老舗タクシー会社、「ライドシェアの運営権」狙いで買収標的に?

newmoが未来都買収、「直接参入」へ

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新進気鋭のモビリティテクノロジー企業newmo(ニューモ)が新たな動きを見せている。同社はタクシー事業、そしてライドシェア事業の本格展開を見据え、大阪府内のタクシー事業者未来都を買収した。自らタクシー事業に参入したのだ。

現在国内で解禁されている通称日本版ライドシェア「自家用車活用事業」は、タクシー事業者のみに運営管理が限定されている。異業種参入に大きな制限が課されているのだ。一方、本格版ライドシェア解禁に向けた議論はまだまだ続く見込みで、このまま長引くようであればこうした動きがほかにも出てくる可能性が考えられる。

なおnewmoはシリーズAラウンドのファーストクローズにおいて、100億円超の資金調達を実施したことも2024年7月に発表している。これにより累計資金調達額は120億円超となった。設立からわずか半年で大型の資金調達に成功したことになる。同社の取り組みに触れながら、ライドシェアをめぐる最新動向に迫る。

■newmoの取り組み概要

2024年秋ごろにも日本版ライドシェアに参入

出典:newmo公式サイト

newmoは2024年7月、未来都の全発行済株式を取得し、経営権を取得したと発表した。働き手不足や移動難民の課題が深刻化する未来を見据え、タクシー事業におけるDX推進や経営基盤の強化、日本版ライドシェアへの参入などの想いで両社が一致し、経営権を取得した。取得価額については非開示としている。

Newmoは3月にも大阪府岸和田市に本拠を構える岸和田交通グループ傘下の岸交に資本参加し、共同経営を通じてタクシー事業の運営とともに2024年秋ごろをめどにライドシェア事業を進めることを発表している。

今回の買収により、newmoグループの保有タクシー車両数は岸交40台、未来都606台の計646台となり、大阪府内のタクシー事業者として5番目の規模に達したという。

newmoは3月に開催した事業戦略発表会で、2025年度中に全国主要地域でのタクシー事業展開、タクシー車両数3,000台、ドライバー数1万人を目指す目標を掲げている。引き続き全国のタクシー事業者との資本提携を進め、積極的に事業を推進していく方針だ。

自家用車活用事業は2024年4月スタート

newmoのこうした動きは何を意味するのか。newmoがテクノロジー企業としてプラットフォーマーを目指すのであれば、タクシー事業そのものを手中に収める必要はない。それでも自らタクシー事業に着手したのは、自家用車活用事業に自ら参入するために他ならないのだろう。

自家用車活用事業は、道路運送法第78条第3号「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」に基づき、タクシーが不足する地域や時期、時間帯において、地域の自家用車や一般ドライバーを活用して行う有償運送を可能とする制度だ。

条件を満たす対象エリアで営業を行うタクシー事業者が許可申請し、エリアごとに決められた導入可能な総台数から枠を配分してもらうことで自家用車活用事業が可能になる。

同事業を行いたい一般ドライバーは、自家用車活用事業に参加しているタクシー事業者経由で乗客を斡旋・マッチングしてもらう形でサービスを提供する。パートのような雇用形態でタクシー事業者に雇われてサービスを提供するのが一般的だ。

本格版ライドシェア議論は難航?

Uber Technologiesのように、タクシー事業の権限を持たないプラットフォーマーは、通常のタクシー配車サービスと同様マッチングを図る仲介役にしかなれず、付帯する導入支援事業などで差別化を図るほかない。

プラットフォーマーにとって自家用車活用事業は特段うまみのあるものではない。おそらく、各社は本格版ライドシェアの解禁を見据えて自家用車活用事業の支援を行っているものと推測される。

しかし、この本格版ライドシェア導入をめぐる議論が難航しているようだ。当初予定では、自家用車活用事業の状況を踏まえ2024年6月に一定の方針が示される予定だったが、慎重派の声は根強く、尚早過ぎるため今しばらくモニタリングと検証を進めていくこととなった。

検証を進める間、タクシー事業者以外の者が行う本格版ライドシェア事業についても法制度を含め事業の在り方を並行して議論を進めることとしたが、現時点で特定の期限は設けない方針だ。

規制改革担当大臣を務める河野太郎氏は、2024年5月の規制改革推進会議で「モニタリングと検証をいつまでやるのか、年内までに議論を取りまとめ新たな法制度にシフトすべきではないか、日本版ライドシェアだけでは問題解決にはならないといった御指摘をいただいた」と前置きしたうえで、「私としては、大事なことは日本全国で移動の足の不足が解消され、移動の自由を確立すること。そのために、まずはデータを充実させて各種のモニタリングを行いながら、ここはアジャイルに日本版ライドシェア制度の改善を進めていきたいと思う」と述べている。以前と比べトーンダウンしたように感じる。

政権与党内でも全面解禁慎重派の声が根強いため、本格版ライドシェアの先行きは不透明と言わざるを得ない状況だ。

自家用車活用事業への直接参入にメリット?

こうした状況が続けば、プラットフォーマーもただ指をくわえて待っているわけにもいかなくなる。newmoのように、タクシー事業者への資本参加を通じて自家用車活用事業に直接参入する事例がほかにも出てくる可能性も考えられる。

プラットフォーマーによる自家用車活用事業への直接参入のメリットは、目先の利益ではない。リアルなサービス提供を通じた知見・データ収集と、タクシー事業者(自家用車活用事業者)としての立場の取得が考えられる。後発組としては、確実なシェア・実績獲得の意味合いも大きそうだ。

本格版ライドシェアが解禁されるにしろされないにしろ、単純にマッチングを行うサービスにとどまっていては先が知れている。交通事業者の中に入り、実際のサービスを通じてこそ知ることができる課題やポテンシャルは必ず存在する。他社と差別化を図っていく意味でも、内情をしっかり把握することは重要だ。

また、タクシー事業者としての立場を取得することで、今後当事者として公の場で堂々と意見を表明し、流れを変えることもできるかもしれない。

さらには、本格版ライドシェアが解禁された場合もこうした知見が生きる。仮に本格版が解禁されることになった場合、プラットフォーマーはただの仲介役ではなく、運送依頼を受ける事業者に位置付けられる見込みだ。つまり、個々の運送責任を負う立場となるのだ。こうした先を見据えれば、タクシー事業者としてノウハウを蓄積しておくことは非常に有用なものとなることは間違いない。

現状を変えるため、そして未来に向け各社がどのような動きを見せるか、要注目だ。

【参考】ライドシェアに反対する意見については「ライドシェア、反対勢力の「言い分」パターン集」も参照。

■newmoの概要

第1弾事業としてタクシー・ライドシェアに注目

newmoは、2023年12月までメルカリグループ日本事業責任者を務めていた青柳直樹氏が2024年1月に設立したモビリティ系スタートアップだ。「移動で地域をカラフルに」をコンセプトに、移動の多様化を通じて新たな地域交通を実現し、地域の潜在力を引き出すことを目指すとしている。利用者視点に立ったサスティナブルな地域交通の実現だ。

ミッションには「移動手段の不安を取り除き、日常の移動をより楽しく、便利に、安全に」「多様なモビリティ手段の提供を通じて、地域の観光、産業を豊かに」「テクノロジーを活用し、多くの方が安全に、柔軟に働くことができる環境を提供」を掲げている。

その第一弾としての事業がライドシェアへの参入だ。日本全国のタクシー事業者との資本参加・提携を通じ、タクシーとライドシェアのハイブリッドモデルで供給拡大を図っていく。

ライドシェアドライバーの拡大においては、安全運転講習の実施や事故対応、SOS機能など安心して働ける仕組みを整備するほか、ダイナミックプライシングの設定や高い還元を通じて、女性・若年層を中心に担い手の裾野を広げていくとしている。

利用者・乗客向けとしては、専用のアプリを通じてタクシー・ライドシェアの双方を選択可能にするのはもちろん、ドライバープロフィールの事前確認や女性ドライバー、大型荷物・車いす・ベビーカー対応、外国語対応など、利用シーンやニーズに応じた多様な選択肢を提供していく方針だ。

ドライバーに対しては、登録時に最新のeKYC(オンライン本人確認)や、事故歴・違反歴・犯罪歴・反社チェックなどに外部データベースを活用する。特定講習や事故予防にも最新のモビリティテクノロジーを活用し、一人ひとりの運転特性に合わせるなど安全性向上に向けたテクノロジーの活用も推進していく。

■配車プラットフォーマーの動向

配車対応、採用支援などで自家用車活用事業にアプローチ

国内でタクシー配車サービスを手掛けるGOやUber Japan、DiDiモビリティジャパン、S.RIDEはともに、配車アプリとしては日本版ライドシェアに対応済みだ。

S.RIDEを除く3社は導入支援も手掛けており、ライドシェアドライバーの募集などを行っている。登録ドライバーを対応エリアのタクシー事業者へ紹介する取り組みなどを行っているようだ。

ただ、Uber Japanによると、ライドシェアドライバー候補者にアプローチしたものの6月末時点での応募は数パーセントにとどまり、実際に稼働しているドライバーは割り当てられた台数に対して非常に少ない状況という。

GOは採用支援やアプリのシステム導入支援、車載機器の提供など幅広に支援対応を行う従来のプランに加え、タクシー事業者の営業地域がGO対象エリアから外れていても日本版ライドシェア1台からでも実施可能なプランを新設する意向だ。

■自家用車活用事業の動向

自家用車活用事業のバージョンアップには限界あり?

自家用車活用事業は2024年7月現在、東京都特別区、横浜市・川崎市、名古屋市、京都市、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、大阪市、神戸市、広島市、福岡市で行われている。対象エリアは拡大傾向にあり、また需要が増しサービス提供可能となる要件に新たに「1時間5ミリ以上の降水量が予報される時間帯」を加えるなどバージョンアップを図っている。

サービス拡大を鋭意図っている同事業だが、需要過多など導入条件が厳しく、過疎地域を含む全国を網羅可能な制度設計とはなっていないのが現状だ。

規制改革推進会議でも、議長代理を務める桜坂法律事務所弁護士の林いづみ氏は「あくまでタクシー不足を補うための、通達レべルの暫定的措置として制度設計されており、タクシー会社だけで公共交通機関の全国の減少分の移動難民をカバーすることができるとも、カバーしようとも、国交省も想定されていない」とし、その上で「新たなイノベーションを取り入れられる国と、時期尚早といって10年たっても先送りしようとする国と、どちらが活力ある社会になるかは明らか。タクシー事業者限定なしの本物のデジタルデータを活用したライドシェア制度を直ちに導入し、国民が改革の成果を実感できるよう岸田総理に今一度お願い申し上げる」と述べている。

【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業一覧」も参照。

■【まとめ】大局的見地で交通社会の未来を

自家用車活用事業と本格版ライドシェアをめぐる議論は今しばらく慎重に進められることになりそうだが、自家用車活用事業の改善には限界があり、全国の公共交通不足を解消可能なサービスにはなり得ない。

本格版ライドシェア解禁ありきではないが、大局的見地で未来を見据え、交通分野のイノベーションを推進してもらいたいところだ。

また、newmoのような新進気鋭のスタートアップが未来の交通社会に対しどのような回答を導き出していくかも興味深いところだ。イノベーションを通じた高効率な移動実現に向け、今後どのような事業展開を行っていくのか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「メルカリ、ライドシェア参入!研修参加者の募集スタート」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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