自動車メーカー各社が、クルマを月定額で利用できるサブスクリプションサービスに力を入れている。2020年3月に「ClickMobi(クリックモビ)」を開始した日産は、北海道を皮切りに4カ月で対象エリアを24都道府県に拡大した。日本経済新聞によると、9月までに全国展開を進めるという。
トヨタ、ホンダもサブスクリプションサービスの拡充を図っているほか、近年自動車メーカー以外の参入も目立っており、自動車の「所有」から「保有」への流れが強まっているようだ。
各社のサービスの取り組みを紹介し、マイカーの概念が変化しつつある現状を浮き彫りにしていこう。
記事の目次
■日産「ClickMobi」とは?
クリックモビ最大の特徴は、オンラインと郵送ですべての手続きを完結できる点だ。クリックモビ専用サイトから希望車種を選択し、支払金額を確認して申し込む。必要項目への回答と運転免許証の画像をアップロードするとリース審査が行われ、メールで結果が通知される。審査が完了すると、登録した住所に契約関係書類が届くので、各書類に記入・捺印して返送するだけで契約が完了する。後日、希望日に自宅に納車される流れだ。
ディーラーなどの販売店を介さずに納車まで完結することができ、購入前は専任のオぺレーターにチャットや電話で相談することができる。試乗や実車の確認にも対応しており、チャットから気軽に相談すれば販売店に取り次いでくれる。
購入後のサポートは、近隣の日産販売店のカーアドバイザーが担当する。インターネット時代を象徴するような新たな販売(リース)形態で、対面販売などの接触が敬遠されるコロナ禍の観点からも注目だ。
対象エリアを続々拡大中
対象エリアは続々拡大中で、2020年7月現在、北海道、茨城、群馬、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、静岡、愛知、山梨、長野、滋賀、京都、大阪、兵庫、岡山、島根、山口、高知、福岡、佐賀、大分、沖縄の24都道府県でサービスを実施している。
対象車種はDAYZ、ROOX、NOTE、X-TRALI、SERENAの5車種で、グレードやエクステリアカラー、オプション、契約年数(3年、5年、7年)、月々の想定走行距離などを選択可能だ。
いずれの車種にもドライブレコーダーやカーナビ、ETCが標準搭載されているほか、車種ごとにインテリジェントエマージェンシーブレーキやインテリジェントアラウンドビューモニター、SOSコールなどの先進安全技術が搭載されている。
販売店で購入する際と比べるとオプション・カスタマイズの自由度は低くなるが、一般的な装備をしっかり備えており、余程のこだわりがなければ十分満足できる装備と言える。
販売代金には、登録諸費用や重量税などの税金、環境性能割、自賠責保険、車検や点検、エンジンオイルなど消耗品の交換といったメンテナンス費用も含まれている。任意保険やガソリン代などは別途必要となる。
契約終了後は、契約車両の返却や再リース、購入(5、7年契約の場合)などを選択することが可能だ。
【参考】ClickMobiについては「日産のサブスク「NISSAN ClickMobi(クリックモビ)」とは?」も参照。
■トヨタ「KINTO」とは?
トヨタは2019年2月、国内自動車メーカーの中でいち早くサブスクリプションサービス「KINTO」を開始し、着々とラインアップの拡充などを図っている。3年間で1台のトヨタブランド車に乗車できる「KINTO ONE」と、3年間で最大6種類のレクサスブランド車を乗り継ぐことができる「KINTO FLEX」の2種類のサービスが目玉だ。
KINTO ONEのサービス概要
KINTO ONEは2020年7月現在、パッソ、ヤリス、カローラ、クラウン、RAIZE、ハリアー、ハリアーモデリスタ仕様、ランドクルーザー、ランドクルーザーモデリスタ仕様、ヴォクシー、ノア、エスクァイア、アルファード、アルファードモデリスタ仕様、ヴェルファイア、ヴェルファイアモデリスタ仕様、レクサスLS、レクサスUXの19車種がラインアップされている。
ほぼ全てのトヨタブランド車とレクサスブランド車を追加する計画を表明しており、今後もラインアップ拡充が続きそうだ。契約年数はレクサス車が3年、その他車種は3年、5年、7年から選択可能。対象エリアは全国を網羅している。
利用方法は、KINTOサイトで車種やグレード、エクステリアカラーやインテリアカラー、ドライブレコーダーなどの各種オプション、希望ナンバー、車の受け取りやアフターサービスを受ける販売店などを選択し、必要事項を入力・送信する。リース契約審査の結果はメールで通知され、通過後はサイトで本契約の手続きを行う。後日、販売店から車両登録に関する書類一式が届くので、本人確認書類とともに提出し、納車の日程調整を行う流れとなる。
月額利用料には、車両代金のほか任意保険や車検、メンテナンス、重量税などの各種税金、登録にかかる諸費用、エンジンオイルやタイヤ、ウォッシャー液などの消耗品も含まれる。
サービス面では、ライフスタイルに合わせて割安な手数料で別のクルマに乗り換えることが可能な「のりかえGO」サービスも実施している。3年プランでは1年半、5・7年プランでは3年目以降、任意のタイミングで新規契約を結び、別車種に乗り換えることができる。手数料は申し込みのタイミングによって変動し、月額利用料の1カ月分から最大6カ月分となっている。
KINTO FLEXのサービス概要
KINTOでは、レクサス車を堪能できる「KINTO FLEX」も用意されており、レクサスLSやES、IS、RC、LX、RX、NX、UXの中から、1年ごと、あるいは半年ごとに好みの車両に乗り換えることができる。
このほか、一部販売店では中古車を活用したKINTO ONEサービスも提供している。より安価でコミコミ料金のサービスを受けることができるため、初めてマイカーの購入を検討する人などに向いていそうだ。
トヨタはモビリティカンパニーに向け販売ネットワークの変革に着手しており、各販売店も独自サービスを提供するなどさまざまな取り組みが本格化し始めている印象だ。
【参考】KINTOについては「【最新版】トヨタのKINTO(キント)を徹底解説!月額料金や車種、利用の流れは?」も参照。
■ホンダ「Honda Monthly Owner」とは?
ホンダは2020年1月、中古車を対象としたサブスクリプションサービス「Honda Monthly Owner」を開始した。最短1カ月から11カ月まで利用できる利用期間が特徴だ。
2020年7月現在、埼玉県和光市のHonda認定中古車販売店「U-Select(ユーセレクト)城北」のみサービスを提供しているが、今後サービス展開を順次拡大していく方針だ。同店では現在N-BOX12台が登録・表示されているが、いずれも利用中か本予約済みとなっており、人気の高さがうかがえる。このほかにも、FIT HYBRIDなども追加されているようだ。
利用方法は、会員登録後、予約ページからクルマを選択し、仮予約・本予約を経て自宅に送られる必要書類一式に記入して返送する。後は、車両の準備が完了次第、クルマを受け取りに来店するだけとなる。
利用料金には、各種税金やメンテナンス費用、自動車保険料がすべて含まれている。新車に比べ安価な中古車を対象に1カ月から利用可能な形態は他のサービスと比較してもハードルが低く、新たな需要を掘り起こす可能性が高い。
【参考】Honda Monthly Ownerについては「ホンダ、中古車サブスク「Monthly Owner」をスタート!先行するトヨタ追う」も参照。
■自動車メーカー以外にも商機
自動車メーカーではこのほかにも、マツダやスバル、三菱自動車など各社がサブスクリプションと銘打つことなく従来のリース・クレジット方式の販売を行っているが、こうした販売形態は自動車メーカー以外の商機にもつながる。
IDOMは「NOREL」を提供
中古車販売のガリバーで知られるIDOMは、月額定額で乗り換え放題が可能なサービス「NOREL」を2016年から提供している。最短90日から利用可能で、中古車販売業ならではの国内外150車種以上のラインアップが大きな武器だ。任意保険や各種税金などもコミコミで月額5万9800円から利用できるほか、月額費用をより抑えられる2年割りプランなども用意されている。
2020年2月には、クルマ非所有ドライバー向けの新サービス「マイカー・トライアル」を開始し、最短30日間から気軽にマイカーを試すことができるトライアルサービスを実施している。また、月額制で全国の登録物件に自由に住める多拠点宿泊サービス「ADDress」を手掛けるアドレスと協同し、自由な拠点間移動のスキーム開発に向けADDressの利用者が無料で車両を利用できる実証実験を開始するなど、新たなサービス展開も積極的に行っている。
【参考】NORELの取り組みについては「「住まい」も「クルマも」自由に…NORELとADDressが新たな取り組み」も参照。
DeNA SOMPO Carlifeは「SOMPOで乗ーる」を提供
一方、SOMPOホールディングスとDeNAの合弁「DeNA SOMPO Carlife」も2019年6月からクルマ定額サービス「SOMPOで乗ーる」を提供している。
車種は国内メーカー8社をはじめ、レクサスやBMW、ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディ、ジープもラインアップしており、契約年数は3年、5年、7年から選択可能だ。オプションも各メーカーオプション、ディーラーオプションを自由に選ぶことができる。
提供エリアは大幅拡大を進めており、取扱保険代理店は2020年3月に1000店、同年5月に1500店を超え、全国のサービス網を強固なものにしているようだ。
【参考】SOMPOで乗ーるについては「DeNA系の自動車サブスク、全国展開 4月に1000店規模に」も参照。
ナイルは「カルモ」を提供
このほかにも、デジタルマーケティング事業を手掛けるナイルが、月額課金モデルのマイカー賃貸サービス「カルモ」を2018年1月から開始するなど、自動車メーカーの枠を超えたサブスクリプションサービスが続々と誕生しているようだ。
【参考】カルモについては「成長市場で攻めのカルモ!個人カーリースで「11年契約」の選択可能に」も参照。
■【まとめ】マイカーは所有から保有・利用の時代に
リースの一形態であるサブスクリプションサービスの浸透は、マイカーの存在を「所有」から「保有」へと変化させていく。異業種参入も相次いでおり、販売網の変化にも注目したいところだ。
サブスクリプションサービスは、1台の車を10年以上長く乗るオーナーには向かないかもしれないが、車検ごとに新車や中古車を買い替えるオーナーにとっては1つの選択肢となり得る。クルマの所有権は移らないものの、ローン購入・支払時と変わらず独占使用できることから、事実上所有権そのものに大きな意味はなく、マイカーとしてドライブを楽しむことができるのだ。
こうした考えに基づくと、カーシェアも類似したサービスと捉えることができる。他の利用者とクルマを共有しつつも時間単位で独占使用することが可能な形態で、マイカーの存在が所有・保有から「利用」へと変化する。
モビリティサービスの充実とともに自家用車・マイカーの在り方が所有から利用へと移り変わっていく時代の到来が予測されているが、サブスクリプションサービスの浸透もこうした予測を裏付けるものとなっているようだ。
【参考】関連記事としては「サブスクレンタル経験、「カーシェア・カーリース」が2位!ライドシェアは?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)