豊田章男会長肝いりのモビリティの実験場「Toyota Woven City」がついにオープンした。陣頭指揮を執るのは、章男会長の長男・大輔氏だ。オフィシャルローンチイベントには、章男氏と大輔氏が揃って出席した。
豊田一族として、将来の役員入り、ひいてはグループをけん引していくトップ候補として期待が寄せられる大輔氏にとって、Woven Cityは試金石となる。成功させれば、トヨタグループ内で出世するきっかけになるのは確実だ。
章男会長の影響力は今なお強いが、次世代を担う人材として大輔氏はWoven Cityを契機にどこまで存在感を増すことができるか。Woven Cityの概要とともに、豊田一族の系譜をおさらいしてみよう。
記事の目次
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■Woven Cityオープン
オープニングイベントで章男氏、大輔氏の親子が揃って登壇
Woven Cityは2025年9月25日にオフィシャルローンチを迎え、インベンターズやウィーバーズら関係ステークホルダーを招いたイベントが開催された。
トヨタイムズによると、イベントでは、Woven Cityプロジェクトをリードしてきた、ウーブン・バイ・トヨタでシニア・バイス・プレジデント(SVP)を務める大輔氏がステージに立ち、「ウーブン・シティの構想が始まったのは、トヨタ自動車東日本の従業員集会。当時の豊田社長が、会社の承認も何もない段階で個人の想いとして『未来をつくる実験都市をやろう』と語ったことがきっかけ」など振り返った。
そして、「これからのウーブン・シティに必要なのは、みんなの“Kakezan”。異なる分野、異なる文化が重なることで、新しいアイデアや価値が生まれる。その価値がまた次の価値を呼び、スパイラルのように広がっていく。私たちはそれをKakezanと呼んでいる。この街が、Kakezanを次々と生み出す場所になることを願い、私たち自身がそのMomentum―原動力になっていきたいと思う」と決意を語った。
一方、ローンチを宣言した章男氏は「この街に引っ越してまいります、マスター・ウィーバーの豊田でございます。(マスター・ウィーバーは)世話を焼くのが大好きな自称町内会長のようなもので、勝手に町内会長を名乗っている近所のおじさんだと思っていただければ」と章男節を披露。
Kakezanにも言及し、「Kakezanは1社だけだと成り立たない。最低でも2社必要。2以上だったらいくらでも掛けることができる。多くの笑顔が集まればたくさんの共感が生まれる。そうしたらもっともっと仲間が増えていく」など、多くの仲間の参加に期待を寄せた。
「停滞よりも常に変化を」
メディアとの質疑応答には、大輔氏とウーブン・バイ・トヨタの隈部肇CEO、近健太CFOが対応した。
「掛け算の成果はいつごろ、どんな内容を打ち出していきたいか」との問いに対し、大輔氏は「成果がいつ出るのか正直わからず、予想もしないような成果やアウトプットが出てくることもあれば、そうではないかもしれない。成功、失敗ではなく、たくさんの取り組みができたかどうかが最初に置かれる1つの成果になる。停滞するよりも、常に変化点があって動いていることが最初のフェーズにおいては一番大事」と見解を述べた。
「ウィーバーズのフィードバックが重要とのことだが、どのように反応を吸い上げていくのか?」という問いに対しては、大輔氏は「どう評価をしていくのかが非常に大事。私もテストドライバーとしてクルマの開発に参加しているが、フィードバックのしやすさ、いかにハードルを下げるかが非常に重要と思う。好き・嫌いも一歩目としては大事で、使う・使わないも十分フィードバックになる。また、そのフィードバックを得て改善したものをいかにハードル低く試せるようにするかが大事」と回答した。
■豊田の系譜
2016年入社、2018年にウーブン前身のTRI-AD設立に寄与
さまざまな技術やサービス実証などが行われるWoven Cityだが、試されるのはそれだけではない。ある意味、大輔氏の器量も試されることになる。創業家4代目にあたる大輔氏は、本人が望むと望まざるに拘わらず、未来のトヨタグループを率いる経営者として嘱望されるためだ。
以下、大輔氏の経歴とともに、トヨタの系譜についておさらいしていこう。
大輔氏は1988年生まれの37歳(2025年10月現在)。慶應義塾大学卒業後、起業家教育で有名な米バブソン大学へ。
米企業を経て2016年にトヨタに入社し、2018年にウーブン・バイ・トヨタの前身となるトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)立ち上げに関わった。2021年にウーブン・プラネット・ホールディングス(現ウーブン・バイ・トヨタ)のSVPに就任し、現在に至る。
実証都市でありモビリティのテストコースとして位置付けられるWoven Cityプロジェクトの監督を務める。ウーブン・プラネット・グループ設立の際のオープニングイベントでも、ジェームス・カフナー氏らとともにスピーチを行っており、Woven Cityを担当することなどを述べている(下記リンク先参照)。
今後、Woven Cityの始動とともに表舞台における出番も増えていくことは間違いないだろう。
また、レーシングドライバーとして耐久レースやモータースポーツイベントに参加している。クルマの走行で得たスキルや知見を活用し、人の心を動かす自動運転技術やモビリティの開発を目指しているという。やがては、父・章男氏が務めるトヨタのマスタードライバーの座に就くことも期待されているのかもしれない。
【参考】関連記事については「【全文】トヨタ・ウーブン新体制のオープニング式典、スピーチの内容」も参照。
豊田姓の歴代社長は6人、本家筋は章男氏が3代目
トヨタ自動車(トヨタ自動車工業時代を含む)において、豊田姓の社長は6人いる。一人目は、初代社長の利三郎氏、二人目は喜一郎氏(第2代)、三人目は英二氏(第5代)、四人目は章一郎氏(第6代)、五人目は達郎氏(第7代)、そして六人目が章男氏(第11代)だ。
利三郎氏は、豊田自動織機を立ち上げたトヨタグループの創始者・佐吉氏の婿養子だ。豊田自動織機の初代社長も務めた。喜一郎氏は佐吉氏の長男で、豊田自動織機内で自動車部を立ち上げた人物だ。このため、喜一郎氏がトヨタ自動車の創業者とされている。
英二氏は佐吉氏の甥、喜一郎氏の従弟にあたり、1967年から1982年まで社長を務めた後、喜一郎氏の長男・章一郎氏に椅子を譲った。章一郎氏は約10年間にわたりトヨタのかじ取りを担い、弟の達郎氏にバトンを渡した。
その後、奥田碩氏、張富士夫氏、渡辺捷昭氏を経て、2009年に章一郎氏の長男・章男氏が豊田一族として再び采配を振るうこととなった。
喜一郎氏、章一郎氏、章男氏が本家筋となり、大輔氏は4代目にあたる。一族以外の社長も6人おり、決して一族経営にこだわっているわけではないが、要所要所で大政奉還され、トヨタグループを盛り上げてきたことも事実だ。
本家筋の4代目として、将来大輔氏が重責を担うことになる可能性は非常に高い。宿命からは逃れられないのだ。
Woven Cityが大輔氏の試金石に
未来のトヨタを担う候補として期待が寄せられる大輔氏だが、ただ単に本家筋というだけで社長職に就けるほどトヨタは甘くない。グループ数十万人の従業員の命運を左右するからには、実績と経営哲学が求められるのは必然だ。
若い大輔氏にとって、Woven Cityは実績と将来に向けた経営哲学を学ぶ貴重な場となる。モビリティカンパニーへの変革を目指すトヨタにとって、Woven Cityにおける取り組みは大きな試金石となるが、将来の経営者候補である大輔氏にとっても、未来のベクトルを見定める重要な機会となるのだ。
Woven Cityは利益度外視の研究開発プロジェクトに相当するため、その成果を数値化して判定することは難しいが、ここで生まれた技術やサービスが将来トヨタの事業の柱の一本に成長していく可能性は十分考えられる。
その意味で、プロジェクトをけん引する大輔氏の手腕・資質が試されることになるだろう。Woven Cityで実績を重ね、トヨタが進むべき道を示すことができるか。経営者候補として、大輔氏がなすべき第一歩がWoven Cityには眠っているのだ。
章男会長が大輔氏に引き継いでほしいことは……
さて、将来が期待される大輔氏だが、現会長を務める父の章男氏はどのように考えているのか。トヨタイムズによると、2025年4月に米自動車専門紙「オートモーティブ・ニュース」に掲載された章男氏のインタビュー記事の中で、大輔氏への思いが語られている。
記事によると、章男氏は「彼は私の息子だが、まったく別の人間。彼には彼固有の人生がある。だから、彼に私が経験したような訓練をさせようとは思わない」とし、自身が歩んできたレール上をそのまま歩ませることには否定的なようだ。
一方、大輔氏に一つだけ引き継いでほしい役割としてマスタードライバーを挙げている。「ブランドを持つメーカーとして、マスタードライバーはブランドの味付けを決める存在。ブランドの味は時代によって変わる。トヨタの味、レクサスの味、GRの味などは、その時々で決定していく必要がある。いつか、彼がこの部分を受け継いでくれることを願っている」と述べている。
おそらく、大輔氏が後継者となることを望んでいないわけではないが、自身と同じ経験・知見を積み重ねるのではなく、大輔氏自身が模索し、考え方をしっかりと育んだうえで上がっていくことを願っているものと思われる。ただ一つ、マスタードライバーとしてトヨタが求めるクルマの本質だけは引き継いでほしい――といった感じと思われる。
▼トヨタイムズの記事はこちら
https://toyotatimes.jp/spotlights/1081.html
■Woven Cityの概要
フェーズ1ローンチ、インベンターズは20者に
Woven Cityは、モビリティカンパニーへの変革を目指すトヨタがモビリティのテストコースと位置付ける実証都市だ。トヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地約70万平米を活用し、道路や街区などを一から造成している。
2025年9月にローンチしたフェーズ1では、このうち4万7,000平米を開拓・造成した小規模エリアで実証を行う。エリアは順次拡大していく計画だ。
実証は、同業・異業問わず外部の企業や研究者らとともに行う。この研究を進める企業や個人を、同所ではインベンターズ(Inventors)と呼ぶ。
今のところ、ダイキン工業、ダイドードリンコ、日清食品、UCCジャパン、増進会ホールディングス、インターステラテクノロジズ、共立製薬の7社と、トヨタ、ウーブン・バイ・トヨタ、豊田自動織機、ジェイテクト、トヨタ車体、豊田通商、アイシン、デンソー、トヨタ紡織、トヨタ自動車東日本、豊田合成、トヨタ自動車九州のトヨタグループ12社、そして、音に関する実証やWoven Cityのテーマ曲などをプロデュースするナオト・インティライミを加えた20者の参画が決定している。
スタートアップなどを対象としたアクセラレータプログラム「Toyota Woven City Challenge」の募集も行っており、インベンターズはまだまだ増えるものと思われる。
研究活動を行うインベンターズに対し、Woven Cityの住人や訪問者はウィーバーズ(Weavers)と呼ばれ、同所で行われる実証などに積極的に参加し、フィードバックを提供する。まずはトヨタ関係者をはじめとするインベンターズが住み、順次希望者へと拡大していく予定で、フェーズ1では360人規模を想定している。
視察や見学といった一般訪問も、2026年度以降受け入れていく計画としている。
【参考】関連記事については「トヨタWoven Cityは「無職の引きこもり」でも住める?希望者が続々」も参照。
■【まとめ】まずはWoven Cityの顔役に
現会長である章男氏が表舞台に立つことは依然として多く、そのキャラクターからもやはり目立ってしまい、トヨタの顔役として定着してしまっている。その分、現社長の佐藤恒治氏や大輔氏が陰に隠れてしまっている感も否めない。
どうしても章男氏が目立ってしまうが、それはそれで仕方のないことだ。今後、佐藤氏、そして大輔氏が章男会長を食うぐらいに成長し活躍することで、新たなトヨタの形が創造されていく。大輔氏は、まずはWoven Cityの顔役となり、これを契機に次世代のトヨタの象徴的存在となっていくような活躍を期待したい。
【参考】関連記事については「トヨタWoven City、実証企業に「現金100万円」プレゼント」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)