横浜市の新交通システム「シーサイドライン」で2019年6月に発生した自動運転列車の逆走事故。運輸安全委員会が2021年2月26日までに調査報告書を公表し、列車の進行方向をモーター制御装置に伝える「指令線」が断線し、事故につながったと考えられると明らかにした。
■列車に乗車していた25人中17人が負傷した事故
この事故は、列車が始発駅の新杉田駅を発車後に進行方向とは反対方向に進行し、線路終端部の車止めに衝突したというもの。列車には25人が乗車しており、そのうち17人が負傷した。
報告書では、逆走を検知する機能がなかったことで非常停止などの対応ができなかったことも指摘している。
■事故調査報告書における原因の概要説明
ちなみに原因の概要としては、以下のように説明されている。少し長いが正確を期するため、そのまま引用したい。
本事故は、新杉田駅における折り返し時に、本件列車が列車の進行方向である下りと反対方向の上りに発車して、線路終端部の車止めに衝突したため発生したものと認められる。
本件列車が進行方向の設定と意図せず力行して逆の方向に発車したことは、列車の進行方向をモーター制御装置に伝える指令線のF線が1両目で断線して無加圧状態となり、2000型車両のモーター制御装置が進行方向のメモリ機能で維持していた上り方向にモーターを駆動したためと推定される。さらに駅ATO車上装置がモーター制御装置への入力とは別の運転台選択用の指令線の加圧状態により進行方向状態を地上に送信していたため、駅ATO地上装置は列車の進行方向が正常に設定されたと認識し、また後退検知機能や他の手法により本事故のような逆走を検知する機能がなかったため、非常停止などの対応ができなかったものと考えられる。
F線が断線したのは、機器室内のF線を含むケーブル束に電線側の保護材の取付けが十分に行われずに配線され、ステンレス製の妻土台に接触していたが、配線作業後に検査されなかった結果、車両の走行中の振動により妻土台の上面との摩擦でF線の絶縁体が徐々に摩耗して妻土台に地絡したためと考えられる。
本事故の背景には、2000型車両の設計・製造プロセスにおいて、同社、車両メーカー及び装置メーカーの間で設計体制、基本的な考え方、仕様等の認識に関する確認・調整や、設計前に安全要件の抽出が十分に実施されなかったために、逆走の発生に対する危険な事象の潜在的な原因が発生し、また、安全性の検証が不足したため、この危険な事象の潜在的な原因があることや、逆走等の異常状態に対する安全確保が不足していたことに気付かなかった可能性が考えられる。
出典:鉄道事故調査報告書(RA2021-1)株式会社横浜シーサイドライン 金沢シーサイドライン 新杉田駅構内鉄道人身傷害事故(https://www.mlit.go.jp/jtsb/railway/rep-acci/RA2021-1-1.pdf)
■【まとめ】事故の教訓を生かすことが重要
シーサイドラインでは事故後、進行方向に関する回路が異常をきたした場合に車両が出発できない仕組みを導入し、状況を司令所でも確認できるようにした。さらに二重の対策として、それでも車両が動いたときに備え、非常ブレーキの自動稼働システムも実装した。
こうした再発防止対策の有効性が国土交通省設置の検討会で確認されたこと受け、シーサイドラインは2019年8月末から自動運転での運行を再開している。
ちなみに日本国内では神戸新交通の「ポートライナー」や「六甲ライナー」、大阪市高速電気軌道の「南港ポートタウン線」、ゆりかもめが運営する「東京臨海新交通臨海線」などでも自動運転での運行が行われている。
同様の事故を国内で再び起こさないためには、今回のような事故の調査結果を各社が活用することが求められてくる。
【参考】関連記事としては「【解説】見直すべきは「自動運転」にあらず シーサイドライン事故から考える」も参照。