福岡県福岡市はこのほど、無人バスの自動運転レベルに関して「妥協型レベル4」とも呼べそうな案を提案した。「国家戦略特別区域会議」の第35回福岡市・北九州市合同区域会議において新規提案されたものだ。
0〜5の6段階で示される自動運転レベルの「レベル4」は本来、一定条件下において自動運転システムが全ての運転操作を行うという段階であり、ODD(運行設計領域)内で作動継続が困難となった際も人間が介入しない前提の技術水準だ。
しかし、福岡市は「自動運転バス(レベル4)においては、 乗務員も緊急車両対応(停車判断)できることとする」という内容になっている。つまりレベル4においても、救急車などが近づいた際には技術水準に関して妥協し、人間の介入を良しとする内容だ。
■運行要件の妥協を提案する背景
詳細を説明していこう。福岡市は新規提案「自動運転バスの運行要件の緩和」で、バスルートなどをシステムのみで自律走行するレベル4の自動運転バスについて、緊急車両の接近に柔軟に対応するため許可要件の緩和を提案している。
▼自動運転バスの運行要件の緩和
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/231011goudoukuikikaigi/shiryou4.pdf
現行では、救急車やパトカーなどの救急車両が接近した場合、システムが自動停車を行うことが要件となっている。しかし道路や交通の状況によっては、むしろ緊急車両の妨げになるといった課題があるという。
具体的な状況として、交差点付近では、交差点を通過した先で停車したり、狭い道路では広くなった空きスペースまで進んで停車したりすることなどが必要になる。また中央分離帯がある道路や立体交差で停車すると、追突事故の危険も発生する。
そこで自動運転バスの実装をよりスムーズに推進するため、今回の提案がなされた。
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?(2023年最新版)」も参照。
■福岡市長が「相当現実的な話」と提案
国家戦略特区の公式サイトで公開されている議事要旨での、福岡市長の高島宗一郎氏による説明を紹介する。
同氏は、「バスルートなどでの完全自律走行、いわゆるレベル4の運行許可のためには、救急車などが接近した際にシステムが自動で停車をすることを要件とされているのですが、現実問題は、例えば交差点の付近ですとか狭い道路などで停車してしまうと、逆に緊急車両の妨げになるおそれがありまして、このことがレベル4運行実現の障壁になっているという面があるのです。そこで、レベル4の運行中に緊急車両が接近する際は、乗務員がその停車の判断を行って操作できるように提案をいたします。これは相当現実的な話です」と語っている。
この提案について会議に有識者として出席した弁護士の落合孝文氏らからは、非常に重要で、提案全体で最も素晴らしい内容だとの意見があった。また落合氏は「改めて自動走行については、前回も免許に関する部分も着目して提案していただいており、また、今回は走行における具体的な課題も分析していただいたということで、本当に社会実装をさせようという強い意欲が見える一連の御提案だと思いました」とも評価している。
▼東京圏(第42回)・福岡市・北九州市(第35回)国家戦略特別区域会議 合同会議 議事要旨
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/231011goudoukuikikaigi/gijiyousi.pdf
■妥協型レベル4の提案は実現するのか
厳密に言えば、そもそもバスに乗務員が乗車している時点で、レベル4自動運転バスと呼べないのではないかという声も出てきそうだが、運転に関与する目的ではない係員に停車判断を担わせるという体裁であれば、今回の提案内容における整合性はある程度とれると感じる。
福岡市の妥協型レベル4の提案は実現するのか。いずれにしても、今回提案された案については、今後、申請の手続きを進めていくようだ。行方を追っていきたい。
【参考】関連記事としては「自動運転、レベル4とレベル5の違いは?実用化の状況は?(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)