環境問題が強く叫ばれる中、グリーンスローモビリティへの注目が高まっている。ラストマイルや観光地の移動など、さまざまな場面に導入可能な環境負荷の低い新たなモビリティだ。
グリーンスローモビリティとはどのようなものなのか。2023年時点の情報をもとに概要を解説していく。
<記事の更新情報>
・2023年7月17日:「低速走行マーク」についての説明を追加
・2022年10月21日:記事初稿を公開
記事の目次
■グリーンスローモビリティの概要
時速20キロ未満の小柄なEV(電気自動車)移動サービス
国土交通省によると、グリーンスローモビリティは「時速20キロ未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービス」と定義されている。基本的には、1人乗りのパーソナルモビリティではなく、4人乗り以上のパブリックモビリティを指すようだ。
▼グリーンスローモビリティ|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000139.html
特徴として、「CO2排出量が少ない電気自動車(グリーン)」、「ゆっくりで観光にピッタリ(スロー)」、「速度制限があり安全で、高齢者も運転できる(セーフティ)」、「小型で狭い道も問題なく走行できる(スモール)」、「窓がなく開放感があり、乗って楽しい(オープン)」などが挙げられている。
カーボンニュートラルや低炭素社会を実現し、経済と環境の好循環を生み出す新たなモビリティとして期待されており、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」のもと国土交通省や環境省が普及を促進している。
電力を動力とするEVは、充電される電気に再生可能エネルギーが活用されていればCO2フリーのモビリティとなり、環境負荷は大きく低減される。ゼロエミッションの実現だ。
また、低速で小さな車体は安全性が高く、狭い道路などでも柔軟に運行することができる。長距離運行には向かないが、込み入った市街地や商店街、観光地など活用の幅は広い。
「低速走行マーク」を作成
国土交通省は2023年5月、「グリーンスローモビリティ低速走行マーク」についてお知らせを出している。そのマークは以下の通りだ。
マークは、グリーンスローモビリティの安全運行や更なる普及促進を目的としており、令和3年度の「グリーンスローモビリティの活用検討に向けた実証調査支援事業」において作成したものだという。
ヤマハ発動機やシンクトゥギャザーなどが開発に注力
最高時速20キロ未満の車両は、道路運送車両法の保安基準による規制の一部が緩和され、窓ガラスなしの公道走行や、シートベルトなどの装着免除を受けることも可能という。
車体は軽自動車規格から小型自動車、普通自動車までさまざまだが、グリーンスローモビリティと一般の自動車を比較すると、乗車定員が同じでもサイズが小さなモデルが多いという。
グリーンスローモビリティの開発・製作を手掛ける代表企業としては、ヤマハ発動機やシンクトゥギャザーが挙げられる。
ヤマハ発動機は、ゴルフカーをはじめとしたランドカーをベースに公道走行を可能にしたモデルの開発・導入を進めている。2014年に石川県輪島市の輪島商工会議所から要望を受け、既存のゴルフカートを保安基準に適合するよう改良して軽自動車ナンバーを取得したのを皮切りに、これまでに50カ所以上で公道実証や導入への協力を行っている。
モデルは、車幅が狭く取り回しやすい4人乗りの「AR-04」や低床フロアでスムーズに乗り降り可能な7人乗りモデル「AR-07」などをラインアップしている。
一方、2007年設立のシンクトゥギャザーも早くから低速EVの開発を手掛けており、2人乗りのプライベートビークル「eCOM-mini」をはじめ、軽自動車より一回り大きいサイズで7人が乗車可能な電動ミニバス「eCOM-4」、10人乗りを実現した「eCOM-8^2」などさまざまなモデルを実用化している。
国内119カ所で走行実績あり
国土交通省によると、グリーンスローモビリティは2022年3月末時点で、計119カ所で走行実績があり、このうち29カ所で継続的な運行が認められるという。
運行形態は、定路線バスやシャトルをはじめ、デマンドバスや定路線型タクシー、レンタカー、自家用有償旅客運送などさまざまだ。
■自動運転とグリーンスローモビリティ
自動運転との相性も良し
グリーンスローモビリティは、自動運転と相性が良い。自動運転では何よりも安全性が重視されるが、技術が完熟していない実装初期においては、自動運転システムに依存せず低速走行や歩車分離などで安全性を高めることも肝要だ。導入しやすい環境で経験を積み重ね、技術を高めていくことができる。
また、コンピューターが車両の全てを制御する自動運転においては、電子制御可能なモーター駆動のほうが好相性で、タイムラグも小さい。
低速走行かつEV化が必須とされるグリーンスローモビリティは、こうした条件を満たしているのだ。
実際、福井県永平寺町などで導入されているレベル3の自動運転モビリティはグリーンスローモビリティだ。道の駅を拠点とした自動運転サービス実装事業においても、多くでグリーンスローモビリティが活用されている。茨城県境町で導入されている「NAVYA ARMA」も、時速20キロ未満に抑えることでグリーンスローモビリティとなる。
自動運転の初期実装が本格化する今後、グリーンスローモビリティが活躍する場面はいっそう増えそうだ。
【参考】永平寺町の取り組みについては「誘導線を使う自動運転レベル3で移動サービス!福井県永平寺町でスタート」も参照。
■【まとめ】導入する動きは今後も続く可能性大
グリーンスローモビリティは、導入に掛かるコストなどの負担も小さいのがポイントだ。少人数の移動需要を柔軟に満たすことができ、かつ将来的な自動運転化も見通せるため、導入する動きは今後も続きそうだ。
EV開発ベンチャーなど、開発サイドの新規参入にも注目したい。
(初稿公開日:2022年10月21日/最終更新日:2023年7月17日)
【参考】関連記事としては「モビリティとは?意味や定義は?」も参照。
■関連FAQ
時速20キロ未満で公道走行可能な電動車を活用した小さな移動サービスを指す。
環境負荷が小さく、低炭素社会実現に向けたモビリティとして注目を集めているため。低速走行による安全性や取り回しの良さもポイントとなっている。
国土交通省によると、2022年3月末時点で計119カ所で走行実績があり、このうち29カ所で継続的に運行されている。
ヤマハ発動機やシンクトゥギャザーなどが代表的だ。今後、新規参入の動きが出る可能性も高そうだ。
低速かつ小型なEVは安全性を担保しやすく、初期の自動運転サービスにうってつけのモビリティの1つだ。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)