「特定小型原動機付自転車」として新ルールのもと公道走行が可能になった電動キックボード。一定要件を満たした電動キックボードは、運転免許なし・ヘルメット未着用(努力義務)で走行可能となり、条件を満たせば歩道を走行することもできるようになった。新たな移動手段の誕生だ。
ただ、こうした新たなモビリティの交通ルール浸透には時間がかかり、正しい利用方法を熟知していないドライバーが巻き起こす事件・事故が後を絶たないようだ。
電動キックボードにまつわる事故をはじめ、道路交通法改正前後における取り締まり状況などを参照し、社会実装の現状に迫ってみる。保険への加入が必須なのかについても解説する。
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<記事の更新情報>
・2023年12月15日:保険への加入について解説
・2023年11月20日:記事初稿を公開
記事の目次
■電動キックボードの取り締まり状況
通行区分違反と信号無視が多数
警察庁の発表によると、改正道交法施行前の2021年9月~2023年1月における違反類型別の電動キックボード指導取締り件数は、検挙2,014件、指導警告1,321件に上る。
内訳は、検挙が通行区分違反1,116件で最も多く、信号無視437件、一時不停止145件、整備不良38件など。その他は278件で、このうち酒気帯び運転が57件あったという。
指導警告では、整備不良431件、通行区分326件、無免許313件、ヘルメット未着用115件、その他136件の状況で、その他のうち酒気帯び運転が18件あった。
改正法施行後、取締り件数は大幅増加
では、改正道交法施行後はどのような状況となっているのか。2023年7~9月の取締り状況は、検挙件数が7月406件、8月692件、9月923件の計2,021件で、わずか3カ月間で2021年9月~2023年1月間と同等の数字を示した。
母数の増加や改正法施行による取締まり強化の影響が大きいものと思われるが、明らかに増加傾向にあるようだ。
なお、内訳は通行区分879件、信号無視811件、一時不停止174件、歩行者妨害58件、その他99件となっている。酒気帯びは12件あった。
特定小型原付も交通反則通告制度の対象に
改正法では、電動キックボードのうち特定小型原動機付自転車についても交通反則通告制度の対象とされた。特定小型原動機付自転車の運転者が犯した道交法の規定に反する行為において、比較的軽微であって現認、明白、定型的なものは反則行為とする。
行政上の手続きとして反則金を任意納付すれば、その反則行為に係る事件については公訴が提起されない。自動車において軽微な違反を犯した際と同様の流れだ。もちろん、一定期間内に反則金を納付しなかった場合は、本来の刑事手続きが進められることになる。
特定小型原動機付自転車運転者講習制度の創設
特定小型原動機付自転車の運転においては、違反行為を繰り返す人も想定される。そこで改正法では、危険性を改善し将来における交通安全を確保するための措置として、特定小型原動機付自転車運転者講習制度が新たに設けられた。
新制度では、次に掲げる違反行為を反復して行った人に対し、都道府県公安委員会は講習の受講を命ずることができることとされている。
- 信号無視
- 通行禁止違反
- 歩行者用道路徐行違反
- 通行区分違反
- 歩道徐行等義務違反
- 路側帯進行方法違反
- 遮断踏切立入り
- 優先道路通行車妨害等
- 交差点優先車妨害
- 環状交差点通行車妨害等
- 指定場所一時不停止等
- 整備不良車両の運転
- 酒気帯び運転等
- 共同危険行為等
- 安全運転義務違反
- 携帯電話使用等
- 妨害運転
交通違反の取締りを受けた場合や交通事故を起こして送致された人が、3年以内に違反・事故を起こした場合に対象となり、講習受講命令書が交付される。
想定される違反は数多くあるが、取り締まりの結果を考慮すると、通行区分違反や信号無視が圧倒的に多いのは、自転車感覚で乗っている人が多い結果なのかもしれない。もちろん自転車でもアウトな行為だが、取り締まりが比較的緩いため、その延長で軽い気持ちで違反を犯してしまう人も多いのではないだろうか。
ただ、通行区分違反や信号無視による他の交通参加者との衝突が後述する事故につながることは言うまでもない。自動車と衝突すれば自分の身が危うく、歩行者と衝突すれば相手の身を危うくする。逃げれば「ひき逃げ」扱いとなり、人生を棒に振る。
酒気帯び運転は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」と自動車と同様非常に重い罰が下される。車両提供罪や同乗罪・酒類提供罪なども課されるため、社会全体で厳格に対処しなければならないところだ。
このほか、運転者の年齢制限に違反した場合、つまり16歳未満の人が運転した場合、「6月以下の懲役または10万円以下の罰金」となる。16歳未満に特定小型原動機付自転車を提供した場合も同罪で、興味本位で運転すると大変痛い目にあうことになる。
特定小型原動機付自転車運転者講習制度を受けることになる前に、しっかりと交通ルールやモラルを身に着けたうえで安全に利用したい。
■電動キックボードに関連する事故状況
改正法施行後3カ月で39件の事故発生
電動キックボードに関連する交通事故件数・死傷者数は、2020年が事故4件で負傷者5人、2021年が同29人で30人、2022年が同41件で41人、2023年1月同2件で2人となっている。2022年には死亡事故(死者1人)も発生している。
上記は、電動キックボードが第1当事者または第2当事者となった人身事故のうち警察庁に報告のあった件数を集計したものだ。
相手当事者別では、四輪が31件と最も多く、単独事故20件、自転車14件、歩行者8件、二輪3件と続く。
都道府県別では、東京が51件で全体の3分の2を占め、大阪6件、神奈川5件、その他14件となっている。実証などが盛んな大都市に集中したようだ。
改正法施行後は、2023年7月が事故7件で負傷者7人、8月が同10件で10人、9月が同21件で22人となっている。この3カ月間で2022年の41件に迫る勢いで、増加傾向にあることは間違いない。
相手当事者別では、単独事故16件、歩行者11件、四輪9件、自転車2件となっている。都道府県別では、東京31件、大阪7件とやはり大都市に集中している。
JAFが衝突実験を実施
一般社団法人日本自動車連盟(JAF)は2023年5月、電動キックボードの衝突実験を実施した。
電動キックボードがまちなかで遭遇し得る交通場面を再現し、走行速度やヘルメットの有無によって衝突・転倒時の危険度がどのように変化するのか検証したものだ。
電動キックボードにダミー人形を乗せ、時速6キロ・20キロの一定速度で「縁石」「歩行者」「自転車」「自動車」に衝突させた。その際の頭部損傷を示す値(HIC値)をそれぞれ計測し、けがのリスクを検証した。
時速20キロで高さ10センチの縁石に衝突して転倒した際、ヘルメット着用時のHIC値1231.8に対し、未着用時は7766.2と6倍以上の差が出た。
また、歩行者や自転車に時速20キロで衝突した際は、歩行者の衝突時(一次衝突)のHIC値は73.7と低いものの、転倒時(二次衝突)のHIC値は6957.8と危険な数値を示した。時速6キロでの衝突でも、一時衝突9.9、二次衝突4351.8と高い数値を示している。
自転車の場合は時速20キロで一時衝突5.4、二次衝突508.9、時速6キロでは一時衝突0.0、二次衝突102.5となっている。
HIC値が1000を超えると脳損傷の可能性があり、HIC値3000を超えると非常に高い確率で重篤な傷害が発生するという。ヘルメットは努力義務となっているが、安全性を考慮して「努力」すべきであることは言うまでもなさそうだ。
また、歩行者の被害も深刻だ。衝突により、身構えることなく引き倒された際のダメージは思いのほか大きい。歩道における過速度走行や歩行者を優先しない自分勝手な走行は厳禁だ。
衝突実験の様子は動画で公開されているので、一度目にしてもらいたい。
■事故の事例
飲酒乗車で車止めに衝突 国内初の死亡事故に
東京都中央区で2022年9月、電動キックボードによる事故で国内初とされる死亡事故が発生した。50代の男性がマンション駐車場で電動キックボードを運転した際、車止めに衝突して転倒し、頭を強く打って死亡した。
男性は当時飲酒しており、ヘルメットも着用していなかった。電動キックボードはシェアサービスのもので、特例でヘルメット着用は任意となっていた。
酒気帯び大学生が追突
東京都豊島区で2023年7月、10代の大学生が運転するレンタル電動キックボードがタクシーに追突する事故が発生した。工事のため停車していたタクシーに突っ込んだようだ。
110番通報で駆けつけた警察官が呼気検査を行ったところ、大学生から基準値を超えるアルコールが検出されたという。
大阪でも飲酒事故
大阪市西区でも2023年7月、電動キックボードとトラックが交差点で出合い頭に衝突する事故が発生した。
電動キックボードを運転していた30代男性からは基準値を超えるアルコールが検出されており、また電動キックボード側に一時停止の道路標示があったという。
歩道走行時のひき逃げ事件も発生
2023年9月には、東京都豊島区でひき逃げ事件も発生している。20代の女性が運転するレンタル電動キックボードが歩道の60代女性と衝突し、女性はそのまま逃走した。60代女性はろっ骨骨折などの重傷を負った。
20代女性は現場近くにいた警察官に確保され、自動車運転死傷処罰法違反と道路交通法違反の疑いで逮捕されたようだ。当時、電動キックボードは歩道上で時速6キロを上回る速度で走行していたという。女性は一部容疑を否認しているほか、歩道走行ルールを理解していなかったことなどを供述している。
港区では飲酒人身事故発生
東京都港区で2023年10月、20代の大学生が運転する電動キックボードと70代の歩行者が交差点で衝突する事故が発生した。歩行者は足の骨を折る重傷という。
調べによると、大学生は運転前に酒を飲んでいたと話しており、交差点に赤信号で進入したという。
愛知県でも単独事故
愛知県名古屋市では、電動キックボードを借りたばかりの20代大学生が操作を誤り、貸出ポートから道路を挟んだ向かい側の住宅の門に衝突する事故が発生したようだ。けがはなかったという。
ブレーキと同時にアクセルを操作してしまったことが要因と見られる。
■電動キックボードで保険加入は必須?
公道を走行することができる電動キックボードである「特定小型原動機付自転車」においては、自賠責保険の加入が義務付けられている。ちなみに、ナンバープレートの取り付けも義務付けられているが、ヘルメットの着用は努力義務だ。
自賠責保険に加入せずに走行した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性がある。自賠責保険の保険料は原動機付自転車(125cc以下)と同じ金額となっており、12カ月で6,910円だ。
ちなみに自動車と同様、自賠責保険のほかに「任意保険」に入ることも可能だ。現在はまだ電動キックボード用の任意保険は少なく、原付バイク用の保険を利用する方法もある。
【参考】関連記事としては「電動キックボード、保険加入は義務?必須?(2023年最新版)」も参照。
■【まとめ】「電動キックボードは危険」と断ずるのは早計?
飲酒関連の事故をはじめ、続々と人身事故が発生し始めている印象だ。ただ、毎日数千~数万人が利用しているだろうことを踏まえると、当然だが大半の利用者はしっかりと交通ルールを順守し、安全に走行しているものと思われる。
母数が不明なため比較はできないが、自転車でもたびたび同様の事故が発生していることを考慮すれば、現段階で「電動キックボードは危険。廃止すべき」などとふたを閉じるのは早計に感じる。
タイヤ外径が小さいため段差でつまずく危険性は常に内在するが、ルールを守って正しく走行すれば利便性あふれるモビリティであることも間違いのない事実だ。
一にも二にもまずは走行ルールの周知徹底を図り、ルールを遵守した場合には安全で快適な移動手段と広く認知されることを願いたい。
(初稿公開日:2023年11月20日/最終更新日:2023年12月15日)
【参考】関連記事としては「電動キックボードに免許は必要?公道走行は可能?法律最新情報」も参照。