スマートモビリティチャレンジの2023年度の事業公募が始まった。5年目を迎える新年度は、どのような体制で進展を図っていくのだろうか。
これに先立ち、経済産業省は2022年度のスマートモビリティチャレンジ事業の成果と今後の取り組みの方向性を取りまとめた。同省所管の「地域新MaaS創出推進事業」における成果や課題を分析した資料が公表されている。
新たなモビリティサービスの社会実装に向け、2022年度はどのような取り組みが行われたのか。また、新年度はどのような事業に注力していくのか。その動向に迫っていく。
▼令和4年度「スマートモビリティチャレンジ」事業の成果と今後の取組の方向性について
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/20230331_report.html
記事の目次
■地域新MaaS創出推進事業における取り組み
2022年度は11地域が採択
スマートモビリティチャレンジのうち、経産省が所管する2022年度(令和4年度)の「地域新MaaS創出推進事業」には、11地域が選定された。
2022年度の当初方針では、以下の5テーマを軸にMaaS実証を実施することとしている。
- ①他の移動との重ね掛けによる効率化
- ②モビリティでのサービス提供
- ③需要側の変容を促す仕掛け
- ④異業種との連携による収益活用・付加価値創出
- ⑤モビリティ関連データの取得、交通・都市政策との連携
また、事業化に向けて「事業面」「体制面」「受容・効果面」のそれぞれで共通課題となっている事項について、横断的・定量的に政策効果を評価・分析することに重点を置くとしている。
【参考】地域新MaaS創出推進事業については「自動運転、我が街でも!国のMaaS実証事業、「先進地域」決まる」も参照。
検討不足などを背景に住民とのマッチングに課題
全体としては、北海道江差町の収益還元モデルの具体化や鳥取県大山山麓エリアの広域周遊交通の体制整備などが成果として挙げられる一方、複数の地域で実証計画の検討不足から利用者が低迷し、検証精度にも影響したという。
複数モビリティの掛け合わせでは、MaaSアプリと連携したAIオンデマンド交通を運行した愛知県名古屋市で、地元交通事業者との調整の中で運行区域・時間等の制約が生じたため利用者ニーズとの乖離が大きくなり、結果として利用が伸び悩んだという。
奈良県川西町は、タクシーやパーソナルモビリティも含めた高齢者向けモビリティの最適化手法を検証し、予約型乗合タクシーと電動車いすの導入、コミュニティバスのスリム化によって現行予算と同額で利便性向上を図る取り組みを行った。
しかし、ラストマイルを担う移動手段としての電動車いすの位置づけの検証が不足していたため、バス停やタクシー乗降場へのアクセスが引き続き課題になったとしている。
異業種との連携においては、北海道江差町が商業売上の一部をデマンドバスの運行費用に充当する収益還元モデルの事業モデルを具体化したが、高齢者の利用を促すための伝え方や無償での体験機会が不十分など、コミュニケーション不足により利用が伸び悩んだという。
自動運転車両を活用した複数サービス提供による収益・財源多角化について検証を進めた愛媛県伊予市は、デジタル健康管理サービス(HELPO)と自動運転移動サービスを連携させる取り組みを実施し、地域の受容性向上は確認されたものの、両サービスのターゲットが乖離していたため、相乗効果による収益性向上は確認できなかったとしている。
また、徒歩・自転車・自動車・公共交通全ての移動データを用いて公共交通リソースの最適化に取り組んだ福島県浪江町は、移動に対しポイントを付与することによる行動変容・データ提供の可能性を確認したが、交通事業者や商業施設に対する有償データの提供は大きなニーズが確認できず、事業性の確保が見通せないという。
選定された各自治体が課題解決に向けさまざまな取り組みを進め、一定の成果を得た部分もある一方、新たな課題が浮き彫りになった形だ。
3つの課題に直面
スマートモビリティチャレンジ事務局は以下を課題に挙げている。
- ①取りうるサービスメニューが数多く、自地域にとってどのようなサービスが適切か判断するのが難しい点
- ②新たなモビリティサービスを導入すべきかどうかについて合理的判断が難しい点
- ③地域課題解決に資するサービスを計画しても実際の利用量が想定の基準に届かない点
整理シートで必要なモビリティサービスを導出
事務局は、①「取りうるサービスメニューが数多く、自地域にとってどういったサービスが適切か判断するのが難しい点」の対策として、モビリティサービスありきの検討とならないよう「地域課題」に立ち返り、交通に真に求められる役割を整理して必要なモビリティサービスを導出する手法論を整備した。
以下の4ステップを踏み、有望なモビリティサービスや先進技術を導出していく流れだ。
- ①地域課題の整理
- ②交通課題としての捉え直し
- ③モビリティサービスの整理
- ④導入課題の整理
また、問題整理に向け、「移動の実態」整理シートや「移動の問題」整理シート、「背景にある地域課題」整理シート、「モビリティサービス改善の要件」シートなどを用意した。
問題点を移動パターンごとに整理した上で優先順位の高い点を特定し、地域課題や既存交通、地域特有の条件から必要なモビリティの要件を洗い出していくこととしている。
住民の納得度や効用を高められそうなアピールポイントを探る
②「新たなモビリティサービスを導入すべきかどうかについて合理的判断が難しい点」については、自地域にMaaSをはじめとした新しいモビリティサービスを導入したいと思える魅力的なサービス効果を明らかにするため、採択11地域で想定しているサービス効果の項目の具体的指標とその上位・下位概念をヒアリングしたほか、採択地域近隣のMaaS未導入の28地域でも導入したいと思える指標についてヒアリングを行った。
多くの地域で魅力的と思える効果指標(=地域活性化の共通指標)と、地域分類別の魅力ある指標を明確にすることで、住民の納得度や効用を高められそうなアピールポイントを探り、ロジックモデルとして整理していくイメージだ。
③「地域課題解決に資するサービスを計画しても実際の利用量が想定の基準に届かない点」に関しては、2つの地域でモビリティサービスを地域に適したものとするための道筋や、利用者の受容性向上のための道筋を検討したほか、他地域への展開も見据え、モビリティサービス高度化のプロセスを一般化したという。
【参考】スマートモビリティチャレンジについては「スマートモビリティ、ズバリ「成功のコツ」は?知見集を深読み」も参照。
■2023年度の取り組みの方向性
2023年度は公募テーマを大括りに採択件数減らす
スマートモビリティチャレンジにおけるこれまでの4年間の取り組みでは、モビリティサービスやモビリティプレイヤーの掘り起こしを図るとともに、サービス類型ごとに公募テーマを細分化して事業を実施してきた。
さまざまな事例や知見の蓄積が進んだ一方、事業を通じて社会実装への道筋を確立していくためにはこれまでの取り組みでは不十分であり、今後は、採択件数を減らしながら各案件について成果・課題検証の強度を上げていくことが必要としている。
こうした観点から、2023年度は交通を入り口とした地域リソースの全体最適化に向けたアプローチの違いに基づき、公募テーマを大括りにして採択件数を減らすとともに、各テーマごとに幅広いフェーズの事業を採択することとしている。
2022年度は、前述した地域新MaaS創出推進事業における5テーマと、「地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業」における移動サービス間のデータ・システム連携、異業種間のデータ・システム連携、地域データ基盤の構築・活用の3テーマの計8テーマが用意されていたが、2023年度は以下の括りで事業を展開していく方針だ。
- ①移動サービスの最適化
- ②移動サービスと異業種・移動先の連携
- ③地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用
①または②に取り組み、地域課題に対して計画的かつ意欲的に挑戦する地域を「先進パイロット地域」とする。また、③に取り組み、データを活用した付加価値創出などを通じて地域内の移動リソースの全体最適・調和を目指す事業者を「MaaSコーディネーター」とする。
すでに公募は始まっている(2023年4月5日~5月10日まで)。
▼公募概要
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2023/k230405001.html
■【まとめ】横展開に適した事例の創出に期待
地域新MaaS創出推進事業などでは、これまでの4年間で延べ60以上の地域・事業者が選定され、さまざまな取り組みを進めてきた。そろそろ横展開に適した成功事例が出てきても良い頃だ。
2023年度はどのような成果が生まれるのか、各地の取り組みに期待したい。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「2021年度のスマートモビリティチャレンジ、得られた知見は?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)