相当低いが、長い半減期をもつ同位体を用いることで数十年に渡って安定した電力を得ることができる。
宇宙領域などでは1960年代に実用化されており、人工衛星や宇宙探査機などで有効活用されている。1977年に打ち上げられたボイジャー1号・2号にも搭載されており、太陽圏を離脱した今も通信・観測を可能にしている。
21世紀に入ってからは、キュリオシティ(2011年)、パーサヴィアランス(2020年)といった火星探査車にも導入されている。地球外ではあるが「クルマ」だ。太陽光や砂ぼこりなどの環境に左右されることなく安定した電力供給を可能にしている。
現状、地球上で自動車を動かすほどの出力は得られないが、原子炉に比べ安全性は非常に高い。技術としては古いが、だからこそイノベーションに期待したいところだ。
本命はマイクロ炉?
自動車×原子力の本命は、「超小型原子炉・マイクロ炉」かもしれない。直径1~2メートルほどの炉心で、従来の原子力発電所の数千分の1程度の発電出力を実現するという。
研究開発を進める三菱重工によると、カーボンフリーな約300kWeの電源と約1MWtの熱源を1モジュールで供給する。デジタルツイン技術による複数設置時の統合管理や遠隔管理が可能で、セミオーダーのような短納期、トレーラーなどで搬送可能なコンパクトサイズ、設置場所は冷却水源に依存せず、高い除熱性能をもつ高配向性グラファイトにより自然冷却のみで安全に冷却することが可能という。
炉心サイズは直径1メートル以下、長さ2メートル以下で、冷却方式 1次系は高熱伝導材による熱伝導、2次系CO2ガス冷却、燃料はHALEU燃料(高純度低濃縮ウラン)、熱出力1MWt~、電気出力0.3MWe~、継続運転可能期間10年以上、設計寿命 25年――としている。燃料交換が不要で長期間の遠隔自動運転により、メンテナンスフリーを実現するという。
言わば、移動可能なミニ原発だ。離島や極地、災害地などでの活用を想定しているようだ。トレーラーなどで移動可能……ということは、つまりは車載可能であり、自動車一台を動かす電力は余裕でまかなうことができる。
このマイクロ炉の技術が進展すれば、自動車一台を10年間稼働できるエネルギーに応じたサイズまで小型化し、搭載性を高めることができるのではないだろうか。燃料も、暴走しにくいより安定したものが実用化されるかもしれない。
原子力自動車は可能か不可能か――といった2択の問いに対しては、「可能」と答えられる日がいずれ訪れるのかもしれない。
安全対策が何よりも重要
原子力自動車が技術的に可能になり飛躍的に安全性が増したとしても、危険性を指摘する声が途絶えることはない。事故時など、炉心損傷を100%回避できる技術・仕組みがなければ、取り返しのつかない規模の被害が発生するためだ。
超高精度の自動運転技術で自身の過失0%を達成しても、事故に巻き込まれる可能性をゼロにはできない。また、その存在からテロなどの標的にされる可能性も否めない。
何が起こっても安全性を担保できる――と言い切ることができる仕組みが必要なのだ。2重3重4重と施した安全策、セキュリティ対策、有事の際に放射線被害を抑え込むことができるシステムなど、あらゆる安全対策が必須となるのかもしれない。
■【まとめ】安全対策がやはり重要
原子力の活用の是非はここでは議論しないが、研究開発は着々と進められていることがわかった。将来、技術的には自動車に搭載可能なマイクロ炉が開発される可能性は思いのほか高そうだ。一方で、安全性への懸念はなかなか払しょくできそうにない。
有事の際に放射性物質が漏れだす可能性をゼロにする技術や、元素そのものを変換して無害化する核変換技術など、さらなる次世代技術が必要になりそうだ。
【参考】関連記事としては「10年で株価1024倍の「自動運転相場」到来か」も参照。













