注目の新広告枠…タクシー内テレビの仁義なきシェア戦い

配車アプリ大手、Uber除く4社が展開

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出典:DiDiモビリティジャパン媒体資料より

タクシー配車アプリ「DiDi」の提供エリア拡大を推し進めるDiDiモビリティジャパンも2019年12月、満を持してタクシー車内のデジタルサイネージサービス「DiDi TV」の運用を開始した。これにより、タクシー配車サービス大手5社のうちUber(ウーバー)を除く4社がタブレット端末を活用した広告事業に乗り出した格好となった。提携タクシー事業者の獲得競争とともに、広告主をめぐる競争も激化し始めているようだ。

そこで今回は、デジタルサイネージサービスを手掛ける各メディア(サービス)について、最新の状況をまとめてみた。

■DiDi TV:月間想定リーチ人数は200万人

DiDiモビリティジャパンが2019年12月にスタートしたデジタルサイネージサービス。

2020年2~3月期の媒体資料によると、月間想定リーチ人数200万人で、タブレット設置台数は5000台。メディア配信エリアは東京エリア800台、名古屋エリア600台、大阪エリア1900台、その他1700台で、三大都市圏をはじめ全国各地で随時配信エリアを拡大していく方針だ。

コンテンツパートナーには共同通信やAbemaTV、YahooJAPANなどが名を連ねているほか、スタート当初の第一弾コンテンツとして、吉本興業に所属するお笑い芸人の特別コンテンツを放映するという。

広告は、乗車後最初に流れる「Exclusive Ads」1枠に続き、コンテンツを挟みながら2~6本目として流れる「Prime Ads」5枠、その後「Basic Ads」14枠と続き、ループする。

広告料金などは、Exclusive Adsは最大60秒、想定表示回数は2月が35万回、3月が50万回で、広告料金は2月180万円(単価5.1円)、3月250万円(同5.0円)となっている。Prime Adsは最大30秒、想定表示回数は2月35万回で140万円(同4.0円)、3月50万回で200万円(同4.0円)、Basic Adsは最大30秒、想定表示回数は2月24万回で60万円(同2.5円)、3月37万回で90万円(同2.4円)。掲載期間はそれぞれ1週間となっている。

このほか、Exclusive Adsのオプションとして、乗車時のシートベルト推奨静止画とタイアップした広告や、広告放映中に「詳しくはこちら」をタップする事で放映内容が一時停止となり、詳細説明用の静止画像を表示させる機能なども用意されている。

広告分野では後発組のDiDiだが、提供エリアの拡大とともにアプリ月間ダウンロード数も2019年7~10月の4カ月連続1位を記録するなど数字を伸ばし続けており、今後の注目度は高い。

【参考】DiDiについては「タクシー配車アプリDiDi、秋田でもサービス提供を開始!」も参照。

■Tokyo Prime:デジタルサイネージ導入台数は2万5000台以上

Tokyo Primeは、国内最大の配車アプリを展開する日本交通系のJapanTaxiによるデジタルサイネージサービス。広告事業を手掛けるフリークアウトと同社が合弁会社を2016年に立ち上げ、運営を行っている。

東京・神奈川・埼玉・千葉・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡・札幌と全国主要10都市を網羅しており、デジタルサイネージ導入台数は2万5000台に上る。

日本経済新聞電子版やフォーブスジャパンをはじめ、商業施設や経済誌、ライフスタイル誌などとコラボレーションし、多彩なコンテンツを配信している。

広告は、乗車時に最初に流れるPremiumVideo Ads1枠、続いてコンテンツと交互に流れるCollaborationVideo Ads4枠、その後Standard Video Ads12枠が続く。

2020年1~3月期の媒体資料によると、PremiumVideo Adsは最大60秒、想定表示回数300万回で900万円(単価3.0円)、CollaborationVideo Adsは最大30秒、想定表示回数270万回で600万円(同2.2円)、Standard Video Adsは最大30秒、想定表示回数240万回で350万円(同1.5円)。掲載期間はそれぞれ1週間となっている。

Standard Video Adsは男女別のターゲット指定も可能で、男性指定が想定表示回数140万回で250万円(単価1.8円)、女性指定が想定表示回数100万回で200万円(同2.0円)。このほか、配信する端末を半数に抑えた「HALFメニュー」もそれぞれ用意されている。

また、新設メニューとして、ブランド広告主がスポンサードするコンテンツを、これまで静止画中心に掲載されていたコンテンツ枠に動画で掲載できる「Branded Contents」と、Standard Video Adsの枠内で配信エリアを指定できる「Area Ads」も登場する。

Branded Contentsは、Standard Video Adsと交互に流れるコンテンツ枠で、想定表示回数200万回で100万円(同0.5円)、Area Adsは札幌、神奈川・埼玉・千葉、名古屋、京都・大阪・神戸、福岡の5エリアに区分されており、エリアごとに想定表示回数10万~25万回、20~50万円(同2.0円)の幅がある。

業界トップの規模・エリアを武器に新興勢の台頭をどこまで抑えることができるかか鍵となりそうだが、JapanTaxiもまだまだ提携タクシー会社やエリアの拡大を図っており、業界トップの座を譲る気はなさそうだ。

■Premium Taxi Vision by DeNA:2020年は2万台規模に

Premium Taxi Visionは、タクシー配車アプリ「MOV」を展開するDeNAのデジタルサイネージサービス。提供エリアは神奈川県・東京都を皮切りに、京都府、大阪府、兵庫県に順次拡大しており、提携タクシー約1万4000台に端末を搭載している。2020年4月までに、2万1000台まで設置を進める方針のようだ。

広告は、発車直後の「Top Movie」1枠、続いてコンテンツを挟みながら流れる「Advanced Movie」4枠、その後の「Standard Movie」10枠と続く。

2020年1~3月期の媒体資料によると、1~3月の月ごとに想定表示回数や料金は異なり、Top Movieは想定表示回数90万~140万回で450万~490万円(単価3.5~5.0円)、Advanced Movieは想定表示回数85万~125万回で340万~380万円(同3.0~4.0円)、Standard Movieは想定表示回数80万~160万回で200万~250万円(同1.5~2.5円)。広告掲載期間はそれぞれ1週間となっている。

また、Standard Movieには京阪神エリアをターゲットとしたメニューも用意されており、こちらは想定表示回数35万~40万回で70~80万円(同2.0円)となっている。

MOVは過去、スポンサー企業とのコラボレーションによる「0円タクシー」など奇抜なアイデアも実現している。AI技術も高く、前例のない新たな広告手法の導入などに期待が持たれるところだ。

■THE TOKYO TAXI VISION GROWTH:月間700万人に動画広告を配信

GROWTHは、2019年4月に開始されたデジタルサイネージサービス。総合PR会社ベクトルの子会社であるニューステクノロジー社が運営しており、タクシー配車アプリ「S.RIDE」を展開するみんなのタクシーと提携している。

東京都内でタクシー会社5社の約1万500台に端末を設置しており、月間700万人に動画広告を配信している。

広告は、発車直後の「FIRST VIEW」1枠、続いてコンテンツを挟みながら流れる「BUSINESS VIEW」5枠、その後の「ECONOMY VIEW」10枠と続く。

2020年1~6月期の媒体資料によると、地方版と東京版のメニューがそれぞれ用意されており、FIRST VIEWは想定表示回数が地方版12万回、東京版180万回でそれぞれ60万円(単価5.0円)、650万円(同3.6~5.5円)、BUSINESS VIEWは想定表示回数が地方版10万回、東京版150万回で、それぞれ40万(同4.0円)、450万円(同3.0~4.5円)、ECONOMY VIEWは想定表示回数が地方版8万回、東京版80万回で、それぞれ20万(同2.5円)、250万円(同2.8~3.3円)。広告掲載期間はそれぞれ1週間となっている。

また、BUSINESS VIEW終了後に流れる放映課金型メニュー「TARGET VIEW」もあり、配信する時間帯や曜日指定によって最低出稿金額100万円(同4.0円)~150万円(同5.0~6.0円)が変動する。タクシーサイネージ放映とセットで乗客に商材を提供する「サンプリングメニュー」も用意されている。

このほか、接触者レポート(ブランドリフト調査)なども完備されている。

広告PRやマーケティングに強みを持つ運営母体のもと、他社とどのような差別化を図っていくかなど今後の展開に期待が持たれる。

■iScene:大手配車アプリに未加入の事業者らが支持

iSceneは、タクシー広告媒体事業を手掛けるアイマッチングが展開するデジタルサイネージサービス。関東エリアを中心に提携タクシーは全国約2万台に及ぶ。大手配車アプリに未加入のタクシー事業者らの支持を集めているようだ。

デジタルサイネージサービスリニューアルのため端末搭載台数は2019年10月約350台、11月500台とまだ少なく、順次導入を進めている段階だ。

広告は、発車直後の「The First Video Ad」1枠、続いてコンテンツを挟みながら流れる「Basic Video Ads」20枠がランダムに放映される。

2019年10~12月期の媒体資料によると、10月と11月以降で料金などに変動があり、The FirstVideo Adは最大60秒、想定表示回数18万~24万回で60~100万円(単価3.3~4.2円)、Basic Video Adsは最大30秒、想定表示回数15~20万回で35~50万円(同2.3~2.5円)。掲載期間はそれぞれ1カ月となっている。

同社はこのほか、ステッカーやリーフレット、ドアラッピングといった従来の広告も取り扱っており、こうした媒体とのコラボレーションが武器になりそうだ。

■【まとめ】伸びしろ多いタクシー広告 差別化とともに競争過熱

デジタルサイネージ事業を手掛けている企業は数多く存在し、今後、タクシー車載向けへの新規参入が出てくる可能性もありそうだ。また、タクシー配車サービス向けの広告配信プラットフォームを開発したジーニーのように、関連技術やサービスを開発する動きも加速しそうだ。

現在、各社の広告サービスは料金などに違いはあれ、その仕組みはほぼ同一だ。今後、競争激化とともに差別化を図る動きが活発になるものと思われ、さまざまな広告メニューやオプションをはじめ、アプリと連動して利用者にサービスを還元するシステムなどが登場する可能性が高い。広告以外のコンテンツ部分を充実させる動きも出てくるだろう。

実業家の堀江貴文氏も以前、公式YouTubeチャンネルの中でタクシー車内広告の有望性に言及しており、「(お金を持っている)タクシーに乗っている人たちにリーチするのは非常に良い」などメリットを挙げている。

配車アプリの普及とともにタブレット搭載車両も増加しているが、まだまだ伸びしろがある。後部座席メディアをめぐる争いはしばらくの間過熱の一途をたどりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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