ドイツの「自動運転法」解説(2022年最新版)

「自動運転規則」は2022年度中にも施行へ

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自動運転レベル4を可能にする通称「自動運転法」が2021年7月、ドイツで施行された。2022年2月には、同法を補足する条例も可決されたようだ。

世界で加速するレベル4実現に向け、先行するドイツの自動運転法とはどのようなものか。この記事では、警察庁の「令和3年度自動運転の実現に向けた調査研究報告書」の参考資料として付記された妙訳をベースに、同法の中身に迫る。

なお、法文の中では「自動運転」と「自律運転」が使い分けられている。おそらく、監視役としてドライバーが存在するものを自動運転、完全無人走行を可能とするものが自律運転と定義されているものと思われる。

「道路交通法及び強制保険法改正のための法律」が施行済みの自動運転法で、後段の「自律走行機能を備えた車両の認可並びに定義された運転エリアにおける自律走行機能を備えた車両の運転に関する規則」は2022年度中の施行を目指している。

■道路交通法及び強制保険法改正のための法律(自動運転法)
運行領域において自律運転機能を備えた車両

同法において、自律運転機能を備えた車両は、運転者なしでも運行領域を独立して運転タスクを実行でき、一定要件を満たす技術装置を装備しているものを指す。運行領域とは、自動運転車が走行可能な公道上のエリア及び所定の空間を指す。

自律運転機能を備える車両の技術監督とは、走行中の当該車両の作動停止や運行操作の起動などを行うことができる自然人を指す。

最小リスク状態とは、自律運転機能を備えた車両が交通状況を適切に判断し、車両の乗員をはじめ他の道路利用者、第三者に対し可能な限り安全を確保できるよう、自らの発意もしくは技術監督の指示のもと、警告灯を作動させ、可能な限り安全な場所に停止するよう独自制御することをいう。

自律運転機能を備えた車両の走行

自律運転機能を使用した自動車の走行は、技術要件を満たすこと、運行許可が付与されていること、公共道路交通で利用することが許可されていることなどを条件とする。

自律運転機能を備えた車両の技術装置は、以下を可能とする。

自律運転機能を備えた車両の所有者は、交通安全と車両の環境適合性を遵守する義務があり、自律運転機能に必要なシステムの定期的保守や車両操作外の他の交通規制を遵守するための措置、技術監督者の業務が遂行されるための措置を講じなければならない。

また、技術監督者は、システムから提供されたデータを基に状況判断を行い、代替運行操作の実行により交通安全が危険にさらされることのないことを判断したうえで代替運行操作を起動することや、システムからの要請に対する速やかな自律運転機能の停止、必要に応じて交通安全対策を講じること、車両が最小リスク状態となった際、速やかに車両乗員との接触を図り、安全上必要な措置を講じることとする。

車両メーカーは、車両の開発及び運転期間を通じて、車両やE/E(電気電子)アーキテクチャが攻撃から保護されていることを証明すること、リスク評価の内手法やリスク評価で特定された危険から車両の重要機能がどのように保護されているのかを証明すること、安全性を備えた無線接続であることを証明すること、システム記述や操作マニュアルを作成し、必要な要件を満たしていることを記載すること、運転に関係する人々への技術機能の研修の実施、車両やそのE/Eアーキテクチャなどの改ざんを検出した際、特に自動車の無線接続への無断アクセスが判明した際には直ちに所管当局などに通知することとする。

データ処理

自律運転機能を備えた車両の所有者は、車両識別番号や位置データ、自動運転機能の作動や作動停止回数と時間、代替運行操作の起動回数と時間、ソフトウェアの状態に関するデータを含むシステム監視データ、環境及び気象条件、伝送遅延や利用可能な帯域幅などのネットワークパラメータ、起動及び起動停止された受動・能動セーフティシステムの名称、セーフティシステムの状態に関するデータ及び安全システムを起動させた実例などのデータを保存する義務を負う。

各種データは、技術監督による介入があった場合や予定外の車線変更や回避行動を行った場合、走行中に障害があった場合には保管しなければならない。

メーカーは、所有者がデータを保存できるようにする必要があるとともに、データのプライバシー保護やデータ利用の可能性を所有者に正確かつわかりやすく通知しなければならない。

連邦自動車庁は、必要に応じて所有者からデータを収集・保存及び使用する権利を有するものとする。

自動運転または自律運転の走行機能の有効化

国際規制で規定されていない自動運転または自律運転機能が搭載されている場合は本法律が適用される。

自動運転または自律運転機能の試験

開発途上にある車両を公道上で試験するためには、連邦自動車庁からの許可をはじめ、自動運転機能の場合は運転者による監視、自律運転機能の場合は技術監督が現場で立会い監視を行う必要がある。

■自律走行機能を備えた車両の認可並びに定義された運転エリアにおける自律走行機能を備えた車両の運転に関する規則(自律走行車両の認可及び運転–AFGBV)
適用範囲

この規則では、自律運転機能を備えた車両の型式認定や定義された運転エリアの承認、道路通行のための登録について定めるほか、自律運転機能を備えた車両の製造業者や所有者、技術監督者の要件や義務、また、公道試験に向けた車両の製造業者、所有者及び技術監督者の要件・義務についても規定する。

なお、連邦軍や連邦警察、消防隊、救助隊、道路建設局などの自律運転機能を備えた車両は、公共サービスを目的に製造され、公共の安全に注意を払って使用されることが保証される場合に限り本規定を適用しないこととしている。

型式認定

あらかじめ定めた公道エリアで自律運転機能を備えた車両を運転するには、連邦自動車交通局から型式認定を受ける必要がある。

申請に際し、製造業者は機能説明、運転マニュアル、安全コンセプト、ITセキュリティについて、本規則で規定された文書化に関する要求事項に従う。自律運転車両は、周囲の他の道路利用者や第三者、動物や所有物などを検出し、リスク評価のもと各オブジェクトの行動・動きを評価し、移動中の車両が10メートル毎秒以下で減速できると想定してその後の行動や動きを予測し、運転操作を行えることが求められる。

型式認定には、車両の安全な運行確保のため、常に条件や期限、制限事項などの付帯規定を伴う。型式認定付与後に行う車両の変更については、連邦自動車交通局の許可を必要とする。

連邦自動車交通局は、認定を受けた自律運転車両や車両部品について市場監視作業を行い、要件を十分に満たしていないと合理的に疑われる場合には、認定取り消しなどの策を講じる。セキュリティの評価に関しては、連邦情報技術安全局を関与させる。

製造業者は市場監視活動を補助し、連邦自動車交通局によるソフトウェアやアルゴリズムへのアクセスを可能にするとともに、市場監視に必要な文書、情報及び技術仕様を提供する。

承認による運転エリアの定義

自律運転機能を備えた車両の運転エリアは、車両の所有者が定義する。運転エリアは、州法に基づく所轄官庁などの承認を得る必要があり、自律運転機能を備えた車両が適切な型式認定を受けている場合に限り、同型式の複数の車両に対して承認が与えられる。

運転エリアの承認申請には、周囲の地理的状況や運転の目的、それに係る運転条件などの具体的記述や、人員要件・資材要件を満たしているという車両所有者の宣言、型式認定書、運転免許登録の情報、技術監督者については運転適性の登録事項の情報などを要する。

運転エリアが連邦国家の境界を超える場合、州法に基づく所轄官庁は他の連邦国家の法律に基づく所轄官庁と合意の上で承認の是非を決定する。

付帯規定が遵守されず、これによって道路交通の安全と効率性が損なわれることや人命が脅かされる恐れがある場合をはじめ、自動運転機能が定義された運転エリア外で使用されている場合、人員要件や資材要件を満たさなくなった場合、付与された型式認定が期限切れや撤回・取り消し・無効になった場合などは、承認を取り消す。

車両登録規則の申請に係る条件

自律運転機能を備えた車両の登録には、有効な型式認定や定義された運転エリアの有効な承認、強制保険法に準じた自動車損害賠償責任保険契約などの条件を満たすことで車両登録規則を適用できる。

製造業者が満たすべき要件

自律運転機能を備えた車両の製造業者は、車両所有者が利用できる運転マニュアルや車両の修理・保全情報を作成し、所有者が当該情報を車両の譲渡時に利用できるようにする。また、車両の技術的モニタリングを定期的に実施することを保証する。

車両所有者が満たすべき要件

車両所有者は、自律運転機能を備えた車両の運転時、道路交通許可規制に規定された義務を果たすため、車両のアクティブセーフティシステムとパッシブセーフティシステムを定期的に点検することや出発時のチェック、登録日から起算して90日ごとの総合点検を行うこととする。総合点検の結果は報告書にまとめ、必要に応じて所轄官庁への送付などを行う。

自らが技術監督者の作業を行わない場合は、ふさわしい自然人を任命する必要がある。所有者は、技術監督者の職務の遂行に必要な資材要件を満たすものとする。

技術的要件及び組織的要件を満たすため車両所有者に雇用された人員は、自らに任された作業の実施について信頼性を維持する必要がある。信頼性の評価のため、各人員の提出用の善行証明書を運転適性登録の記載項目に関する情報とともに所轄官庁に提出するものとする。

車両所有者は、自律運転機能を備えた車両の道路交通許可規制の付属書に準じて総点検を手配するものとし、総点検の期限は6カ月とする。

技術監督者が満たすべき要件

技術監督者に任命された自然人は、有資格者であるとともに各車両に対応する有効な運転免許証を有している必要があり、本規則の付属書に規定されている関係書類を提出するものとする。

技術監督者として雇用された人員は、車両所有者の勧めがあれば、ふさわしい自然人を用いて自らに任された務の一部を実施させることができる。これにより、車両所有者や技術監督者の責任が影響を受けることはない。

試験許可

自律運転機能を備えた車両の開発段階においては、対応する車両の試験許可が道路交通法に準じて連邦自動車交通局によって発行されている場合にのみ、公道で実施することができる。試験許可には、試験が必要な車両のすべての部品、システムまたはユニットの試験許可も含む。

試験許可には適正な期限が設けられ、通常は4年以下とする。許可条件が引き続き満たされた場合などは2年間延長できる。

試験許可には、試験車両に対する個別の承認または型式認定、車両所有者及び開発の全関係者が有資格者であること、自律運転システムの無効化及びオーバーライドができることなどとともに、自律運転機能の使用数や使用時間、手動介入許可回数や時間、ソフトウェアの状態を含むエラーメモリーエントリー、環境条件及び気象条件などを含む開発コンセプトの提出などを必要とする。

■【まとめ】法制定を目指す各国の動きはますます加速

ドイツ連邦自動車局によると、同法を適用するシナリオは以下となっている。

ドイツの自動運転法を参考に、法制定を目指す各国の動きはますます加速するものと思われる。日本をはじめ、各国の動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、欧州(ヨーロッパ)法律動向(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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