国内最大の配車アプリを運営するJapanTaxi株式会社(本社:東京都千代田区/代表取締役社長:川鍋一朗)。日本交通系でいち早くタクシー業の経営改革を進め、時代を先取りした先進的な事業を続々と展開している。
この中で、配車アプリとともに注目を集めているのが、タブレット(デジタルサイネージ)を活用した動画広告配信サービス「Tokyo Prime」だ。
同社が力を入れる「Tokyo Prime」。その概要やサービス内容を掘り下げ、同社の戦略の一端に触れてみよう。
■Tokyo Primeの概要
フリークアウトとの合弁「株式会社IRIS」が運営
JapanTaxiと広告事業を手掛けるフリークアウトが合弁で2016年に設立した株式会社IRIS(アイリス)が「Tokyo Prime」の運営を手掛ける。新たにIoT型デジタルサイネージ端末を独自開発し、デジタルサイネージ・ネットワークを配信対象とした動画広告商品「Tokyo Prime」を開発し、同年7月にフリークアウトを通して販売を開始した。
当初は日本交通のタクシーに限定していたが、2018年6月から日本交通以外の車両へのデジタルサイネージ端末の設置を開始。東京6000台、神奈川1300台、名古屋2000台、大阪1800台、京都1000台、札幌2000台、福岡1000台の計約1万5000台に設置し、全国展開を本格化させている。
2020年までに東京都心のタクシーを中心に、関連する商業施設などを含め日本全国で5万台を展開する計画で、さらに多言語や決済手段の拡充など、インバウンドへの対応も進めていくこととしている。
このほか、JapanTaxiは、クレジットカードから交通系IC・電子マネーまで複数決済が可能なカードリーダー端末と従来の広告タブレットが一体化された、業界初となるマルチ端末「決済機付きタブレットを独自開発し、2018年9月から順次全国展開を行っている。なお、従来の端末は、JapanTaxi WalletやOrigami、AlipayなどのQRコード決済に対応している。
【参考】JapanTaxiについては「【インタビュー】JapanTaxiの自動運転時代の戦い方とは 岩田和宏CTOに聞く」も参照。JapanTaxiの配車アプリについては「JapanTaxi(ジャパンタクシー)アプリの使い方とクーポンまとめ」も参照。
Tokyo Primeの強み
日本交通グループと、700万ダウンロードを超えるタクシー配車アプリ「JapanTaxi」による日本全国に広がるネットワークが圧倒的な強みだ。JapanTaxiに対応したタクシー事業者数は897社、車両数は6万台超に上る。これはTokyo Primeのポテンシャルともいうべき数字で、仮に提携業者が全車両にデジタルサイネージ端末を搭載した場合、広告の訴求効果が格段にアップするとともに、エリア別でも有効な広告を打つことができるようになる。
IRISは業務拡大に伴い、関西オフィスを2018年10月に立ち上げるなど活動拠点も創設しており、2020年までに車両5万台にデジタルサイネージを配備する計画の実現に向け、ますます加速しているようだ。
Tokyo Primeのメディア概要
全国の主要都市を走行するタクシーに設置される新世代プレミアム動画広告で、月間延べリーチ数は700万人超と国内最大規模を誇る。
2019年7~ 9月期の媒体資料によると、広告枠はDeNAと同様、料金メーターと連動してスタートする「Premium Video Ads」をはじめ、コンテンツを挟みながら2~5本目に流れる「Collaboration Video Ads」、その後ランダムに表示される「Standard Video Ads」「Target Video Ads」がラインナップされている(各広告メニューの詳細は後述する)。
ニュースを配信するコンテンツパートナーには、日経新聞電子版やフォーブスジャパン、ディスカバー・ジャパン、ヒルズライフデイリー、ミルクジャポン、GINZA SIXエディターズが名を連ねるほか、都心のイベント情報なども配信している。
広告の申し込みや掲載基準
掲載期間は1週間単位で、基本的な流れは①広告主審査②空き枠確認③仮押さえ④クリエイティブ考査⑤申し込み⑥入稿⑦掲載開始-となる。広告主審査では、同社へ企業・商材内容やクリエイティブを連絡する。それぞれメールフォーマットが用意されているので、フォーマットに合わせて連絡する。
入稿素材は、メイン動画と「詳しくはこちら」ボタンをタップした際に表示する二次元バーコード用の詳細URLや広告主名・サービス名、二次元バーコードを表示しない場合に使用する詳細説明画像、エンドキャップ画像(無償オプション)、日経電子版記事の横に掲載される静止画バナーなど。
NG業種・商材は、宗教関連や一部健康食品、通販コスメ、一部医療系、美容整形系、治験募集、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に抵触する恐れのある商材、エステ、情報商材、パチンコ、アダルト、葬儀葬祭業、業務実態が不明瞭な企業の商材など。
また、アニメーションのみで構成されているものや情報過多なももなどチープな印象を受けるものや、乗客に不快感を与えるもの、ダブルスポンサーに該当するもの、法令や業界の自主規制、公序良俗に反するものなども、NGクリエイティブ表現として規定されている。
なお、2019年7~9月期の媒体資料を参考にすると、同年4月1日にエントリーを開始し、翌4月2日には締め切っている。4月3日に成約可否の連絡とともに、空き枠状況がIRISのウェブサイトで開示される。なお、成約後のキャンセルは、規定に従って違約金が発生する。空き枠分は、4月8日に先着順で通常販売が開始されている。以後、5月13日に仮押さえの受け付けがスタートする。
【参考】「Tokyo Prime」の媒体資料のダウンロードは「こちら」から。
■広告メニュー
Premium Video Ads:全乗客にアプローチする最上位広告
乗客がタクシー乗車後、料金メーターと連動して1本目に流れる1枠のみの広告。もっともアテンションが集まる発車直後に車内空間をジャックでき、最大60秒の長尺でブランドストーリーを丁寧に伝えることができる。
想定表示回数は1週間あたり計110万回で、広告料金は600万円。表示1回あたり5.4円換算となる。無償オプションのエンドキャップ表示も5秒可能だ。
最大入稿本数は同時最大2セットまでで、途中差し替えは1週間に1回まで。配信終了後、再生数や再生完了数、詳細タップ数などのレポートが発行される。
日経電子版 Collaboration Video Ads:日経ニュースとコラボ配信
日経電子版とコラボレーションした特別メニューで、ビジネス層が情報源として活用する記事への注目度により、高い広告到達率を実現する。
Premium Video Adsに続いて2~5本目に流れ、日経の記事コンテンツが表示されている際、横のスペースに静止画を15秒表示し、続いて最大30秒の動画広告を表示する。
想定表示回数は1週間あたり計90万回で、広告料金は400万円。表示1回あたり4.4円換算となる。無償オプションのエンドキャップ表示も5秒可能。4枠用意されている。
最大入稿本数は記事横静止画が1セット、動画が最大2セットまでで、途中差し替えは1週間に1回まで。配信終了後、再生数や再生完了数、詳細タップ数などのレポートが発行される。
Standard Video Ads、Standard Video Ads[HALF]:オーソドックスタイプの広告
Collaboration Video Adsの後、ランダムで10分に1回の頻度で流れる広告。長時間乗車の場合、このStandard Video Adsが繰り返し再生されるため、1回の乗車で複数回表示されることもある。
想定表示回数は1週間あたり計90万回で、広告料金は250万円。表示1回あたり2.7円換算となる。無償オプションのエンドキャップ表示も5秒可能。10枠用意されている。
また、通常の半分となる車両5000台で表示されるStandard Video Ads[HALF]もあり、こちらの想定表示回数は45万回、広告料金は150万円。表示1回あたり3.3円換算となる。20枠用意されている。
最大入稿本数などはPremium Video Adsと同様だ。
Target Video Ads:男女別にアプローチ可能な広告
フロントカメラによって乗客の性別を推定し、男女別に絞った広告配信を実現する次世代型のデジタル広告。取得した顔画像は端末のバッファ上で性別を推定した直後に破棄される。
想定表示回数は、1週間あたり男性50万回、女性40万回で、広告料金はそれぞれ160万円、140万円となっている。枠は計10枠で、その他の仕様はStandard Video Adsと同様だ。
広告効果検証オプション:高額発注で乗客の態度変容調査を無償提供
グロス1000万円以上(1回1期間あたり)を発注すると、マーケティングリサーチによる態度変容調査が無償提供される。調査項目はブランド認知、ブランド指標・好感度・来店意向・推奨意向(ブランド認知者のみ)、購入経験(ブランド認知者のみ)、広告認知率、広告きっかけのアクションの5項目で、提携リサーチ会社のパネルから接触者を抽出し、広告効果を検証する。
■IRISのその他の動き
IRISは2018年5月、東南アジアでライドシェアなどを手掛けるO2OモバイルプラットフォーマーのGrab(グラブ)と提携し、シンガポールでGrabが所有する車両に搭載するプレミアム動画メディア「SPLIT」のトライアル提供を開始している。
IRISがこれまで提供していた「Tokyo Prime」をベースに、ライドシェアモデルに最適化を施した新たな動画広告商品で、フリークアウトグループにおけるアジアの戦略子会社「FreakOut Pte.Ltd.」を通じ、東南アジアでもよりよい動画広告メディアを提供する取り組みを進めていく方針だ。
■【まとめ】配車アプリ・動画広告とも主導権を握るJapanTaxi 今後の海外戦略にも注目
規模のメリットを生かすべく配車アプリで提携事業者を拡大し、動画広告配信サービスで収益性も向上させたJapanTaxi。2020年目標のタクシー5万台への搭載は群を抜く数字で、実現すれば同業他社から頭一つ飛び抜ける形となる。
また、Grabとの提携に表れているように、ライドシェアを含めた海外戦略も大きな可能性を秘めている。配車アプリによる規模の拡大と効率性の向上、そしてデジタル広告による収益性の向上が相乗効果を生んでいる。
DeNAやみんなのタクシーなどIT・テクノロジー系の協力ライバルが登場したが、タクシー業界生粋の革命児の活躍はまだまだ続きそうだ。
【参考】関連記事としては「タクシーへ広告掲載!主要な8形態まとめ 激アツは「後部座席タブレット」型」も参照。