Uber Eats Japanのプラットフォームを活用したロボットデリバリーサービスが東京都内の日本橋エリアで始まった。2024年4月には大手飲食チェーン系列のガスト日本橋店が取り扱いを開始し、ロボットデリバリーは現在3店舗で行われている。
店舗で商品を受け取ったロボットが、安全に配慮しながら注文者のもとへ商品を届ける。従来の人間による配達と同様のサービスをロボットが担うわけだが、やはり相違点はある。その1つは「速度」だ。
歩道を走行するデリバリーロボット(遠隔操作型小型車)は最高時速6キロまでと定められており、自転車やバイクと比べ配達に時間を要する。
ここでふとした疑問が生じる。……料理が冷めてしまわないだろうか?せっかくの無人技術だが、そのために明らかにサービスの質が落ちる、ということはあるのか。人間の配達とデリバリーロボットの配達の相違点やメリットなどに迫る。
記事の目次
■東京都内日本橋エリアでロボットサービス始動
Uber Eats Japanは三菱電機と手を組み、2024年3月にデリバリーロボットによる配送を東京都内の日本橋エリアで開始した。ウーバーイーツ加盟店のうち、「とんかつ檍日本橋店」と「レストラン紅花別館」が先陣を切ったようだ。
そして4月に入り、すかいらーくホールディングス系列の「ガスト日本橋店」も新たに対応店舗に加わった。ロボットが現在何台稼働しているのか、また運行可能エリアがどこからどこまでなのかは不明だが、すかいらーくグループの別のウーバーイーツ加盟店舗もロボットへの対応を順次拡大する見込みとしており、着実に広がりを見せ始めている印象だ。
すかいらーくホールディングス執行役員でマーケティング本部マネージングディレクターを務める平野曉氏は、「ロボットデリバリーは、少子高齢化を見据えた人とロボットの協働によるサービスの革新、環境改善、地方など買い物が困難なお客様にもサービス提供が可能になるなど、さまざまな社会課題の解決につながると考えている。今後、よりフードデリバリーがお客様の日常に寄り添えるサービスに成長出来るようにウーバーイーツ及び関係各社と取り組んでいく」とコメントしている。
同グループは、ガストをはじめバーミヤンやジョナサンなど国内外に3,000店を構える大手チェーンだ。こうしたチェーンがデリバリーロボットの導入に力を入れる意義は非常に大きく、市場のけん引役として大きな期待が寄せられるところだ。
■Cartkenのロボットを導入
ウーバーイーツが導入しているのは、米Cartkenのロボット「Model C(モデルC)」だ。Cartkenとパートナーシップを結ぶ三菱電機がシステムに手を加えて日本仕様とし、2022年からイオンモールや楽天グループなどの協力のもと国内実証を進めてきた。
利用者が対象店舗の料理を注文した際、ロボットがマッチングされた場合はその旨通知され、拒否することもできる。拒否した場合は、従来通り人間の配達員がマッチングされる。
モデルCは、長さ71×幅46×高さ60センチの機体に最大27リットル・20キログラムの荷物を積載することができる。日本では最高速度を時速5.4キロメートルに制御し、道路交通法で定義された「遠隔操作型小型車」として歩道などを走行する。
本場米国のUber TechnologiesもCartkenとパートナーシップを結んでおり、2022年にフロリダ州マイアミでウーバーイーツのプラットフォームを利用したロボットデリバリーサービスについて発表している。
【参考】Cartkenについては「Uber Eatsの配送ロボ、開発者はGoogle出身!Cartkenの知られざる実力」も参照。
■デリバリーロボットは最高時速6キロまで
道路交通法施行規則では、遠隔操作型小型車は時速6キロメートルを超える速度を出せないこととされている。時速6キロは1分間に100メートル進む速さで、やや早歩きの歩行者と同レベルの速度となる。電動車イスなどの規定を準用したもので、歩行者同等の速度とすることで歩道走行における安全を確保している。
この時速6キロという規則、Cartkenの場合は5.4キロに制御しているが、この数字がくせものだ。歩行者と同等の速度ということは、当然ながらその配達速度は「歩いて届ける」スピード感となる。
安全面から、周囲に歩行者がいれば衝突しないよう遠慮気味に走行するだろうし、信号が変わりそうだからといって小走りすることはなく、余裕をもって待機するだろう。実際の人の移動より少し遅いイメージではないだろうか。
仮に2キロ先に料理を運ぶとなれば、時速5.4キロだと単純計算で22.2分要する。アツアツの料理だと、冷めてしまわないだろうか?アイスクリームだと、溶けてしまわないだろうか?
人間の配達員であれば、自転車などで10分かからずさっそうと運ぶ。より多くの仕事をこなすため、良くも悪くも配達速度を重視する人が多い。ウーバーイーツの配達用バッグは、保温・保冷など温度・質をキープしながら配達できるようさまざまな機能が盛り込まれているという。
こうした人間による配達と比べると、ロボットは急ぐことを知らず、常にマイペースだ。配達する料理などのことは気にしない。もし料理が冷めてしまっても恐らく謝らないだろう。
■多くのロボットは温度管理機能を搭載
飲食系のデリバリーロボットにおいては、配達するものの温度を管理する機能が必要不可欠と言える。ウーバーイーツによると、Cartkenのロボットは内部に断熱性のある約27リットルの積載スペースが備わっており、保温保冷機能によって配達中も適切な温度に保つことができるという。
こうした温度管理機能を備えるロボットは少なくない。Cartkenの温度管理機能の詳細は不明だが、断熱構造などに加え電気的な温度管理が可能であれば、配達用バッグよりも温かく、または冷たい温度のまま料理を提供できるかもしれない。料理が冷めてしまう──といった心配は杞憂のようだ。
■ラーメンは大丈夫?
温度は一定程度維持できるとしても、配達完了するまでの所要時間が長引くことには違いない。例えば、ラーメンの麺は伸びてしまわないだろうか。
こればかりは各店舗の努力に委ねるしかなさそうだ。多くの店は、麺の茹で時間を短くしたり麺とスープを別容器に入れたりするなど工夫を凝らし、多少時間が経ってもおいしく食べられるよう配慮している。
ただ、配達完了まで想定10分と20分では勝手が異なる。店側が別途対応しなければならないのではないだろうか。
■受け渡しは人間に軍配?
このほか、人間による配達とロボット配達の相違点としては、料理の受け渡し方法が挙げられる。人間の場合、店舗の中まで入って料理を受け取り、注文者の自宅ドア前や、セキュリティが厳しいマンションなどではエントランス前まで運び、料理を受け渡す。
一方、ロボットは店舗の外で料理を受け取るケースがあり、注文先においても基本は歩道か、歩道と連結されたエントランスまでの配達が基本となる。店側は店舗外まで料理を運ばなければならず、注文者も歩道まで受け取りにいかなければならない。
ロボットのシステムや店のつくり次第では、店舗内までロボットが入ることも可能で、オフィスビルなどエントランスドアやエレベータなどとのシステム連携を図る技術開発も進められている。
店側、注文者双方にとってどこまで利便性を高めることができるかも重要な要素だ。
■ロボットは安定供給が可能
ロボットのメリットとしては、よほどの悪天候でない限り安定してサービスを供給できることだ。人間の配達員は、雨の日など特定の条件下において供給が下がり、マッチングしづらくなることがある。
しかし、耐候性のあるロボットであれば、台数に余力がある限り需要を満たすことができるだろう。ロボットは「嫌がらない」し「さぼらない」のだ。
■配達手数料は?
人間による配達をカットする分、配達手数料は安くなるのでは?――と期待したいところだが、今のところウーバーイーツは従来同様の手数料体制を敷いているようだ。
ロボットサービス普及には、こうした料金面の負担軽減も欠かせない。現状、利用者目線ではロボット配達を頼むメリットが弱過ぎるため、分かりやすいメリットとなる価格面で差別化を図るなどの策が必要なように感じる。
現在は開発と並行したサービス提供期であり、コンシューマーなどの意向をうかがっている段階のため難しいかもしれないが、技術の高度化とともに量産化が進み、本格的な普及期を迎えれば必然的に配送費用は低下する可能性が高い。
物珍しさだけでは支持は得られない。どこかの段階で明確なメリットを提示しなければならなくなるのだ。そのタイミングはいつか。各社の戦略が分かれそうなところだ。
■【まとめ】ロボットサービスのメリットを明確に
ロボットデリバリーはエリア単位での導入となるため、今後ウーバーイーツがどのように対象エリアの拡大を図っていくか、配送限界距離をどのように設定するかなど注目ポイントは多いが、やはりロボット導入によるメリットとデメリットを明確にし、デメリットの解決を図りながら何らかのメリットを持たせなければ社会には受け入れられない。
自動配送ロボットとの親和性が高い飲食系デリバリーサービスでのサービス事例は、競合他社も気になるところだろう。ウーバーイーツが今後どのような戦略を採用するか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「5年後の日本、配送ロボが歩道を埋め尽くす懸念 Uber Eatsが口火」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)