東京都は2022年度、空飛ぶクルマ実用化に向けたプロジェクトに着手する。「東京ベイeSGプロジェクト」の一環で、世界最先端のテクノロジー都市を目指す構えだ。先行実施エリアは埋立地を予定している。
埋立地は開発余力が大きく、空飛ぶクルマをはじめとする交通イノベーションの実証エリアとして最適地と言えそうだ。この記事では、空飛ぶクルマ実用化に向けた東京都の取り組みに迫る。
▼空飛ぶクルマの社会実装に向けた東京都の取組
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/pdf/04_tokyo.pdf
記事の目次
■中央防波堤埋立地エリアで先行プロジェクトに着手
東京都は2022年度、ベイエリアを舞台に50年・100年先まで見据えたまちづくりを構想するプロジェクト「東京ベイeSGプロジェクト」における先行プロジェクトとして、以下の3つのテーマから事業を公募する。
- ①次世代モビリティ
- ②最先端再生可能エネルギー
- ③環境改善・資源循環
このうち①では、ゼロエミッションの実現や持続可能な都市・交通ネットワークの充実を目標に、交通渋滞の解消や温室効果ガス排出の削減、移動の効率化などに向けたプロジェクトを募集する。具体例として、空飛ぶクルマやマイクロモビリティ、燃料電池船などが挙げられている。
事業実施エリアはお台場沖合に造成された中央防波堤埋立地で、海の森水上競技場(陸上部)や海の森公園東側船着場、新海面処分場埋立地Aブロックが事業エリアに指定されている。8~9月ごろに応募受付・選定を行う予定で、事業期間は2022年度末で区切られるが、最長3年(~2025年3月末)まで延長申請することができる。
応募要件は、都内で空飛ぶクルマを活用したビジネスの社会実装を目標とするプロジェクトで、複数の事業者が連携して実施すること(コンソーシアム)、国や他自治体からの委託や助成を受けていないプロジェクトであることなどを予定している。
■2024年度に空飛ぶクルマのビジネス実証を実施
都は2021年度、都内における空飛ぶクルマの社会実装の可能性を探るため、各国の制度整備の動向や国内外の自治体の取り組み、都内における実装にあたっての課題に関する基礎調査などを実施した。
この結果を踏まえたものが上記の先行プロジェクトで、想定スケジュールとしては2022年度に空飛ぶクルマの需要調査や飛行ルートの検討などを行い、2023年度にヘリコプターを活用したビジネス実証を行う。そして2024年度、国による機体認証が前提となるが、実際に空飛ぶクルマを活用したビジネス実証に着手する方針だ。
■過去にはSkyDriveが事業採択
東京都はこれまでも、先端テクノロジーの社会実装に向け自動運転やドローン、ロボットなどの各分野の開発や普及に向けた取り組みを進めてきたが、ここに空飛ぶクルマをはじめとするエアモビリティを加え、都心部や臨海部、島しょ部、西多摩地域など多様なフィールドで課題解決を図っていく方針を掲げている。
2018年度の「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」では、空飛ぶクルマの開発を手掛けるSkyDriveが採択され、日本電気(NEC)とともにeVTOL(電動垂直離着陸機)の製造・開発に加え、有人機の試験飛行を通じて航空機としての機体認証に耐え得る安全性・信頼性の向上に取り組んできた。
同事業は2021年度までの達成目標に重大事故などの確率低減や検出した不具合をリアルタイムで操縦者に伝達するインタフェースの実装を掲げており、着々と成果を上げているようだ。2021年10月には、SkyDriveの空飛ぶクルマの型式証明申請が国土交通省に受理され、型式証明活動を開始したことが発表されている。
【参考】SkyDriveの取り組みについては「「空飛ぶクルマ」の型式証明、申請・審査の流れは?SkyDriveが申請第1号に」も参照。
https://twitter.com/jidountenlab/status/1456833723257683972
■交通イノベーションと相性の良い埋立地
自動運転や空飛ぶクルマといった最先端テクノロジーの社会実装には、さまざまなケースを想定した実証とともにインフラ開発なども必要不可欠となる場合が多い。
特に自動運転や空飛ぶクルマは、既存の交通ルールや交通インフラ、交通概念に捉われない発想が重要となる。既存の交通体系・規制の中で実装を図りつつも、将来の交通イノベーションに向け一から交通体系を作り直す発想・戦略が必要となるのだ。
こうした既存の枠組みに捉われない実証フィールドとして、開発余力のある埋立地は最適解の1つとなる。既存のルールを踏襲しつつもリデザインした都市構造のもと新たな交通インフラを交えた研究開発を行いやすく、また安全性も確保しやすい。
空飛ぶクルマ実現において当面の目標に設定されている大阪・関西万博の会場「夢洲」も埋立地だ。会場造成に伴う大規模開発の余地が決め手と言えるが、こうした開発に合わせて新たな交通インフラなども敷設しやすく、その過程で実証も行いやすい。
空飛ぶクルマの実用化は臨海部や山間部など安全を確保しやすいエリアから始まる見込みだが、その中でも埋立地は実証・実装面で優位な条件が揃っているのだ。
■【まとめ】イノベーションの一翼を担う空飛ぶクルマ 今後の構想に注目
ベイエリアの埋立地が、東京のイノベーション発信拠点として今後どのような価値を創出していくのか、目が離せない状況が続きそうだ。
また、イノベーションの一翼を担う空飛ぶクルマ関連事業において、どういった企業がコンソーシアムを形成し、どのような構想を持ち出してくるか要注目だ。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?実現時期や技術的要件は?(2022年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)