国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で検討が進められている自動運転車の国際基準作りがこのほど、一定の合意に達した。国際的なガイドラインを含む自動運転の枠組みや自動運転に求められる機能など優先検討すべき7項目がリスト化され、今後、国際基準の策定に向け各国の取り組みと協調体制の構築が大きく加速していくこととなる。
WP29は自動車の安全・環境基準の国際調和と認 証の相互承認を多国間で審議する場で、日本は自動運転専門分科会(GRVA)で副議長を務めるほか、自動操舵専門家会議や自動ブレーキ専門家会議、自動運転認証専門家会議などで議長を務めるなど、議論を主導する立場で積極的に参加している。
今回の優先検討項目リストも日本と欧州の共同提案が基となっており、政府はじめ国土交通省などは引き続き主導していく立場で新たな時代の国際的枠組み作りに取り組んでいくこととしている。
■自動運転の枠組みやサイバーセキュリティなど7項目を検討
今回合意された優先検討項目リストは、①自動運転の枠組み(フレームワークドキュメント)②HMI、ドライバーモニタリングなど自動運転に求められる機能③新たな安全性能確認手法(シミュレーション、テストコース又は路上試験を適切に組合せた新たな試験法)④サイバーセキュリティ⑤ソフトウェアアップデート⑥イベントデータレコーダー⑦データ記録装置(DSSAD)―の7項目。
①では、日本、米国、欧州など各国の自動運転ガイドラインに基づく国際的なガイドラインをはじめ、他の優先検討項目の基準策定に向けた検討スケジュールなどを検討していく。国際的なガイドラインについては、次回のWP29において議論が行われる予定。
②は、前後・左右方向の制御や周辺環境モニタリング、ミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)、運転権限委譲の要求(TD)、HMI(内部及び外部)、ドライバーモニタリングなどの各機能について検討を進める。③は、シミュレーションやテストコース、または路上試験を適切に組合せた新たな試験法について検討を進める。
④~⑦については、常時接続化される自動運転において危惧されるサイバーセキュリティの在り方や、自動運転ソフトウェアのアップデート、システムの作動状況などを記録するイベントデータレコーダーなどについて、それぞれ検討を進めていく。
②と⑦は、WP29のGRVA傘下の自動操舵専門家会議、または新たな専門家会議における検討が想定されており、③はGRVA傘下の自動運転認証専門家会議において、また④と⑤は、GRVA傘下のサイバーセキュリティタスクフォースにおいて、それぞれ引き続き検討を進めることとしている。⑥は、安全一般分科会(GRSG)で検討していく。
■大型車の側方衝突警報装置の国際基準も成立
WP29では、優先検討項目とは別に、日本が分科会の共同議長として主導してきた「大型車の側方衝突警報装置」の国際基準も成立した。側方衝突警報装置(Blind Spot Information System)は、左側方の自転車を検知し、左折時に衝突の可能性がある場合に視覚や音によって運転手に警報し、左折巻き込み事故を予防するための装置を指す。自動車対自転車の事故においては巻き込み事故が多く、当該装置の普及により左折巻き込み事故の削減が期待される。
基準の発効は2019年10月を見込んでおり、車両総重量8トン超の貨物自動車が対象となる。
■国際基準作りは年内に大きく動く可能性、メーカーの技術開発にも弾み
国際基準が定まることで自動運転技術やセキュリティ技術などクリアすべき水準が明確となるため、自動車各メーカーやサプライヤーらの技術開発の加速化にもつながる。自動運転の実用化に関しては日本をはじめとする世界の多くの国が2020年を一つの節目と捉えていることから、WP29における基準作りも年内に大きな動きを見せる可能性が高そうだ。
なお、条約面では、ジュネーブ条約改正に関して道路交通安全作業部会(WP1)で議論が進められている。日本も2016年からWP1の正式メンバーとなっており、現行条約の下でも実験においてはドライバーなしで運行することができる旨の独自解釈が認められるなど、一定の進展がみられる。
自動運転技術の国際基準、道路交通条約の両方が整備されることで、自動運転実用化の機運が飛躍的に増すことが予想されるが、その時期はもうすぐそこまで来ているのだ。
【参考】国際基準策定に関する国土交通省の取り組みについては「【全文】自動運転車の安全基準策定「国際協調で」 石井国交相、ダボス会議で発言」も参照。