空中における移住な移動を可能にする空飛ぶクルマ。この近未来の技術はすでに実証段階に達しており、数年後には世界各地でさまざまなサービスが誕生する見込みだ。
ハードルは高いが、空飛ぶクルマの技術が安全面とともに確立され、実用化が進んだ世界ではどのような生活が可能になるのか。
今回は、空飛ぶクルマ実現による変化や新たなライフハック術、新たに誕生する空のサービスなどについて考えてみよう。
記事の目次
■渋滞知らずの時短移動が可能に
地上に比べ、飛行ルートが無数にある空飛ぶクルマは渋滞知らずだ。目的地へ特に迂回することもなく直線的なルートをたどることもでき、相当な時短を図ることができそうだ。
時短メリットを最大限に生かすことができる条件は、やはり都市部における短中距離の移動だろう。渋滞が慢性化している地域や、電車などの頻繁な乗り換えを要する地域間の移動にもってこいだ。
高層ビルが立ち並ぶエリアでは、屋上から屋上への移動がスタンダードになる可能性もある。各ビルが移動拠点となるため、積極的に拠点化を進めることで集客を図る商業ビルなども登場するかもしれない。
■川や線路、山越えも可能に
自動車では橋やアンダーパスがないと越えられない川や線路も、空飛ぶクルマであれば場所を選ばず超えることが可能になる。また、ワインディングロードの峠道や未舗装の道路を登らなければならない山なども、直線でまっすぐ上ることもできる。
そのうち、クレーンゲームのように一般車両を持ち上げて川を渡るなど、従来の車両移動に特化した空飛ぶクルマも登場するかもしれない。
■離島ブームが到来
本土から比較的近い場所にある離島であれば、空飛ぶクルマで海を渡ることもできる。フェリーに比べ手軽な移動が可能となり、離島がより身近なものになる。
離島を生活の拠点としている島民の移動はもとより、観光客の受け入れなども容易となるため、離島ならではの観光資源を生かした地域活性化をはじめ、新しいライフスタイルなども生まれそうだ。
また、交通機関が限定されがちな離島は、MaaS(Mobility as a Service)を構築しやすいという利点もある。島内MaaSの移動手段に空飛ぶクルマが加わり、本土と結びつくことで、移動の快適性がさらに向上することにも期待できるだろう。
【参考】離島におけるMaaSについては「「完全なるMaaS」が石垣島で実現しやすいわけ 鍵は「統合」」も参照。
■屋上から出勤する
将来、空飛ぶクルマがぐっと身近なものになり、一家に一台レベルまで普及すれば、生活はどのように変わるのか。
マンションや戸建て住宅の屋上は軒並み駐車場となり、屋上から出勤など外に出向くスタイルが浸透する。住宅の構造も変化し、家の中から気軽に屋上に上がることができる新たな動線が出来上がるだろう。
■ビルの窓から荷物を受け取る
空飛ぶクルマの実用化は、荷物などを運ぶ物流分野から始まる可能性が高い。当面は山間部や河川上を利用した安全な区域の飛行で実証・実用化されるものと思われるが、技術が確立されれば、市街地においても宅配などが可能になる。
窓ガラスへの接触にヒヤヒヤしそうだが、ビルの窓から直接荷物を受け渡しできるようになることも考えられるだろう。そのうち、空飛ぶクルマ(ドローン)が離着陸できる出窓やベランダのような設備が常設されるかもしれない。
■近隣へ直接荷物をお届け
それほど遠くない距離への配送なら、直接荷物を届けることも可能になる。隣り町に住む祖父母宅へ手紙やちょっとした荷物を送るのも、直接自宅から届けることができるようになる。
弁当を持ち忘れた旦那に、ドローンで弁当を届ける――なんて日も将来訪れるかもしれない。
■デリバリーサービスが主流に
都市部を中心にUber Eats(ウーバーイーツ)といったデリバリーサービスが流行しているが、配達パートナーは将来的に自動運転車に置き換えられる可能性が高い。空飛ぶクルマ(ドローン)の活用も十分検討の範囲内だ。
ドローンタイプであれば導入費用も低めに抑えることができ、人件費も抑制できるため、都市部以外の地方においても新たなデリバリーサービスが普及する可能性は高い。
タイムリーな話題を交えれば、デリバリーサービスならば基本的に軽減税率が適用されるため、飲食店内で食事をとるより若干お得だ。無論、手数料はかかるものの、自宅で気軽に外食気分を味わうにはもってこいのサービスが、空飛ぶクルマの実現によりいっそう身近になるのだ。
【参考】ウーバーイーツについては「ソフトバンク、ウーバーイーツに自動運転宅配車両を活用か 米ニューロに1040億円出資」も参照。
■空中で食事も
ホテルの最上階などロケーションの良い立地に店を構える高級レストランがあるが、そのうち空飛ぶクルマを活用したレストランも登場するかもしれない。
空中を旋回あるいはホバリングする空飛ぶクルマのロケーションは、他では味わえない体験となる。厨房設備は建物に設置され、出来立ての料理をドローンが空飛ぶクルマに運んでくる――といったサービスも考えられるだろう。
■インスタ映えの主流が空撮に
「インスタ映え」という言葉に象徴されるように、SNSの浸透が一種の写真ブームを巻き起こしている。画一的なロケーションでお決まりの画像加工を施している例も多いが、空飛ぶクルマに乗ることで、創造の世界が限りなく広がる。
今まであまり目にすることのなかった空中からの撮影は、二度と同じものは撮れないほどバラエティに富んでいる。
実用化される頃にはインスタブームが去っている可能性もあるが、従来の写真家の作品の中にも、空撮モノが一気に増える可能性もありそうだ。
■釣りに新たな可能性
ボートを要する海釣りなどに、新たな可能性が生まれる。許可は必須になるだろうが、空飛ぶクルマであれば船舶免許なしで気軽に海に出ることができる。ポイントに付いたら水面に浮いてエンジンを止め、ゆったりと釣りにいそしむのだ。
多少空飛ぶクルマが生臭くなるかもしれないが、そこはご愛敬だ。
■空からスポーツやイベント観戦が可能に
コンサートやスポーツにおける特等席が、空中に用意されるかもしれない。野外コンサートやドームなどの天井の高い建物限定だが、空飛ぶクルマがイベント観戦時の特等席になり得る。
安全性の確保は当然必要だが、さまざまな空中アングルから対象を観る希少な機会を提供できるため、真剣に実用化を図る動きがあってもおかしいものではないだろう。
■空中を移動しながらゲーム
空中をスクリーン代わりにしたゲームも登場すれば人気を博しそうだ。利用者は実際に空飛ぶクルマに乗り、空中を移動する。位置情報とVR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を組み合わせ、空中に現れた敵を次々と打ち落としていくシューティングや、空中に現れたコースを周回するレースゲームなど、興味をそそられないだろうか。
■ブルーインパルスが空飛ぶクルマに
航空自衛隊に所属する曲技飛行隊「ブルーインパルス」。息の合った編隊飛行による圧巻のパフォーマンスが魅力だが、編隊飛行の類は空飛ぶクルマの十八番である。
AIで制御されたロボットならではの統制は、ブルーインパルスの操縦士に引けを取らないはずだ。航空機のようなダイナミック感や人が運転しているからこその感動は得られないが、一種の曲芸として空飛ぶクルマ版ブルーインパルスが誕生しても良いのではないだろうか。
■ロープウェーやリフトが空飛ぶクルマに
観光客が多い山やスキー場などで活躍するロープウェーやリフト。人の上り下りを担う乗り物だが、こうした移動サービスを空飛ぶクルマに置き換えることも可能だ。
特に、それほど多くの輸送能力を必要としない山であれば、空飛ぶクルマのほうが費用対効果が高くなる。空飛ぶクルマで山に登り、景色を楽しむ――といったことも考えられるが、景色が目的なら山は必要なく、空飛ぶクルマがあれば用は足りる――といった話になり、単純に景観だけを売りしている山観光は需要が減る可能性もありそうだ。
■災害復興や事故現場で活躍
地震による大災害や土砂崩れなど、被災地の状況を一刻も早く把握しなければならないものの、二次被害の恐れがあるためなかなか現場に近寄れないケースがある。道路が寸断され、物理的に救急車や消防車がたどり着くことができないケースもある。
また、高速道路における交通事故などで、事故現場から渋滞が発生し、緊急車両が現場にたどり着くまでに時間を要することも多々ある。
こういった際に活躍するのが空飛ぶクルマだ。無人で現場を捜索したり、ドクターヘリのように救急関係者を迅速に現場に送り込むこともできる。ドクターヘリに比べ、発着地点の環境に融通を利かせやすいほか、パイロットを必要としないため導入が容易になる。
海岸から比較的近い場所における海難事故や、山における遭難などにも対応できるだろう。ロボット技術を災害現場や事故現場に送り込む研究は以前から行われており、実用化が期待される新技術だ。
■【まとめ】技術進めば長距離移動も可能に 進化の第一歩が間近に
多少現実離れしたものがあったかもしれないが、空飛ぶクルマの実用化は大きな可能性を秘めていることに変わりはない。従来のヘリコプターを小型化し、操縦士なしで自由度を増した飛行が可能になるイメージだ。
バッテリー技術が進めば、大型化によって重量物を運搬することや長距離移動も可能になる。遠い将来、空飛ぶクルマが大陸間を渡ることだって否定できないだろう。
こうしたとてつもない可能性を秘めた新たなモビリティが、まもなく実用化されようとしているのだ。
【参考】空飛ぶクルマの開発状況については「空飛ぶクルマの開発企業まとめ 日本と世界、開発進捗は?」も参照。