三菱地所、空飛ぶクルマ市場に参入!空陸兼用コンセプトを発表

ビル外壁をエレベーターのように移動可能

B!
出典:三菱地所設計プレスリリース

三菱地所子会社の三菱地所設計はこのほど、次世代エアモビリティのデザインや運用システムに関わる提案を発表した。都市計画や建築・設計を手掛ける同社ならではの「都市×建築×次世代エアモビリティ」案だ。

同社は近年、モビリティ関連のアイデアを続々と発表しているが、ついに「空」も網羅したようだ。親会社とともに、今後空飛ぶクルマ事業へ本格参入する日が訪れるのかもしれない。

ディベロッパーとして不動産を中心に多角的に事業を展開する三菱地所グループは、どのように空飛ぶクルマ事業に関わっていくのか。同社の戦略に迫る。

【参考】空飛ぶクルマについては「空飛ぶクルマとは?(2024年最新版) 開発企業・実用化状況まとめ」も参照。

■三菱地所設計の取り組み

モビリティコンセプト「SMS」をアップグレード

三菱地所設計は2023年8月、「都市・建築・人をつなぎ合わせるツール」として、建物の内外を問わず人の移動をシームレスなものとする新時代のモビリティコンセプト「SMS:Seamless Mobility System」を発表した。

SMSについては後述するが、この構想を都市の上空まで展開し、より自由な空間利用を可能とするeVTOL(電動垂直離着陸機)のあり方をこのほど新たに提案した。

建築設計事務所ならではのアプローチとして、eVTOLそのものの姿を描くことにとどまらず、「進化したモビリティがインストールされた未来のまちのあり方」を追求したという。

SMSで提唱した新しい移動の在り方をさらに発展させるものとして、都市における移動をいっそう向上させ、都市空間をより可変的で自由に使えるものにしていくための構想であるとともに、eVTOLを介して人やモノがビルの屋上や中間階に直にアクセスできるようになることで、ビルという建物のタイポロジー(建築の型)に大きな変革をもたらすとしている。

モジュール方式のPassenger VTOL、上下の移動も

同社が提案するeVTOL「Passenger VTOL」は、「プロペラ」「キャビン」「走行」の3つのユニットで構成される4人乗りの全自動操縦型電動式のモジュラー型モビリティシステムとなっている。バーティポート(離発着場)と一体的に機能し、ポートからポートの空中間移動だけでなく、空中と地上の「間」の移動もシームレスにつなぎ合わせる。こうしたデザインの独自性が認められ、欧州における意匠権も取得したという。

出典:三菱地所設計プレスリリース

eVTOLの登場により、ビルの屋上や中間階も新たな玄関口として期待される。屋上に設置されたバーティポートでは、旅客の乗降や荷物の積み下ろし、Passenger VTOLのモード転換などが行われる。

Passenger VTOLが走行ユニット上に着陸、あるいは着陸してからキャビンに走行ユニットを取り付け、プロペラユニットを切り離して屋上を移動するのだ。

またビル外壁面には、人を乗せたままPassenger VTOLを地上と行き来させることが可能な昇降機構も設けるという。エレベーターのゴンドラのようにPassenger VTOLを昇降させる搬送システムで、各階への着床も可能な新たなビルの建築要素を外壁部に設ける案だ。

屋上のバーティポートでプロペラを切り離したキャビン+走行モジュールを、屋上における移動をはじめ、外壁沿いをエレベーターのように昇降可能にする案は斬新だ。モジュール化することで飛行と走行を実現し、さらにはエレベーター・ゴンドラのように上下の移動も可能にしている。

出典:三菱地所設計プレスリリース
出典:三菱地所設計プレスリリース

都市、建築、人の移動を融合

SMSは、都市をより高度化させるインフラとして、従来の都市交通の役割を超えた新たなモビリティの提案だ。

以下のようなそれぞれの「移動」を一つに融合することで、建物内外を問わず人の移動をシームレスにし、より自由に空間を利用することで都市に多様性や可変性を与えるインフラとしている。

SMSでは、歩者と街路を共有できるスケールの最大4人乗りのモビリティ「Pod Bus」や、高齢者などに寄り添い荷物の運搬や一時的な座椅子となるモビリティ「Trunkbot」、既存の広域公共交通がカバーできない歩行圏内+αの範囲で機能するクルージング・モビリティ「Non-Stop Shuttle」などを提案している。

モビリティ領域におけるイノベーションは、都市設計に影響・変化を及ぼす。その逆も然りで、未来の都市空間を創造する上では、両者を結びつけ一体的に思案することが肝要なようだ。

■三菱地所の取り組み

次世代エアモビリティを踏まえたまちづくり

こうしたデザインを実現するのが親会社の三菱地所だ。同社は2022年1月、空飛ぶクルマが実用化される将来を見据え、次世代エアモビリティを活用した新しいまちづくりの事業化に着手した。

第一弾として、御殿場プレミアム・アウトレットにヘリポートを設置し、周辺観光スポットを遊覧するヘリコプタークルージングサービスを開始した。ヘリコプターを使用したサービス提供を重ね、次世代エアモビリティの離発着場設置・運営に向けたノウハウの蓄積や、eVTOLでの移動便における価格受容性やユースケースなどの調査を進める構えだ。

同年7月には、酒々井プレミアム・アウトレットでもヘリコプタークルージングサービスを開始している。

同年8月には、東京都が公募した「都内における空飛ぶクルマを活用したサービスの社会実装を目指すプロジェクト」に採択されたと発表した。

日本航空、兼松とともに、都心の主要な拠点を結ぶ移動サービス(都市内アクセス)や空港からの二次交通(空港アクセス)、離島地域における移動サービスや遊覧飛行など、都内におけるさまざまな空飛ぶクルマのビジネスモデルを検討する。

その後、2023年度にヘリコプターによる運航実証、2024年度に空飛ぶクルマによる運航実証、離着陸場オペレーションの検証を行い、運用上の課題や収益性などを検証する。

三菱地所はプロジェクト全体を取りまとめ、不動産アセットなどへの空飛ぶクルマ用離着陸場実装に向けた課題や解決策の提示、運航実証を行うロケーションの提供などを担っている。

2024年2月には、新丸ビル屋上と臨海部を繋ぐ航路でヘリコプターを使用した計5日間の運航実証を行った。一般モニター搭乗のもと、搭乗時の顧客体験上の課題抽出や適性価格調査を通じた事業性検証、都心部における空飛ぶクルマ運航のオペレーション確認、音や風の周辺環境への影響など、技術的検証を主目的としている。

2021年には、三菱地所とサムライインキュベートがスタートアップとのオープンイノベーションによる新事業創出を目指す「三菱地所アクセラレータープログラム 2020」において、エアモビリティプラットフォームを開発するAirXを採択している。

空の次世代モビリティを活用した新しいまちの形を提案する内容で、前述したヘリコプタークルージングサービスなどもこの流れだ。

【参考】三菱地所とAirXの取り組みについては「三菱地所×AirXで「空の移動革命」!空飛ぶクルマの事業開発に着手」も参照。

空も含めたアセットの利活用を推進

三菱地所のオウンドメディア「xTECH」は、空飛ぶクルマプロジェクトに関わる社員へのインタビュー記事を掲載している。

これによると、ディベロッパーである三菱地所が空飛ぶクルマ事業を手掛ける理由として、空も含めたアセットの利活用や空も含めたアプローチにより、使い方を工夫することでまちとまちのつながりやまちの中に新しいシーンを創っていくことを挙げている。

鉄道などの既存インフラでは事業性を見出せないエリアが、空飛ぶクルマの登場により一等地になる可能性や高層ビル屋上の利活用など、不動産が関わってくる点はやはり多いようだ。

東京都内における実証については、利用者にとって空の移動が本当に価値あるものかどうかを確かめることもポイントに挙げている。実証で離発着場とする臨海部も都心のビル屋上も本来は利用者が立ち入る前提のものではないため、離発着場での動線などの利用体験も含め、どれくらい顧客満足に影響を与えるのかを検証しているという。

技術検証の面では、空飛ぶクルマを都心部に実装した際の騒音や風の影響などを検証しているほか、フライトシミュレーターなどでは分からないパイロット目線での課題もしっかりと形にし、官民協議会などでフィードバックしていくとしている。

バーティポート関連では、法律上空飛ぶクルマは小型飛行機やヘリコプターと同様の位置付けとなるため、ポートに金属探知機を設置するなど、最低限の保安検査機能を検討しているという。ターミナルや離発着場の機能も含め、サービス全体の一連の流れをデザイン・検証することに重きを置いているようだ。

このほか、注目している規制として建築基準法の容積率を挙げている。建物の屋上に待合室を設置したり直通エレベーターを整備したりすると、新しく容積率にカウントされるケースや増築扱いになるケースなどが想定される。

安全性とトレードオフになる規制緩和は許されないが、既存のルールを杓子定規に当てはめるのではなく、時に前例にとらわれない発想や視点も併せて考えていくべき――とし、すでに関係省庁との意見交換も始めているそうだ。

【参考】バーティポートについては「【解説】空飛ぶクルマの離発着場「バーティポート」の整備指針」も参照。

■【まとめ】東京における空飛ぶクルマ実用化のリーダーに

三菱地所にとって空飛ぶクルマ事業はさまざまな可能性を秘めているようだが、目下ではやはりビル屋上や商業施設などにおけるバーティポートの設置が中心となるのではないだろうか。その設置場所を選定するにあたり、都市設計・まちづくりの観点が重要性を増してくるのだろう。

空飛ぶクルマは、2025年開催予定の大阪・関西万博を皮切りにサービス展開が始まる見込みだ。本格的な商用運航やエリア拡大などにはもう少し時間がかかりそうだが、実用化の時はもうすぐ目の前まで迫っている。

東京都内での実用化においては、三菱地所はまぎれもなくリーダー格の1社となる。今後どのような戦略で事業を具体化していくのか。また、三菱地所設計が提案したPassenger VTOLを製品化する協業先は出てくるのかなど、同グループの動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「T2と三菱地所、レベル4自動運転トラックの物流網構築へ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事