人の移動や物流において、各家庭など最終地点までを網羅する「ラストワンマイル」。人の移動においては交通事業者の採算面などが課題となり、物流においては需要増に運送事業者が追いつかないなど、それぞれ課題を抱えている。
この課題解決に向けた一つの答えは「各業者間の横の連携強化」で、物流分野では2018年に首都圏の中小事業者が「ラストワンマイル協同組合」を設立するなど取り組みが進んでいる。
同協同組合をはじめ、業界ではどのような協業が進んでいるのか。取り組み事例を調べてみた。
記事の目次
■「ラストワンマイル共同組合」について
ラストワンマイル協同組合(所在地:東京都府中市/理事長:志村直純)は、拡大を続けるネット通販市場に関連した宅配便取扱数増加や配送ドライバー不足を原因とした業界全体の運賃引き上げ、総量規制などの荷主の課題解決に向け、首都圏の1都3県の運送業者23社が2018年4月に立ち上げた組合だ。
これまで配送業者がワンストップで担っていた工程を荷主と分担することで低運賃を実現し、宅配大手のバイパスライン(副経路)としての役割を担うこととしている。
具体的には、ラストワンマイルにおいてこれまで配送業者が担っていた受付から集荷、仕分、横持ち(運搬)、仕分、配送までの作業を荷主と分担し、その範囲に応じて価格が変動する体系を構築した。持込先と仕分の組み合わせによって4つの割引プランを用意しており、例えば、荷主が営業所別に仕分けをし、各営業所に持ち込むことによって低運賃でサービスを受けることが可能になる。
付加サービスは、集荷電話受付や時間帯サービス、クール便など内容を絞って提供することで効率を高める。また、小口配送業務の共同受注や車両用燃料の共同購入、組合事業に関する知識の普及を図るための教育や情報の提供なども行うこととしている。
サービス開始時は東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県で1日当たりの配送貨物量3万個でスタートし、1年後に5万個、3年後に15万個を目指し拡大していく方針を示していた。現在は上記1都3県のほか、茨城県と栃木県も配送可能エリアとなっているようだ。なお、設立時の参加企業は下記の通り。
アトムロジスティクス株式会社
株式会社地区宅便
デリバリーサービス株式会社
圏央運輸商事株式会社
株式会社日本軽貨物輸送連合会
株式会社H&R
株式会社クイックス
クオリティーサービス株式会社
株式会社プラウド
日本エリアデリバリー株式会社
株式会社AIコンツェルン
株式会社トータルサポート
株式会社プレンティー
株式会社翔和サービス
株式会社ワークステーション
プロキャリーサービス株式会社
株式会社ライフポーター
安房運輸株式会社
株式会社千葉通商
株式会社ドリームネット
株式会社ティーアンドティー
エース株式会社
株式会社WORKS。
■日本におけるラストワンマイル系の協業
物流大手共同出資による事業会社「コラボデリバリー」:館内物流効率化で協業体制
コラボデリバリー株式会社(本社:東京都中央区/代表取締役:有冨慶二)は2006年、日本通運やヤマトホールディングスなど東京路線トラック協議会(現全国物流ネットワーク協会)に加盟する運送会社が共同出資して設立した共同配送事業会社。有冨氏はヤマトホールディングスの前会長だ。
高層ビルなどにおける「館内物流」の効率化を図る事業、各輸送事業者からの共同荷受けや発送代行などを行う快適まちづくり事業、必要な時に必要な台数のトラックを調達し臨時的な輸送に応える輸送ソリューション斡旋事業を手掛ける。
2018年6月には、同社と西濃運輸が連携して実施するオフィスビル館内における宅配便などの集配業務の共同化事業が、流通業務の総合化・効率化を促進する「物流総合効率化法」に基づく「総合効率化計画」として認定された。
ネスレ日本と佐川急便 宅配マッチングプラットフォームサービス開始
ネスレ日本株式会社と佐川急便株式会社は、急速に成長するEコマース市場を背景とした人手不足や環境についての問題解決を目指し、環境にやさしい新たな宅配サービス「MACHI ECO便」を2018年10月に開始した。
同便では、地域の協力のもと「ECO HUB(エコハブ)」と呼ばれるロッカータイプのストックポイントを設置し、サービス利用者はECO HUBに商品を取りに行くか、ECO HUBから商品を配達してもらうかを選択する。商品を取りに行った場合は割引サービスを受けることができるほか、ECO HUB設置者には手数料が還元される。
ECO HUB設置場所は2019年3月時点で東京都と神奈川県、埼玉県、大阪府の計22カ所で、取扱商品はネスレとP&G、FANCLの製品となっている。今後、参加企業やECO HUB設置協力者など募りサービスを拡充していく方針だ。
ラクスルとヤマト:オープン型の物流プラットフォーム構築目指す
ラクスル株式会社とヤマトホールディングス株式会社は2017年7月、デジタルテクノロジーを活用して企業間物流の構造変革実現を目指すため、資本提携を行うことを発表している。
ラクスルは中小運送事業者とトラックの非稼働時間と荷主企業の物流ニーズをマッチングする「ハコベル」を2015年12月から開始している。同社はヤマトと提携することで、荷主・納品先企業と物流事業者の双方が抱える課題を同時解決できるオープン型物流プラットフォームを構築し、さまざまな業界の企業間物流の構造変革の実現を目指すこととしている。
ヤマトや佐川などが貨客混載の取り組み
物流におけるラストワンマイルの取り組みとして注目されているのが貨客混載だ。通常は一般客を乗せるバスやタクシーを有効活用し、客の不搭乗時や回送時など、空きスペースとなった車内に荷物を搭載してターミナル配送や戸別配送などを行う仕組み。
ヤマト運輸は北海道の十勝バスや岩手県北自動車、兵庫県の全但バス、宮崎県の宮崎交通などと各地域で貨客混載に取り組んでいるほか、佐川急便は北海道のHEYタクシー、日本郵便はJR四国バスとそれぞれ取り組むなど、地方を中心に協業事例は増加傾向にあるようだ。
■【まとめ】横の連携広がるラストワンマイル 物流版MaaSにも注目
物流分野では大手・中小運送事業者の横のつながりによる協業をはじめ、トラックを効率的に運行させるプラットフォームづくりや貨客混載の取り組みなどが広がっているようだ。
一方、人の移動サービスにおいては、パーソナルモビリティの開発を含め交通事業者が連携したMaaSの取り組みが目立つ。国の事業の一環で道の駅などを活用したラストワンマイルの取り組みも引き続き行われており、自動運転技術とともに実用化が進んでいく見込みだ。
MaaSは現在人の移動に主軸を置いた取り組みが中心だが、今後は物流版MaaSと言うべき取り組みにも注目していきたい。
【参考】ラストワンマイルについては「ラストワンマイルとは? 課題解決に向け自動運転技術など活用」も参照。