報道によると、近々岸田文雄首相が内閣改造・党役員人事を行う方針という。次期選挙や2024年の党総裁選に向け、どのような人事で臨むのか注目が集まるところだ。
当サイトとしては、自動運転をはじめとした次世代モビリティを推進する旗振り役の動向に注目したい。近々では、デジタル大臣を務める河野太郎氏とライドシェア解禁に言及した菅義偉前首相が目立つ。両者が要職に就けば、次世代モビリティの在り方をめぐる議論や取り組みがさらに加速するかもしれない。
閣僚の構成により、国政における「自動運転」や「ライドシェア」の扱いはどう変わっていくのか。これまでの取り組みを踏まえながら、内閣改造の在り方に迫ってみよう。
記事の目次
■国政における自動運転の扱い
自動運転は順調に推進
日本においては、一部野党を除き国会議員の大半が自動運転に肯定的だ。2019年に成立した自動運転レベル3を可能にする道路交通法改定案は、参議院本会議において日本共産党14人が反対したものの賛成215票で可決されている。
与党自民党は基本的に推進派で、安倍晋三内閣のもと2014年ごろに自動運転開発・研究が国策化された経緯がある。Society5.0の実現に向け、2014年に当初予算500億円の科学技術イノベーション創造推進費が計上され、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が始動したのが始まりだ。
SIPは基礎研究から実用化・事業化までを見据え規制・制度改革を含めた取り組みを推進するもので、取り組むべきテーマの1つに「自動走行システム」が位置づけられた。
以後、官民総出でさまざまなプロジェクトが展開され、民間の開発やインフラの在り方に関する研究、高精度3次元地図の整備、官民共同によるサービス実装、法改正など、多くの面で自動運転の社会実装をサポートしている。
安倍内閣から2020年9月にバトンを受け取った菅義偉内閣も規制改革やデジタル化を主要施策に掲げ、デジタル庁を新設するなどイノベーションを推進した。同内閣では、行政改革担当、及び規制改革を含む内閣府特命担当大臣に河野太郎氏が任命され、辣腕を振るっている。
続く岸田文雄内閣は、菅内閣とは党内勢力的に離れた存在ではあるものの、「デジタル田園都市国家構想」を掲げて同路線を歩んでいる印象だ。なお、河野氏は第2次岸田内閣においてデジタル大臣を務めている。
岸田内閣の下、レベル4に相当する運転手不在の自動運転を可能にする「特定自動運行」や、自動配送ロボットに代表される「遠隔操作型小型車」などを盛り込んだ改正道交法が可決され、2023年4月に施行されている。
国政においては、一部安全性を危惧する声があるものの、ドライバー不足の解決手段として、道路交通全体の安全性向上策として、誰もが自由な移動を手にする手段として、自動運転の効用がおおむね認められた格好だ。
【参考】改正道路交通法については「ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?」も参照。
■国政におけるライドシェアの扱い
白タクレベルのライドシェアは厳禁
一方、ライドシェアに関しては現状反対する声のほうが圧倒的に大きいようだ。国会では2006年、公共交通空白地などにおいて条件付きで自家用車による運送を認める自家用有償旅客運送を盛り込んだ道路運送法改正が行われ、2016年には観光客も対象に加える法改正も行なわれた。
ただし、2016年の改正時には、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案に対する附帯決議として、「あくまでバス・タクシー等が極端に不足している地域における観光客等の移動の利便性の確保が目的であり、同制度の全国での実施や、いわゆるライドシェアの導入は認めない」としている。
また、2020年の第201回国会では、持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取り組みを推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議として、「自家用有償旅客運送が事実上の営利事業として地域公共交通の担い手となっているタクシー事業者の経営を圧迫することにならないよう対策を講ずること。(中略)いわゆるライドシェアは引き続き導入を認めない」といった意思が示されている。
ギグワーカーが自家用車を用いて小遣い稼ぎを行う海外のようなライドシェアの導入には、依然として反対の声が大きいようだ。
【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2023年最新版)」も参照。
■菅氏と河野氏によるリーダーシップ
タクシー供給不足を背景にライドシェア議論が再燃?
菅前首相は2023年8月、地方講演においてライドシェア解禁に向けた議論の必要性に言及したようだ。都市圏を中心にタクシー供給不足が顕著となったことを受け、公共交通空白地以外での導入についても議論の余地があるのでは――といった主旨の発言だ。
一方、河野氏も2023年8月、テレビの報道番組に出演した際、地域ごとにライドシェアや自動運転サービスが自動解禁されていく独自案を提示した。タクシー業界などに発破を掛ける意味合いが込められているのかもしれないが、いずれにしろ既存の枠組み・取り組みでは課題が山積していることを示している。
なお、毎日新聞によると、小泉進次郎氏もライドシェア導入に意欲を示しているようだ。国会議員としては声を上げづらい面がありそうだが、条件付きであればライドシェア解禁を容認する層も一定数内在しているものと思われる。
影響力のある菅氏や河野氏が旗振り役となれば、新たな議論が巻き起こる可能性も十分ありそうだ。
次世代モビリティめぐる旗振り役に
菅氏の功績の1つとして「携帯電話料金の引き下げ」が挙げられるが、これは業界側ではなく利用者目線に立った取り組みだ。この利用者目線の思考をライドシェアにあてはめると、タクシー供給不足が続く限り同氏はライドシェア解禁論者となり得る。業界に忖度することなく、課題解決に向けあらゆる手段の導入を検討していくだろう。
一方、河野氏はこれまで規制改革や行政改革に力を注いできた。イノベーションや既得権の破壊を恐れず次代を切り開いていこうとする信念がうかがえる。
両者とも岸田政権との距離感が微妙なところだが、菅氏は前首相として影響力を保持し、河野氏は将来の首相候補として少なからぬ支持を得ている。
自動運転担当大臣の創設――とまではいかなくとも、次世代モビリティを担当する大臣として両者のいずれかが任命されれば、イニシアチブを発揮して自動運転実用化のさらなる加速やライドシェアをはじめとした次世代モビリティの将来像の描出が可能になるのではないだろうか。
■【まとめ】デジタル大臣やデジタル田園都市国家構想担当に注目
現実的には、国土交通大臣は公明党の指定席となっており、経済産業大臣は岸田政権に近い議員が就く可能性が高い。となれば、デジタル大臣やデジタル田園都市国家構想担当あたりが一定の権限を発揮しやすいポストとなりそうだ。
2024年には自民党の総裁選が行われる予定で、また衆院解散をめぐる水面下の攻防も現在進行形で繰り広げられている。
次世代モビリティを主導するリーダーには誰が選ばれるのか。こういった観点から政治の動向にも注目したいところだ。
【参考】関連記事としては「どうせ無くなるライドシェア、菅氏の「解禁論」は遅すぎた?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)