自家用車の所有方法を変えるサブスクリプションサービスが徐々に浸透し始めているようだ。従来から存在するカーリースの一形態として自動車メーカーや中古車販売事業者などが続々と導入を図っている。
2019年にサブスク「KINTO ONE」を開始したトヨタもその中の1社だ。2020年には大きく業績を伸ばし、2021年の販売にも期待が寄せられるところだ。
この記事では、トヨタのサブスク「KINTO ONE」を解剖していく。
▼【KINTO】クルマのサブスク、トヨタから
https://kinto-jp.com/
■自動車のサブスクリプションサービスとは?
カーリースの一形態、月額定額で自動車を利用可能に
サブスクリプションは、一定の製品やサービスを定額料金で利用するビジネスモデルで、電子雑誌の読み放題や映画の月額定額ストリーミングサービス、アプリやソフトウェアの月額定額利用サービスなどが例として挙げられる。
自動車の場合、カーリースの一形態として捉えることができる。カーリースとサブスクリプションに絶対的な区別はなく、カーリースも月定額で自動車の使用権を得ることができるが、必ずしも車検料金やメンテナンスサービス、任意保険などがコミコミとなっているわけではなく、プラン・オプション扱いとなっているケースが多い。
一方、サブスクリプションはすべてコミコミとなっているケースが多いのが特徴だ。日常的に消耗するガソリンは別だが、車検や自動車税などの税金関連、タイヤやワイパーゴム、エンジンオイルといった消耗品も月額料金に含まれていることが多い。
自動車に掛かる契約や大半の支出を一本化し、月額払いで平準化することができるところが大きな魅力だ。
■KINTOの概要
思いのまま移動できる「筋斗雲」のイメージ
こうした自動車サブスクリプションサービスとしてトヨタが提供しているのが「KINTO ONE」だ。自動車に対する価値観が所有から利用へとシフトしていく時代を見越し、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」への変革を目指すトヨタの戦略の1つだ。
自家用車が欲しいときに簡単にクルマライフをスタートし、乗り換えたいときに簡単に乗り換え、不要になったら返却する。必要な時にすぐに現れて思いのまま移動できる「筋斗雲」のイメージから「KINTO」と命名された。
サービスは、3年間で6種類のレクサスブランド車を乗り継ぐことができる「KINTO SELECT」を2019年2月、3年間で1台のトヨタブランド車を利用できる「KINTO ONE」を同年3月にそれぞれ一部店舗でトライアルの形で提供開始し、以後車種やサービス提供エリアを拡大している。
なお、「KINTO SELECT」はその後「KINTO FLEX」と名称を変更し、2021年4月に新規申し込みの受け付けを終了した。レクサス車のサブスクリプションは「KINTO ONE」で可能となっている。
コンパクトカーから高級車種までラインアップ拡大
KINTOでは2021年10月現在、トヨタブランドと一部レクサスブランドを選択できる「KINTO ONE」と、レクサスブランド限定の「KINTO for LEXUS」が提供されている。
▼KINTO for LEXUS|【KINTO】クルマのサブスク、トヨタから
https://kinto-jp.com/kinto_one/lexus/
トヨタブランドでは、「ヤリス」や「アクア」をはじめとしたコンパクトカー9種、「C-HR」や「ハリアー」などのSUV5種、「アルファード」などのミニバン3種、「プリウス」や「クラウン」などのセダン・ワゴン・クーペ4種がラインアップされている。シートが回転する乗降サポート機能付きの車種やモデリスタ・GRパーツ装着仕様車を選択することもできる。
一方、レクサスブランドは「UX」「RX」「ES」「RC」をウェブで申し込むことができる。
このほか、「ヴォクシー」や「RAV4」、「NX」など、WEBで取り扱っておらず問い合わせが必要な車種もある。販売店によって利用可能となっているようだ。
2021年10月現在、人気ナンバー1はカローラクロスで、2位アクア、3位ルーミー、4位ヤリスクロス、5位ハリアーと続いている。
契約期間は3~7年、乗り換えサービスも提供
トヨタブランドは3年、5年、7年から契約期間を選ぶことができる。レクサスブランドは3年限定となる。トヨタブランドは、一定の期間が経過すれば、契約期間中でも割安な手数料で新しいクルマに乗り換えることが可能な「のりかえGO」サービスが提供されている。
例えば、3年契約の場合は契約開始から1年6カ月後、5年・7年契約の場合は契約開始から3年が経過すると乗り換えが可能となる。契約満了の4カ月前まで申し込むことができる。結婚や就職、転勤など、ライフスタイルの変化に合わせて気軽にマイカーを乗り換えられるのも魅力の1つだ。
料金には、車両本体の負担額のほか、自動車税や車検、任意保険、メンテナンス費用なども含んでいる。
契約の流れ
申し込みは、KINTO公式サイトまたはKINTO提携販売店の店頭で行うことができる。まず車種やオプションを選択し、続いてクルマを受け取ったりメンテナンスサービスを受けたりする販売店を選択する。
利用規約を読み、同意した後に住所や勤務先などの必要事項を入力すると、審査の申込が完了する。審査結果は3営業日以内を目安にメールなどで届くようだ。
審査通過後は、「My KINTO」へログインし、契約手続きを行う。月額利用料の支払い方法を選択し、利用規約に同意した後、契約申し込みボタンをクリックすることで契約締結となる。
その後、納車の目途が立つと指定した販売店から車両登録に関する書類一式が届くので、本人様確認書類など必要書類を揃えて提出する。
指定販売店から納車日程の連絡が入り、後日クルマを受け取った後に「My KINTO」にログインし、「納車完了確認」ボタンを押して注意事項を確認する。
定期メンテナンスや乗り換え時の流れ
定期メンテナンスの時期は、My KINTOページから確認できるほか、次期が近付くと販売店から連絡が入る。点検内容はプランにより異なるが、新車点検や法廷12カ月点検、車検整備など細かく設定されており、条件に合致した消耗品の交換なども行ってくれる。
一方、契約満了時に乗り換える際は、現在の契約を一度終了してKINTOと新たに契約を結ぶ形となる。通算走行距離制限を超過した場合や修理が必要な場合などはその分の精算が必要となる。また、中途解約する場合は、6カ月ごとの残利用料に追加精算金を加えた中途解約金が必要となる。
シミュレーション例:ヤリスクロスなら月4万円ちょっとで利用可能
KINTOのWEBサイトでは、車種や年齢、契約期間をもとに月額利用料のシミュレーションを行うことができるほか、同様の条件で現金一括払いした場合と銀行自動車ローンを利用した場合のシミュレーション比較も行うことができる。
例えば、「ヤリスクロス」を年齢26歳以上、契約期間5年で申し込んだ場合、車両代に税金や任意保険、車検などを加えた5年間の支払総額は、KINTOの場合247万5,000円で、月額利用料は4万1,250円となる。
一方、現金一括払いの場合は総額258万7,523円で1カ月当たり4万3,125円、銀行自動車ローン利用時は総額285万8,531円で1カ月当たり4万7,600円となっている。なお、KINTO以外のケースでは5年後の下取り参考価格61万4,663円を加味した額となっている。
従来のようにローンなどでマイカーを購入し、10年間じっくり乗る場合などは別だが、ローン購入し5年後に下取りに出す場合などと比較すれば、KINTOに軍配が上がるケースも多いようだ。
■KINTO関連のトピック
福岡トヨタが1年契約の「KINTO ONE FT」トライアル実施
KINTOは福岡トヨタ自動車の協力のもと、1年契約のサブスクリプションサービス「KINTO ONE FT」のトライアル販売を2019年11月に開始した。
支店経済都市である福岡市の特徴を考慮し、転勤者や赴任者がこれまでより短い期間で自身のライフスタイルに合わせた形でクルマを利用できるよう、試行的にサービス提供を開始したようだ。
群馬トヨタは「中古車版KINTO ONE」開始
群馬トヨタ自動車は2020年1月、中古車版KINTO ONEのトライアル「U-Car KINTO ONE by群馬トヨタ」をU.Park高崎江木店で開始した。
4年間のプランで一部中古車を月額定額で提供しているようだ。より低価格で気軽に利用可能なサービスとして、今後の動向に注目だ。
モビリティ関連サービスを提供する「モビリティマーケット」開設
KINTOは2021年4月、多様なモビリティサービスを提供するオンラインプラットフォーム「モビリティマーケット」を立ち上げた。パートナー企業の協力のもと、移動の目的や移動に付加価値を与えるさまざまな情報やサービスを提供している。
「新しい移動のよろこび」を発見できる場所として、ドライブの目的地やクルマライフを充実させるサービスなどをストーリー仕立てで紹介するほか、移動をより楽しいものにする製品やアクティビィティなどをプログラム化し、紹介している。KINTO契約者優待なども用意されているようだ。
提携企業・サービスは、NTTドコモやJTB、JR東日本など30数社に上る。移動・モビリティに関わるさまざまな情報が集まる場として、今後MaaSとの連携などにも期待が寄せられるところだ。
【参考】モビリティマーケットについては「KINTOが各社のモビリティサービスを集約!MaaSとの連携容易に」も参照。
2020年末までの申込数が約1万2300件に
トヨタは2019年12月の記者会見で同年2〜11月の申込数が951件だったことを明かしたが、その後車種拡大や契約プランの追加などサービス拡充を図った結果、翌2020年12月までの累計申込数が約1万2,300件に達したと発表した。
2020年6月以降は月1,000件を超えたほか、7月から12月までの期間は前年比6倍以上に増加しているという。新たなモビリティサービスとして、自動車サブスクリプションは着実に浸透しているようだ。
個人間カーシェアアプリ「わりかんKINTO」スタート
KINTOは2021年9月、KINTO ONEの契約車両を仲間同士でシェアするためのアプリ「わりかんKINTO」サービスを開始した。
アプリ「わりかんKINTO」には、共有カレンダーによる予約機能や、利用時間や利用割合、均等分割、走行距離などに応じて費用を分割・算出するわりかん機能、運転距離や時間、平均速度などの走行データや運転スコアを表示する実績管理機能、コミュニケーションを図るチャット機能が備わっている。
KINTOへ支払いは契約者が行うが、使用頻度などに応じて車両利用者それぞれの費用を算出することができ、仲間内で明確な精算を可能にするアプリだ。自動車保険は、契約者がクルマの使用を認めた人にも適用される。
■【まとめ】アイデアやサービスで競争力を高める時代に
モビリティマーケットによる優待や販売店による独自サービスなど、アイデア次第でまだまだ裾野を広げていくことができそうだ。
自動車サブスクは、トヨタ以外にも日産「NISSAN ClickMobi」、ホンダ「Honda Monthly Owner」、DeNA SOMPO Carlife「SOMPOで乗ーる」、IDOM CaaS Technology「NOREL」など、自動車を取り扱う各社がサービスを提供している。
他社と差別化を図るには、自動車のブランド力のみならずさまざまなアイデア・サービスを付加していくことが重要となる。まさにモビリティサービスの時代だ。今後、各社のサブスクがどのような進化を遂げていくのか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略とは?「e-Pallete」が戦略の軸」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)