安倍政権の肝いりで推進されている「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」(第2期11課題)の研究開発計画案の素案が2018年6月22日、判明した。自動運転の分野は、目標や研究内容、実施体制など全21ページにわたる計画案が示されている。自動運転ラボ編集部はその全貌を読み解き、4分類された研究内容ごとに計19項目の重要ポイントを解説する。
記事の目次
■目標:節目は2020年と2025年
具体的な実現時期は「官民ITS構想・ロードマップ2017」に記載されている達成年度に沿い、国際動向や技術進展などを踏まえ前倒しも検討していく。移動サービスは2020年までに限定地域で無人自動運転(自動運転レベル4)移動サービスの実現を目指す。物流サービスは2025年以降に高速道路でトラック完全自動運転(同レベル4)の実現を、オーナーカー(一般車両)は2025年を目途に高速道路での完全自動運転(同レベル4)の実現をそれぞれ目指す。
これらの実現に必要となる協調領域の技術を2023年までに確立し、実証実験などで有効性を確認するとともに複数の実用化例を創出することにより社会実装に目途をつける。
■研究内容その1:自動運転システムの開発・検証(実証実験)
①信号情報提供技術の開発
高度化した路側インフラのモデルシステム整備による実験環境を構築する。また、路側機からの直接通信以外の手法による信号情報の提供に関する検討を行う。このほか、車車間通信情報や民間車両プローブ情報(走行した車両からのデータのこと)の分析・活用による新たな情報提供や信号制御方式などについても検討する。
②路車連携・合流支援などの技術開発
高速道路でのスムーズな自動運転に向け、合流部などでの自動運転支援技術に関する検討を行う。
③車両プローブ情報の収集と活用のための技術開発
車両プローブ情報を活用した地図更新および渋滞予測などの実現に向け、必要な情報量やデータ様式などについて検討する。
④次世代型公共交通システムの開発
次世代型のバスや少人数輸送サービスに必要な技術・サービスについて、課題解決や低コスト化に向けた技術検討を行う。
⑤移動サービス実用化に向けた環境整備
地方などでの自動運転移動サービス実現に向けた実証実験を行い、路車連携技術や法制度・受容性の課題解決に向けた検討を行う。
⑥交通情報の利用のための技術開発
交通情報を多用途に展開するために必要な要件、仕組みなどについて検討を行う。
⑦自動運転技術(レベル3、4)に必要な認識技術などに関する調査研究
公道実証を通して、自動運転システムに必要な認知判断技術の要件などを検討する。
⑧準天頂衛星みちびきからの位置情報サービスに関する調査研究
高精度地図との連携など、2018年11月開始予定の準天頂衛星みちびきからの位置情報サービスの活用に関する調査研究を行う。
■研究内容その2:自動運転実用化に向けた基盤技術開発
①仮想空間での安全性評価環境の構築
同一の条件下で車両の安全性を評価する手法が必要であり、現状の車両開発における膨大な実車評価を効率化し、自動運転車両および高度運転支援システムに必要な安全性能を評価するため、センサー性能評価を中心とした安全性評価・実証シミュレーションのツール開発に取り組む。
②効率的なデータ収集・分析・配信技術の開発
実走行車両やドライブレコーダーなどから道路周辺情報や映像を効率的に収集する技術や、収集・分析した情報を特性や用途に応じて最適に配信する技術の調査・開発・実証を行う。
③ソフトウェア更新などに対応した情報セキュリティ技術の開発
通信によるソフトウェアの更新などに対応した自動運転車両の情報セキュリティの在り方を調査し、必要な技術の開発やガイドライン化に向けた検討を行う。
④自動運転の高度化に則したHMIの要件化
自動運転車両と他の交通参加者とのコミュニケーションにおいて必要なHMI(ヒューマンマシンインターフェース)の要件化を行う。
⑤自動運転に関する地理空間情報の絶対精度向上手法の検討
地理空間情報の多用途展開に向け、基盤地図情報と整合させ、絶対位置精度を向上させる手法の検討を行う。
■研究内容その3:受容性醸成
①社会受容性イベントの企画・開催(市民、地方自治体関係者、事業者との対話など)
市民や地方自治体関係者・事業者などとの対話型のイベントを実施し、新たな移動サービスの検討を加速させる。また、自動運転技術に対する正しい理解を促す。
②自動運転のインパクトの明確化
自動運転の技術レベルや普及状況などの動向を踏まえ、長期ビジョンを整理した上で事故削減効果などのインパクトの整理・定量的提示を行う。
③交通制約者(高齢者、障害者、妊婦、海外からの旅行者など)の支援に関する研究
技術面・ソフト面の双方から自動運転技術の活用可能性に関する調査・研究を行う。
■研究内容その4:国際連携の強化
①国際会議での発信
日欧米の協力体制をもとに、国際連携重点テーマについて国際標準化の議論をリードする。
②海外研究機関との共同研究
連携のメリットが期待できる研究機関との共同研究を見据え、連携テーマの探索、スキームの検討などを行う。
③Webなどでの発信
研究開発の成果を国際的に共有し、国際的に調和した技術や制度作りに貢献する。
■変わりゆく社会に対応
今回判明した研究開発計画案の素案は、自動運転技術の発展によって変わりゆく交通社会に対応するための、政府の考え方を示したものと言える。実証実験から研究開発、インフラ整備、そして海外諸国の連携まで、自動運転社会の実現に政府が担う役割は大きいだろう。