ライドシェア、料金変動制で「運賃最大3倍」案 業界団体、国交省に意見

低所得層から反発必至か

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2024年度に開始予定の自家用車活用事業。後の本格ライドシェアにつながる事業として注目を集めているが、運賃をめぐりダイナミックプライシングを導入すべきかどうか――といった観点でも賛否が分かれているようだ。

意見公募ではダイナミックプライシングを導入する場合、運賃の上限については現状のタクシー運賃の3倍程度の許容度が必要との案も提出された。もしその案が採用されるなら、価格が高い時間帯は低所得者層がライドシェアに乗りにくくなるかもしれない。反発も起きそうだ。

自家用車活用事業におけるダイナミックプライシングは「あり」か「なし」か。モビリティ分野における導入例などを踏まえながら、その是非に迫る。

▼パブリックコメントに対する意見|一般社団法人シェアリングエコノミー協会
https://sharing-economy.jp/ja/wp-content/uploads/2024/03/f44c0cf6ba884acb1ce747b243ed24c3.pdf
▼自家用車活用事業のパブリックコメントの状況及び制度案|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001730263.pdf

■自家用車活用事業に関する意見

パブコメでは賛否両論

国土交通省は2024年2月、地域の自家用車や一般ドライバーが有償運送サービスを提供する自家用車活用事業に関するパブリックコメントを実施した。

主な内容は、許可基準や許可に付する条件などだ。タクシー事業者ごとに使用可能な車両数やドライバーに課する義務、運送引受け時に発着地が確定していること、運賃は事前確定運賃により決定し、原則キャッシュレス決済であることなどだ。

このパブコメに対し提出された主な意見は次の通りだ。

賛否さまざまな意見が寄せられている。ダイナミックプライシングについても推奨派と反対派それぞれの意見が出されたようだ。

【参考】自家用車活用事業については「ライドシェア運転手、配車拒否ならタクシー会社が「指導」 国の想定案判明」も参照。

シェアサービス業界団体は変動料金を支持

推奨派としては、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が挙げられる。同協会はライドシェア推進派で、今回のパブコメに意見を提出したことも公表している。

自家用車活用事業の運行範囲に係る地域や時間帯などの規制撤回を求めるとともに、道路運送法第78条2号の自家用有償旅客運送と同様、一定のダイナミックプライシングが可能であることを明確にしてほしいと要望している。

自家用有償旅客運送に関しては、利用者から収受する対価の目安を50%から80%に引き上げるとともに、一定のダイナミックプライシングが可能であることを明確化する方針が規制改革推進会議における議論で示されており、自家用車活用事業においても事業を持続可能な形で運営していく上で導入が必要としている。

具体的には、「上下5割」などの上下限の規制は設けず、下限は現状のタクシー初乗り運賃程度、上限は現状のタクシー運賃の3倍程度の許容度が必要との考え方を示している。

根拠として、現状のタクシー事業者が配車手数料を1,000円程度に設定していることを挙げている。短距離輸送の場合、総額が距離運賃の2倍を超過することがあり、これを目安としたようだ。

なお、タクシーにおける事前確定変動運賃制では、実際の乗車時間・距離が想定よりも大幅に増加した際に運賃を調整する仕組みが導入されていないことも指摘している。海外では必須の仕組みとなっており、乗客による事前確定運賃の悪用(寄り道や行き先の追加など)を防ぐためにも導入が必要としている。

移動困難者が出てくるおそれも?

一方、反対派としては、タクシーや観光バスなどの労働者組合である全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)が挙げられる。今回のパブコメに意見したかどうかは不明だが、過去、タクシー業へのダイナミックプライシングをめぐるパブコメで意見を提出し、導入に反対する声明を発表している。

その際は、ダイナミックプライシング制度導入は運賃の概念やタクシーの公共性を壊し、利用者の公平・利便性を著しく損なうだけでなく、タクシー運転者の賃金・労働条件を低下させることになると主張している。

また、タクシー労働者にとっては、変動運賃の影響による営業収入は平均化しないことも理由に挙げている。これまでに実施してきた深夜大口割引などはいずれも需要喚起につながらず、タクシー労働者の賃金低下に直接影響を与えてきたという。

運賃が大きく割引された場合、歩合給制賃金であることからも賃金低下に直結し、労働環境改善に逆行するという内容だ。

■ダイナミックプライシングの導入状況

航空券やホテルでは定着、リゾートやスポーツチケットも

ダイナミックプライシングは、市場における需要と供給に合わせ、柔軟に価格を変動させるものだ。価格変動により需給バランスを調整したり、利潤最大化を図ったりする。

航空券やホテルの宿泊費などが代表例だ。需要が集中する繁忙期には料金水準を上げ、逆に閑散期には水準を下げることでバランスを調整する。

近年では、東京ディズニーリゾートやサッカーJリーグなどで導入された。ディズニーを運営するオリエンタルランドは2020年3月にダイナミックプライシングを導入した。時期や曜日ごとに異なるチケット価格を設定し、入園者数の繁閑差を平準化しテーマパークの価値向上に努めるとしている。

Jリーグは、2018年にダイナミックプライシングを導入した。主な目的には、チケットの不正高額転売対策を挙げている。需要に応じた適正価格でチケット販売を行うことで、転売サイトで購入しても得をしにくい状態を作り上げるという。

こうした方針により、利用者は閑散期や雨天時などは安価でサービスを受けられる一方、その逆も然りで、サービスの対価が高額となる場合もある。

タクシー事業では「事前確定型変動運賃」制度化

モビリティ関連では、すでにタクシーサービスにおいて2023年に事前確定型変動運賃が制度化されている。事前確定運賃を前提にダイナミックプライシングが導入されているのだ。

公示「一般乗用旅客自動車運送事業の事前確定運賃に関する認可申請の取扱いについて」によると、事前確定型変動運賃は、事前確定運賃であって配車アプリなどを通じて需給に応じて柔軟に運賃を変動させることを可能とする運賃と定められている。

その上で、変動運賃の平均額が運賃幅に収まるような方法により算定される運賃であるものとし、変動幅は5割増から5割引の範囲内において10円単位で設定することとされている。

なお、タクシーの迎車回送料金に関しては、2020年に変動制が導入されている。需要に応じて料金を設定する場合、1回ごとの上限の額は、初乗運賃額または認可済みの定額迎車回送料金のうちいずれか低い方の額にその3倍増の額を加えた額を上限とし、定額の場合より高額となる際は配車対象となる車両の範囲を拡げるなど配車能力を高めることとしている。

また、運送需要などを踏まえて一定期間における平均の迎車回送料金の額が基準料金額と一致するよう変動させるものとし、定期的に実施状況を管轄する地方運輸局長に報告することが義務付けられている。

バスでも導入事例が続々

バス事業においても、ダイナミックプライシングの導入が進み始めているようだ。両備ホールディングスは2020年、両備高速バスの各路線で、乗車券発売開始後も乗車便や予約のタイミングによって随時運賃が変動するダイナミックプライシング型の商品を順次導入すると発表した。

京王電鉄バスも2020年、高速バス座席予約システム「SRS」においてバス事業者向けにダイナミックプライシング(価格変動制)機能を提供するサービスを開始すると発表した。

西日本鉄道と宮崎交通、九州産交バス、JR九州バスの4社は2022年、共同運行する高速バス「福岡~宮崎線(フェニックス号)」の運賃体系を見直し、ダイナミックプライシング型の運賃制度を導入すると発表した。

通常の路線バスなどでは導入が難しそうだが、事前予約可能な高速バスなどはダイナミックプライシングに向いている。MaaSの普及に伴いデジタルチケット化も進んでいることから、こうした動きは今後も続くものと思われる。

■自家用車活用事業におけるダイナミックプライシング

自家用車活用事業は需要過多が前提では……

モビリティ分野でも導入が進むダイナミックプライシングだが、自家用車活用事業における導入には疑問が生じる。自家用車活用事業は、そもそも「タクシー供給が不足している」ことを前提にサービスを提供するものだからだ。

供給不足、つまり需要過多が前提であるならば、ダイナミックプライシング導入は「割り増し」側にしか動かないことになる。変動運賃の平均額も確実に通常の水準を上回ることになる。

また、自家用車活用事業の運賃相場に関する方針が示されていないため憶測含みとなるが、同事業を管理するタクシー事業者の配車料金(事前確定運賃)を前提とするのであれば、結局のところそのタクシー事業者が事前確定型変動運賃を導入しているかどうかの問題に帰結する。

つまり、タクシー事業者が事前確定型変動運賃を導入していれば必然的に自家用車活用事業にも導入されることになり、導入していなければそれに従うのみとなる。

自家用車活用事業の実施主体はあくまでタクシー事業者であるため、運賃体系が既存事業と連動したものとなるのは必然と言えるのではないだろうか。

■【まとめ】自家用車活用事業でのダイナミックプライシングはナンセンス?

自家用車活用事業におけるダイナミックプライシング導入の是非は、ナンセンスなものと言えそうだ。むしろ、既存タクシー事業と同等の運賃体系となるのか、一般ドライバー対応のため割引運賃を認めるかどうか――の方が興味深いのではないだろうか。

今後議論が過熱するだろう本格ライドシェアにおいても、料金水準は論点の一つとなる。プラットフォーマーがサービス主体となるため、タクシー事業者含め新たな規制を設ける必要がありそうだ。

ライドシェア推進派と反対派は、こうした論点でも衝突することになる。今後の議論の行方に要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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