「運賃で二重決済」「通信で300MB」 MaaSアプリに不満感

利用価値のあるサービスになるために何が必要?

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トヨタが展開するMaaSアプリ「my route」のサービス提供エリアが9県に拡大されたようだ。対応エリアは今後も順次拡大予定で、47都道府県を網羅するのもそう遠い未来の話ではなないのかもしれない。

MaaSアプリはmy routeのほか、東急などが手掛ける「Izuko」や小田急電鉄の「EMot」、JR西日本の「setowa」、WILLERの「WILLER」 、近鉄グループの「ぶらりすと」のほか、フィンランドのMaaS Globalの「Whim」、官民一体となって取り組む地域MaaSなど、その数を大きく増やし続けている。

実証含みで本格サービスを展開する例も多く、早くもMaaSは市民権を得つつあるようだが、そこで気になるのは利用者の声だ。

MaaSアプリを利用するユーザーは、現状のシステムにどれほど満足し、またどういった不満を抱えているのか。この記事では、Google PlayやApp Storeなどに投稿されたレビューをもとに、MaaSアプリの課題に迫っていく。

■MaaSアプリが抱える課題
エリア内のサービス事業者の網羅性

サービス提供エリア内の移動サービス事業者をどれだけ網羅しているかは、MaaSの本質とも言える重要な要素だ。

「バスや電車だけでなく自転車やタクシーも比較してくれて面白く、決済もできて便利」「電車、タクシー、バス、自転車、カーシェアなどを組み合わせ、最適なルートをアプリが提案してくれるのでとても便利」といった声が挙がる一方、「検索結果にJRなどが入らず、自社グループに限られている」といった声も出ている。

エリア内の全移動サービスを網羅できない理由はいろいろ考えられるが、ユーザー目線に立ち、エリア内の移動を最適化するためにはどのような形でパートナーシップを形成し、1つのMaaSプラットフォームでサービスを統合していくかが後々問われる。

今後、電動キックボードや自動運転モビリティなど移動サービスはいっそう多様化していく。自社利益のみに固執せず、エリア内の移動利便性を向上させ業界全体が活性化する方向にベクトルを揃えることが求められそうだ。

UI/UXの向上(アプリの使いやすさ)

UX(ユーザーエクスペリエンス)やUI(ユーザーインターフェース)は、この手のサービスで核となる要素だ。

「イベントなどでバスのルートが変わる時、お知らせしてくれる」「道やバスに加えて、外出先含めた混雑状況が分かるとさらに使えるアプリになりそう」「バスも停留所の1つひとつが全て表示されており、通過すると文字が薄くなって目的地まであと何カ所と表示され、分かりやすい」といった高評価も散見される。

中には「よく見ると、トヨタの月面探査車のルートを設定できる!?普通の乗換案内より設定できる乗り物が多く、遊び心があるのが良い」といった声もあった。

その一方で、「地図に表示されるピンが小さくて番号が見づらい」「初回乗車時の時間が短縮されて便利になったが、見にくいため乗務員に再提示を求められることがある」といった声もある。

根本的な部分では、「インストールしたものの使い方がわからない」「使い方ナビと実際の操作が異なる」といった声も出ている。直感的に操作可能なUIも必須となりそうだ。

アプリの使いやすさや機能は今後時間を重ねるごとに洗練されていくものと思われるが、その上で重要となるのがこうしたユーザーの生の声だ。アイデアや技術力だけで勝負するのではなく、利用者とともにサービス向上を図っていくような体制が求められるところだ。

決済関連の不具合も?

アプリに「付きもの」の不具合だが、決済関連の不具合を訴える声は意外と多い。

「バス1日乗車券を購入したが正常に使用できなかった。他のアプリを使用後に再起動したところ、乗車券が表示できなくなった」「エラーで乗車券が買えない時がある」「タクシーを翌日朝に指定して予約したら即手配された。タクシー会社に連絡しキャンセルしたが料金を取られた」「フリー乗車券を使用中、いざ降りるときに表示させようとしたら『アップデートが必要』としか表示されず、バス代を二重に取られた」といったことがあるようだ。

デジタルチケットを購入したものの結局使えず、キャンセルや返金対応が叶わなかったケースも出ている。ユーザーの不利益に直結しているため、これは是が非でも改善したいところだ。

また、「アプリを立ち上げてから切符を見せる画面になるまでロードが長く、かなりの時間を要する」「券を示すのに時間がかかるのが難点」「フリーパスを提示する際、起動から5回ページ移動する必要があり、通信も待たされるので改札でもたついてしまう」といった声も多い。

デジタルパスの表示関連エラーによって決済を行うことができなかったケースもあるようだ。MaaSアプリそのものの「重さ」をはじめ、他のアプリとの干渉、スリープ状態での機能維持、ハードウェア固有の問題などさまざまな要因が考えられるが、一つひとつの問題をユーザー視点でしっかり解決していく必要がありそうだ。

カスタマーサービスの対応にも課題

決済関連の不具合は大きな不利益となるため、カスタマーサービスに連絡するユーザーも多いが、「チケットが不具合で使用できず、サポートセンターに言われたとおり対応したが、購入したバス乗車券の料金は返金されなかった。自分たちの説明の仕方が悪かったと言いつつ結局は泣き寝入り」「〇〇(サービス事業者)に直接連絡してくださいと言われ、結局利用できず返金もされなかった」といった声もあった。

カスタマーサービスの多くは、事前に用意されたマニュアルのもと、マニュアルに沿った対応を行う。ただ、さまざまな事業者が結びつく発展途上のプラットフォームサービスのため、マニュアルでは対応しきれないケースも多そうだ。

ユーザーの声などをもとに迅速に問題の把握・解決を行うとともに、こうした初期対応にもしっかりと注力していかなければならない。

異業種連携もカギに

移動関連以外では、「飲食店の割引チケットが使えてうれしい」などの声も挙がっている。各地のMaaSでは、移動に利便性をもたらすとともに付加価値を求める取り組みも積極的に進められており、観光や飲食など結び付けやすい業種との連携などが盛んだ。

移動サービスの利用促進と地域商業の活性化を同時に図る好例と言える。今後、医療や不動産などさまざまな業種もMaaSと密接に結び付き、住民生活の質を向上させていくものと思われる。

MaaS間連携も必要に?

レビューの中には、「何カ国かまわる時、1つのアプリで事足りるのでとても重宝している」というものがあった。国をまたぐのはレアケースだが、長距離移動などで複数のMaaSをまたぐケースは珍しくない。その都度別のMaaSアプリをインストール・起動するのはやや億劫だ。

将来的には、異なるエリアでサービスを展開するMaaS間の連携も視野に入れておかなければならないのかもしれない。

通信負担が大きい?

「約2週間で300MBも通信していた。1日2回のチケット使用でこの量はおかしすぎる」といった意見もあった。アプリの使用には思いのほか多くの通信量がかかるようだ。

リアルタイム性が求められるため、マップの表示や各種情報の更新などさまざまな面で都度多くのデータを必要としているものと思われる。

変化なく定期利用するケースなどでは、最低限のデータ更新に抑えるなど、通信面でも一定の対策が求められる可能性もありそうだ。

■【まとめ】成長はまだ始まったばかり 今後の進化に期待

さまざまな移動サービスを同一アプリで利用可能にするMaaSの存在そのものを肯定する声も多かったが、アプリによっては不具合の多さもやや目立つ結果となった。レビュー投稿は一般的にマイナス意見の方が多く集まりやすい傾向にあるが、こうした声に向き合うことでUIやUXは改善され、アプリとしての完成度を高めていく。

MaaSの成長はまだ始まったばかりだ。決済関連の不具合は即対策・対応が必須だが、多少の不備は温かい目で見守り、今後の進化に期待していこう。

【参考】関連記事としては「MaaS解説(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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